プロローグ
「早く逃げなさい!!」
「いやや!」
「もう、どうしたら……」
立ち込める土煙の中、俺は母さんに抱きついて離さへんかった。
母さんは覚悟を決めたような顔になった。
ーもうこうなったらー
「八彦。よう聞いて」
そして、俺と目をしっかり合わせた。一瞬ためらい、目をそらす。そしてもういちど目を合わせた。
「私ね、本当は八彦のことが……」
ついにその目から涙がこぼれた。
「うっとうしいのよ!!!」
「……え?」
俺は何を言われたかわからへんまま、母さんにすごい力で突き飛ばされた。
放心状態で動けへん俺に母さんは泣きながら、そこらへんにあるものを手当たりしだいにかぶせてきた。
-今まで俺に注がれてきた愛情はなんやったんやー
そう思うと憎しみ以前に悲しさがこみ上げてきて、ただ泣くことしかできへんかった。
しばらくしたら、
グサッ
と、いやな音がした。
積み上げられた瓦礫のすきまから外をのぞくと赤い水が流れてきた。
どこから流れてるんやろうと思って流れてきた道をたどったら……母さんの頭やった。
体が硬直して、また放心状態になった。
無意識のうちに、脳みそが目の前の光景を否定した。否定して否定して否定しまくった。
でも、その光景は変らへんかった。
そのうち心拍数が異常なほどあがって気を失ってもうた。
なんでこうなってしもたかというと、この日の前日に起こった超大地震が原因やった。
マグにーチュード11.5なんちゅうふざけた数値の地震が地球を襲った。
震源地は運悪くこの日本|(あとで知った)。
当然、被害は地球全体に行き渡って、あらゆるものを破壊しまくった。もちろん俺と母さんが住んでたぼろいアパートもこっぱみじんや。
1日目は運よく外出中で何とか生き残った。
そんで2日目にはなんか変なのが急に襲撃して来て、今に至るちゅうことや。