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下妻サーキット  作者: のーでーく
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ツバメが飛んだ日

1.ツバメが飛んだ日

「すごいなツバメ!ピユーンて加速して、シュイシュイってカーブを曲がって!鳥の燕が飛ぶみたいにスイスイ走り回って。父さんが見ててもきれいで気持ちいい走りだったぞ。天才なんじゃん。すごいすごい!」父さんに褒められた。

9歳になる年の6月のはじめ、父さんと一緒にカモジー、賀茂田のおじさんの会社のいこいサーキットを初めて見に来た。

もともとは、自転車で遊ぶところだった。そこをカモジーの行っていた運送会社の社長さんが、若い運転手さんが暴走族にならずにそこで遊べるようにと買った場所だった。経営は、社長の奥さんがやって、整備や管理、運営をカモジーやるんだって。そこがサーキットとしての整備ができたとき、幼馴染のお父さんとツバメが遊びに行ったんだ。

NSRっていうミニバイクをカモジーが出してくれた。でも、カモジーは、凄く大きな人だから、ミニバイクは小さすぎた。やっぱり子供が乗る物じゃないかって思って、ツバメ乗せようってお父さんに連絡してきた。カモジーは結婚してなくて、子供もいない。ツバメが乗るために新しいヘルメットも買ったって言ったから、父さんもツバメの都合も聞かないでOKしたんだ。ツバメは女の子なんだからってお母さんが怒ったけど、その日は平日なのに学校が休みで、お父さんは仕事を休めるけどお母さんは仕事だから、しょうがないって言ったんだ。

初めてきたサーキットは、ただの田舎の林や畑の中にアスファルトの道がぐにゃぐにゃ曲がりながらつながっているコースがあるだけ。遊具なんかは全然無くてがっかりした。でも、父さんとカモジーがなんか嬉しそうにはしゃいでいたからツバメも楽しくなった。ツバメたち以外は誰もいなかったから、貸し切りで好きに使えた。

最初、カモジーがミニバイクに乗って見せた。そしたら、テレビで見たことあるサーカスの熊みたくて面白かった。でも、カモジーのお尻がバイクのイスからはみ出してお尻が痛くなった。次に父さんが乗った。父さんはカモジーより大きくないけど、やっぱりミニバイクは小さくて、乗るのが下手だった。

それを見てたから、最初怖いのかと思ってたツバメの気持ちが少し変わって、乗ってみたくなった。

ヘルメットとローラースケートするときの肘と膝のプロテクターと硬い手袋をしてバイクに跨った。ツバメは、父さんと一緒に自分の足で付いて走った。カモジーが後ろでバイクを支えてくれて、父さんが横でツバメの背中を掴んで、転ばないように支えてくれた。

慣れたから、バイクのエンジンもかけてみた。音が大きかった。

「いいか、左のレバーをギュって握っていられるかい?」

「うん、少し大変で、手が痛い。けど、少しの間なら大丈夫」

「そしたら、左足の先にあるペダルをギュって上につま先で持ち上げてごらん」ツバメは下を見て、ペダルを上に持ち上げた。少しガチャって言った。

「出来たね。じゃあ、次は、左手を少しずつ開いていこうか。それに合わせてカモジーがバイクを少しずつ押して動かすから、ハンドルをちゃんと持っているんだよ」

「うん」ツバメは言われた通り左手を少しずつ開いた。それに合わせてカモジーがバイクを押してくれ、動き出した。

「よーし上手いぞ」父さんも一緒に動き出した。カモジーと父さんが少し速足で走っている。

「ツバメ、上手いな。俺よりカッコいいぞ」カモジーが後ろで大きな声で言った。

「よーし、じゃあ、次はギヤチェンジ。セカンドで走るよ」ツバメは何のことかわかんなくて父さんが言うのを待った。

「じゃあ、また左手のレバーをギュって握ってごらん」ツバメは並んで走っている父さんの言うとおりにした。

「そしたら、左足のペダルを一回踏んで」ガチャッとした。

「で、左手をゆっくり放してごらん」やってみた。そしたら、エンジンの音がゆっくりになった。

「上手いぞツバメ!」父さんがそう言った。

「スゴイ!シフトアップだ。ツバメ、天才!」おじさんも言った。

「よーし、次はカーブだ。父さんとおじさんがツバメとバイクを支えているから、安心して。バイクを少し傾けるけど倒れないからね。しっかり前見て、下見ないで曲がる方の先を見るんだよ」返事は出来なかった。けど、父さんが言った通りカーブの先のほうを見ながらバイクを進ませた。

「よーし、上手いぞ。そのまま走らせろ。父さん、ツバメを掴んでるから、大丈夫だから」

「ツバメ、上手いぞー」そうやって4個のカーブを曲がって元のところまで戻った。

「一回休憩しよー」カモジーが大きな声で言った。


「ツバメ、上手いな。初めてとは思えん。天才か?天才だな」カモジーがそう言った、でも、苦しそうにハアハアしてる。父さんもハアハアしてる。

「ツバメは、バイクの天才だけど、父さんとカモジーは、走る才能が無いから、物凄くくたびれちゃった。ちょっと休憩」

「休憩したら、また乗っていい?」

「もちろんだよ。練習するともっと上手くなるから。天才が、大天才に近づくぞ」

「今度、カモジー、ツバメの父さんと交替していい?」

「いいよ。でも、まだツバメ、一回しか乗ってないから、乗るのはツバメだよ」


そうやって、バイクの乗り方を少しずつ教わって、ちょっとだけ乗れるようになった。

「ツバメがちゃんと飯食って、大きくなったら、モトGPライダーになって、父さんと一緒に世界中でレースをし続けて、世界チャンピオンを目指すか」父さんが自分の足で走る横で、だんだん速く走れるようになった。カモジーは、後ろにいたけど、もうついてこれないくらい速い。

「うん。でも、外国行くのは、ちょっと怖いよ。」

「父さんも一緒に行くから、大丈夫さ。楽しみだな」

「楽しみだね。でも、今のが楽しい。」


そんなことは、少しも実現しなかった。あんまり大きくもならなかった。モトGPライダーになれなかった。海外にも行ったことが無い。世界チャンピオンを目指せなかった。お父さんも、早くに亡くなった。ただ、バイクだけは続けていた。



下妻サーキット。パドック。多くのレーシングマシンとライダーたち、メカニックがいる。その中に、ひときわ小柄な女性ライダーが、ピンクのライディングスーツを身にまとい、ピンクがベースでカラーリングされたヘルメットを被った。シモツマ選手権。GP4クラス マシンは、CBR400R 4ストローク2気筒。399cc

「ストレートの加速と最高速で、他のマシンよりスピードが出てないから、セッティングを煮詰めるためにもなるべく先にコースに出て、変更箇所を決めて行こう」無精ひげの大男が、頭にピンクのタオルを被り、同じピンクのタオルを首にかけ、くたびれた作業用ツナギを着ている。そのすべてにいこいサーキットの文字が入っている。賀茂田だった。

「カモジー、サインボードで自己ベストとのラップ差だけお願い。じゃあ、出るね」ライディングスーツの背中の文字は、TUBAMEだ。


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