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コラボor二次創作

トラブル・プレゼント

作者: 風白狼

 私たちが宿に泊まっていたときに、その事件は起きた。


「こんちはー。デュライアさんはいますか?」


 そう言って、緑色の鱗をしたリザード族のヒトが部屋へ顔を覗かせた。宅配員なのか大きな荷物を背負っている。


「私が満月(デュライア)ですけれど、何かご用ですか?」


 私が尋ねると、配達員のヒトはほっとしたようにはにかんだ。


「あなたにお届け物です」


 そう言って、背負っていた荷物をドサリと床に下ろした。カラフルな袋で包まれていて、何となくクリスマスプレゼントを思い起こさせる。袋の口はきらびやかなリボンで結ばれている。


 それだけならよかったんだけど。問題は、そのサイズだった。明らかにでかすぎる。下手したら私自身すっぽり収まってあまりあるほどではないだろうか。しかも、今動いた気がする。不審に思って配達員のヒトに尋ねようとしたけれど、彼は置いたと思うとさっさと帰ってしまった。後には得体の知れない大きなプレゼント(らしきもの)が残される。


「ど、どうするんスか、これ…?」


 困ったようにアッグが尋ねてくる。いやそう言われても、私だって困ってるんだけど。


「……とりあえず、中身を確認しよっか」


 そう言って、大きな袋に手を掛けてみる。あれ、何かこれ生暖かい…? 嫌な予感しかしないけれど、私は意を決してリボンをほどいた。袋の中から現れたのは、不良顔で赤目赤髪の――


涼護(りょうご)さんっ!?」


 彼が入っていた。乙梨(おとなし)涼護。何でも屋を営む男子高校生だと聞いている。その彼が、どういうわけか手足を折り曲げた状態で縛られて綺麗にラッピングされていたのだ。彼は何か言いたげにうなっていた。見れば猿ぐつわをされていて、喋れないらしい。私はそれを外してあげた。


「ぷはっ! はあ、はあ……」


 よほど苦しかったのか、涼護さんは荒く息を吐き出す。


「にしても、なんでこんなことになったんスか?」

「知るか! ()()さんに突然縛られて袋に詰められたんだよ!」


 アッグが怪訝な表情で尋ねると、涼護さんはカッと目を見開いて叫ぶ。ちなみに、詩歩さんというのは彼の師匠に当たる女性の名前だ。


「……縛ったまま送り返しておけ」

「んだとコラァ」


 呆れつつトゲを含ませてカイトは言い放つ。もちろん涼護さんも黙っていなかった。ドスの利いた声で反論し、縛られたままだというのにカイトを睨み付ける。……どうしていきなりけんか腰なのだろうか、この二人は。私はこめかみの辺りが痛くなるのを感じながら、ため息を吐いた。


「涼護さん、ほどきますからじっとしていてください」


 私がそう言うと、今にも飛びかからんばかりの体勢になっていた彼はすっと大人しくなった。多分、窮屈な縛られ方をしているのが原因だと思う。しかしほどくとは言ったものの、硬く何度も結ばれていて素手ではびくともしなかった。仕方なく、魔力を集め始める。意思は魔力に宿り、彼を縛る紐を消滅させた。涼護さんはしばらく拘束の消えた腕を見つめていたが、やがて立ち上がってぐっと伸びをする。


「……ふう。ありがとな、満月(デュライア)


 そう言って、無骨な手のひらが私の頭に乗った。ぽんぽんと髪の毛で跳ねるように撫でられる。まるで、小さな子共にするように。子供扱いされたといらだつのではなく、私はどこか懐かしいと感じていた。不器用だけど優しい、この手はまるで――



「何やってやがる」


 不意に声と共に体が引っ張られた。驚いて見上げると、そこにあったのは苛立ったカイトの顔。彼は眉間にしわを寄せ、口の端をひくつかせていた。


「あァ? 礼を言っただけだ文句あるかコラ」

「何が『礼を言っただけ』だ。気安くこいつに触ってんじゃねえ」


 カイトが私を背に隠すように立ちはだかれば、涼護さんはむっとしたようににらみ返した。赤と紫の瞳が互いに火花を散らし合っているようにも見える。空気はぴりぴりしていて、まさに一触即発の雰囲気だ。


「てめえは一発ぶっ飛ばしておかねえと気が済まねえ…!」

「上等だ、かかってこいやオラァ!」

「ふ、二人とも落ち着くッス!」


 今にも殴りかからんとしていた二人の間に、アッグが慌てて止めに入った。だが、それくらいでは二人の勢いは止まりそうにない。


「止めるな、アッグ!」

「巻き込まれたくなかったら下がってるんだな」


 一応はアッグに押しとどめられているものの、カイトは得物である傘に手を掛けているし、涼護さんは涼護さんでポキポキと指を鳴らしていた。


「止めますよ。こんなところで問題を起こさせる訳にはいきませんから」


 呆れたようなため息と共に、ミシュエルが割って入ってくる。彼がやんわりとカイトを押さえたことで、アッグは涼護さんを押さえるだけに専念していた。


「ちっ……」


 あからさまな舌打ちをして、カイトがぷいとそっぽを向く。問題を起こす訳にはいかないと判断したのか、傘を握っていた手を下ろした。とはいえ承服しかねているようで、彼は目に見えて苛立っていた。

 涼護さんの方は不機嫌な顔をしていたが、拳を引っ込めて腕組みしている。あっさり引き下がったことからして、もしかしたら応戦するだけのつもりだったのかもしれない。だとすれば。


