ジロー、コケる
14.ジロー、コケる
快調に走る。エンジンも、アクセルに素直に反応し回転を上げる。
ストレート。コースの左端。3速から、4速。上げてアクセルを開け回転が上がったところで右コーナーが迫る。インベタ気味にコーナーを右にぐるり。立ち上がれば、ストレート……加速!
『だんだんと、コースに慣れてきた。アクセル、ブレーキ、倒しこみ、シフトチェンジ。』
少し、ほんの少しずつさっきよりもスムーズに走れる気がする。
快調に周回を重ねる。相変わらずほかのバイクに何度も抜かれるけど、さっきよりは少しマシ?
そして、また抜かれる。
『速い、けど、こっちも少しはペースが上がっているんだ。』
だけど、相変わらず5・6周もしないうちにまたすぐに迫ってくる。
『今度は、CBR250Rか。次のストレートか?』
最終コーナーを廻って、アクセルを開けた。
『あっ!!』
リアタイヤのグリップが抜けた!そう思う間も無く
《ガキュッ!!ガガ!》
空が、変な角度で見えた。
右腰が路面と擦れる。右手のひらでと腕で身体の滑りを止めようとアスファルトを抑える。
身体がすぐに止まった。
『NSF』
すぐ前で横倒しになったNSF。身体をすぐに起こし、ほんの2・3歩を駆け寄る。
『身体は、どこも痛くない。スピードがゆっくりだったから……バイクは……』
路面と設置している右側
『ハンドルバーエンドが削れている。でもすぐにバイクかたさなくちゃ!』
後から来ていたはずのCBR250Rは、コースから出ていた。他のバイクも一旦コースの外に出て行く。
NSFの下に手を差し込んで、ガッと起こす。ミニバイクはその軽さから難なく起き上がった。
『カウルが少し傷ついたか。でも、思ったほどひどくない。やっぱりスピードがゆっくりってことと、バイクが軽いからか』
出口は後ろだ。
『バックで戻るか?』
ジローは少し後ろへバイクをバックさせ始めた。そのとき、コースの中程、草刈機で草を刈っていた賀茂田が気付いて駆け寄ってきてくれた。
「こけたか?ケガは?」
そう言いながら、ジローとバイクの傷を確認するように見た。
「大丈夫、身体はなんともないです。すいません。」
「よかった。バイクの向き反対に直しちゃうか。」
そう言って、ジローからバイクを受け取ってコースの中で素早く向きを変え、すぐ後ろの侵入口に向かって早足でバイクを押して出た。そこでトシが待っていた。
「ジローさん、大丈夫っすか?」そう言いながら賀茂田からNSFを受け取った。
「ああ、大丈夫」
ジローの顔を確認してトシはそのまま、トランポの軽ワンボックスの後ろまで押していった。
「コースにゴミ落としてないか、確認しないと。」ジローがコースを振り返ってそういった。
「さっき路面見たとき何も見えなかったから、大丈夫だ。身体は、どうだい?」
賀茂田が心配してくれた。
「大丈夫でした。おかしなところは無さそうです。今動いても何でもないから。すいません。迷惑かけちゃって。」
手のひらが路面を擦ったとき少し突いた。少しジンジンするが、大したことはない。
「せっかくのきれいなバイク、傷ついちゃったね。」
「でも、思ったほどひどく壊れなかったから、よかった。」
「じゃあ、気を付けて」賀茂田は、ジローの様子から、大丈夫そうなことを確認すると自分の仕事に戻っていった。
改めてゆっくりバイクを確認しに車に向かった。
「カウルの角、ステップ、バーエンド、ブレーキレバー。あとステップの先、傷ついてますね」トシがしゃがんでNSFをのぞき込みながらそう言った。
「でも、そんなもんか。身体がなんとも無くて、バイクもこの程度なら、マシなほう。しかし……やっちまった」自分の技量が無いにもかかわらず、調子に乗ってやりすぎてへまをした。
「走るには影響なさそうですけどね」トシが後輪にレーシングスタンドを掛けてタイヤやチェーンの動きを確認した。
「うーん、でも、気分が下がっちゃったなあ」平静を装っているが、動揺している。「マシンは、このまま走らすこともできそうだけど、気持ちよくってわけにはいかないか。カッコ悪いが撤収だな」