ジロー、バレと出会う
10.ジロー、バレと出会う
ジローたちから車2台分開けた奥側に、幌付きの軽トラが止まっていた。その後ろに人がいる。「おはようございます」ジローは、新入りとして先に挨拶をした。
その男は、軽く頭を下げた。いこいサーキットの常連なのか。30代前半位の男、馬場零士。車のわきにはアプリリアRS125。イタリアの2サイクルレーサーレプリカ。ピカピカに磨かれている。もちろんジローとトシには、どんなバイクかは知らなかった。しかし、高そうで速そうだということはわかった。
「だいぶ寒くなってきたから、走り始めは気を付けたほうがいいですね。路面もタイヤも冷えていてグリップしないから、いつもよりウォームアップを長くしとかないと危険になってきましたね」黒いジャージの上下で身長は175㎝を超えるくらいか。かなり痩せ型で、筋力もなさそうに見える。ジローは、マニアかオタクのようだとの印象を受けた。
「そうなんですか。気をつけますよ。でも、まだ初心者っていうか、今日初めてなんで。だから、体験走行程度で。邪魔でしょうが、ゆっくり走らせてもらいますから」
「あっ、やっぱりそうなんだ。常連の僕が見たことないから、そうかなって思ったんだけどね。僕なんかは、走り始める前にタイヤウォーマーで十分温めてからコースインして、レコードラインを2・3周確認して徐々にペースアップでしょ。で、周りとの兼ね合いでクリアラップ取れたら、ゴーッ!って感じ。まあ、それぞれ自分のペースがあるから、慣れてきたらいろいろ試してみたらいいですよ」
「はあ、参考にしてみます」ジローにはまだ関係なさそうなアドバイスに適当な返事をする。
「二人して走るんですか?」馬場はジローの後ろで装備を車から降ろしているトシを眺めてそう言った。
「あ、いや走るのは、この人だけ」トシがジローを指さした。そう言ってエアーゲージを工具袋から取り出した。
「そうなんだぁ。じゃあ、お互い頑張りましょうか」にっこりと笑顔でそう言って離れて行った。
「あ、はいどうも」ジローは適当な返事をした。「なんか、少しうれしそうだったな」
「ジローさんがおっさんで、大したことなさそうだったから、安心したんじゃないですか」トシは、タイヤの空気圧を確認している。
「なるほど。ってことは、あいつも大したことないってことだな」
「なんか、安心しますね。」
「ああ、ビリビリした走り屋とかだったら、こっちがビビるからな」
「まあ、最初はみんな初心者ですから気楽にいきましょ」
「ヤッパ、トシと一緒に来てよかったな」
「ジローさん、あれ、見てくださいよ。さっきの人」
「何?」そう言って振り向くジロー。馬場がストレッチをしていた。しかし、その体の関節が、おかしな方向に曲がっている。開脚も、180度以上、広がったり、反り返りも、頭が尻に着くかと思うような曲がり方だったり、逆に内側に曲げれば、尻が馬場の目の前に来るほどの曲がり方だったり、その異常なまでの柔らかさに、トシとジロー目は釘付けになった。
「すげえな……」
「は・い」