「すみませんでした、涼護さん。カイトが迷惑をおかけして……」


 大柄な彼の前に進み出て、ぺこりと頭を下げる。せめて誠意だけでも伝えておく必要があると感じたのだ。顔を上げてみると、涼護さんはやや面食らったような顔をしていた。


「別に満月(デュライア)が謝ることじゃないだろ」


 困ったように瞳を揺らして、彼は頬を掻く。その横から、アッグが口を挟んできた。


「そうッスよ。デュライアは真面目すぎるッス」

「けど……」


 私が言いよどむと、涼護さんははあ、とため息を吐いた。


「俺は気にしてない。だから、そんな顔するな」


 見かけに反して穏やかな声色で彼は言う。なだめるように大きな手が頭の上に乗った。……あれ、なんでだろう。今一瞬で空気が凍り付いた気がする。主に後ろから気配を感じるが、できれば振り向きたくない。


「カイト、男の嫉妬は見苦しいですよ」

「うるさい、嫉妬じゃねえ!」


 ミシュエルの呆れた声が耳に届く。それに続いてカイトの激高した声が聞こえてきた。ああ、やっぱりこの気配はカイトの苛立った視線だ。背中を向けていてもわかるほど殺気立っている。と、ふいに体が抱き寄せられた。


「なんだ、悔しいのか?」


 今までで一番近くから声が聞こえた。私の顔はちょうど彼の胸の辺りで、命の鼓動さえも聞こえてくる。


「り、涼護さんっ!?」


 私は素っ頓狂な声を上げてしまった。見上げれば、意地の悪い笑みを浮かべた涼護さんの顔がある。混乱して離れようと胸を押すが、頑丈に鍛えられた体は私の力ではびくともしなかった。むしろ、回された腕の力が強くなった気さえする。


「なっ……デュライアから離れろ!」


 凄まじい勢いでカイトは涼護さんにつかみかかった。それでも涼護さんの手は離れていないから、私は二人の間に挟まった格好になってしまう。どうしよう、これじゃ身動きがとれない…!


「そこまでです」


 凜とした声が響いて、圧迫感が消えた。ミシュエルが二人を引き離したのだ。いつの間にか、涼護さんの手も離れている。しかしカイトは相変わらず瞳に殺意を宿している。


「どいてくれ、ミシュエル」


 不機嫌さを隠そうともせず、カイトはミシュエルさんを睨む。ミシュエルはエルフの尖った耳を心なしか少し下げた。


「まったく、ここであなたたちが争っても何もないでしょう。誰を選ぼうと、デュライア本人の気持ち次第なのですから」


 ミシュエルはそう言って二人を諭している。その言葉に、カイトと涼護さんの目の色が変わった。


「……なるほど、一理あるな」

「あんた、いいこと言うじゃないか」


 そう呟くと、二人ともほぼ同時に私に向き直って――


「「俺とこいつと、どっちが好きなんだ?」」

「――へっ!?」


 尋ねられた問いに、私は硬直してしまった。いやいや、意味わからないし。言葉の意味はわかるし流れも理解できなくはないけれど、単刀直入にもほどがある。私が何も言わないでいると、二人にがしっと肩を掴まれた。


「答えろ、デュライア」

「ああ、ホントはお前、どう思ってる?」


 逃げられないまま二人に詰め寄られる。私の背はそんなに高くないから、のぞき込むように見下ろされてしまう。


「い、いやそんないきなり言われても……」


 正直、誰が一番か、なんて考えたことがなかった。みんなそれぞれ違う個性を持っていて、こういうところが好きだ、っていうならまだわかるんだけど。しかしカイトも涼護さんも私が答えるのを待ってしまっている。仕方がない、こうなったら素直に全部言ってみよう。



「えっと、なんて言えばいいかわからないけど――涼護さんは強面で不器用だけどロクみたいに優しいところがあって、カイトは口も愛想も悪いけど、ロクみたいに私のことを心配してくれてるってわかるし、えっとそれから――」


 つたないけれども正直な思いをつらつらと並べていく。ふと顔色をうかがうと、二人とも怪訝な顔をしていた。どうしたんだろう。私何か変な事言っただろうか?


「デュライア、“ロク”って誰ッスか?」


 アッグがきょとんとした顔で尋ねてくる。どうやら、いつもの癖で六厳善(ろくがんぜん)のことを“ロク”と呼んでしまっていたらしい。


「ほら、前に言わなかったっけ? 私の育ての親のことだよ」


 そう付け加えると。盛大なため息が聞こえてきた。驚いて振り向けば、肩を下げたカイトと何ともいない微妙な表情をした涼護さんの姿が映る。ミシュエルに至っては、ちょっと笑ってるし。……正直に言っただけなのに何でこうなったんだろう。おかしなことは何も言ってないはずだけど。尋ねてきてもまともな答えは返ってこず、結局謎のまま時間が過ぎたのだった。

という訳で書いちゃいました、コラボ作品。元々は「りと打って最初に出てきたものがクリスマスにもらえる」というタグで、「涼護さん」と出てきてしまったのが元ネタです。『Solve』の作者である紫音さんと話していたら話が固まってきてしまったので勢いに乗ってそのまま←

 完全に自己満足です紫音さんごめんなさい…m(_ _)m

そして面白いネタとキャラをありがとうございました!

興味を持たれた方は是非『Solve』の方も読んでくださいませ。

http://ncode.syosetu.com/n8549bh/

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