後日談 桃太郎と鬼が島
後日、桃太郎は昔話のように大量の宝物を持って、村へ帰りました。一緒に鵺と猫と沢山の鬼たちも。
鬼たちは話してみると気のいい連中で、数日も立つとすっかり村人たちと仲良くなっていました。
「赤鬼どん、筋肉バ○ターのやりかたはこうかえ?」
「ちげーよ村長さん。こうだよこう!」
「いや、どっちも違うんだけどっ、こうなんだけど! つか、なんで俺が筋肉マ○の技お年寄りに教えてるわけ!?」
赤鬼は盛大にツッコみますが、耳の遠いのがこの連中です。聞く耳なんて、最初から持つ気がありません。楽しければいいのです。
「おいこらナレ猫!ちゃんとしやがれっ。なんで俺だけ鬼が島がなくなってもこんな扱いなんだよ!!」
知りません。あなたの運命です。受け入れなさい。そして悟りなさい。信じる者は救われる~…。
「やだよそんな運命。鬼が悟り受け入れちゃったら別の者になっちゃうよ!?」
さて、青鬼はといいますと…――「もしもーし? ねぇ、聞いてる?」――黙りなさい、野菜屋の赤鬼おじさん。野菜に埋もれて圧死でもしてなさい。
「くすんっ……」
赤鬼は村の屈強な老人たちに、揉みくちゃにされながら涙した。
そこへ青鬼が村の若者を引き連れてやってくる。
「お~い、今日も一日元気に赤鬼を苛め……赤鬼に相手してもらって、立派な剣士になるんだぞ~?」
「ちょっ、青鬼、お前今苛めって言った? なぁ、云ったよな?」
ぐしゃっ――「悪い。踏み潰しちまったから、今日は俺が相手してやる。さぁ、かかってこいや!」
彼は部下だった鬼たちを赤鬼と共に纏め直し、村で剣道場を開いたそうな。
「……なんで、俺だけいつもこんな雑な扱いなの…? なんで魚屋の青鬼兄ちゃんが…ぐえっ」
青鬼に地面に踏みつけられる赤鬼。
「黙れ。俺にひれ伏せ這いつくばれ死ね。」
黙りなさい。あなたの出番は終わりました。
「……ヒドイ…」
そのまま赤鬼は井戸の底に落ちて行きました。行先は海です。後に流れ着いた島で、第二弾、鬼が島王国を結成して、美人なお嫁さんを貰い、幸せに暮らしたそうな…リア充爆発しろ。
「お~い、猫。元気にやってるか~?」
久々に桃太郎の内に鵺が遊びに来ました。件の猫は鬼が島がなくなったその後、気まぐれを起こして桃太郎の内に住み着いたのでした。数匹の幽鬼たちの頭として。お手伝いさんとして。
「うみゃ?」
板間で丸くなって寝ていた猫は、友の来訪を喜び、尻尾をひとつ振りました。台所では数匹の鼠と幽鬼たちがおばあさんの手ほどきを受けつつ、料理の支度をしています。
「ああ、いい匂いだ。」
家の中に漂う甘いような、懐かしいような何とも言えない匂い。外を見れば鬼たちが村人共に子どもと戯れ、レスリ○グや筋肉での哲学を語り合い、仲良く一緒に暮らしています。家の中を見れば、桃太郎はおじいさんの膝の上で口にあんこを付けたまま眠っていました。
なんと平和な事でしょうか。
その日、鵺は桃太郎の家に泊まって行きました。
「猫さん、ありがとね。」
「いやいや、僕はなにもしてないよ。しいて言えば桃太郎のお陰。君のお陰でこの村は街になり、平和になったのさ。」
猫は優しく笑い、桃太郎の頭を撫でました。
「えへへ……もう、面倒だから、猫さんにいろいろ任しちゃう!」
「え、それは困るんだけど。勉強とかあんまりできないから。」
「なら、宿題も仕事もみ~んな鬼さん達に任せればいいんだ!」
「それだと桃太郎の存在意義がなくなっちゃうよ?いいの?」
「むむむむむむむむ…。しょうがない。自分でやるか。」
「ははは、そうしなよ。だって、これは……………夢なんだから。」
夕暮れ時の学校にある映写室。
性別不明の“猫”は笑い、小さな女の子“桃太郎”もまた笑います。
「それにしても変な映画だね。」
“桃太郎”は机にノートと教科書を置き、片手にペン、もう一方に桃まんを持ち、むしゃむしゃと食べながら先程見た自作映画の感想を述べました。
「おいおい、仕方がないだろう? 誰かさんが桃太郎やるならきび団子じゃなく、大好きな桃マンを腹いっぱい食べたいって言うから……お陰で苦労したぜ。」
苦笑してそう申すのは“猫”の友人である“鵺”青年。学校の制服を着て、行儀悪く机の上に座っています。
その隣には“青鬼”で、魚屋の倅である部長の青年と、顧問の先生も務める八百屋のおっさん“赤鬼”が。
「仕方がないだろう。この映画はもうすぐ病気で入院する“桃太郎”の為に撮った私的映画だ。まあ、技術の未熟さと時間の関係上グダグダなモノが出来上がってしまったがな。」
「青鬼の若造め、芝居中ず~っと俺の命、本気で狙っていただろう?」
「は? 当り前だ。赤鬼の野菜屋め。この間貸した競馬の金返せ。ほぼ丸一年言い続けてるがまだ帰ってこないとはどういう了見だ。」
ずいっと赤鬼のおっさんに詰め寄る青鬼部長。赤鬼先生はタジタジです。
「ストップ。そこまで。続きは帰ってからにしなよ。部長も先生もさ。どうせ家は隣同士だろ?この後協力してもらった人たちにあいさつ回りに行かなきゃならないんだからさ。」
猫が言い争いを止めると鬼二人は肩をすくめて気持ちを切り替えました。
「ぱぱっと締めて、さっさと帰ろうぜ?」
「これで、最後だよ?」
鵺は机から降り、桃太郎はニコニコと周りを見回して、少し咳き込みます。青鬼はもう二度と見ることのないかもしれない部員たちの顔を、最後に一人一人眺めて、言葉を発します。
「そうだな。これで……このメンバーでの活動も終わりだ。幻想学園映画研究同好会、三学期の卒業制作を兼ねた“桃太郎”を送る会、これにて終幕。おつかれさまでしたっ!!」
「おつかれさまでしたっ!!」
部長の掛け声とともに部員全員が挨拶をし、その年の映画研究会は終わったのでした。
数日後、桃太郎の入院の日。
「猫さん、ボクね、ぜったいまた帰ってくるから。その時はまた、みんなで一緒に遊ぼうね!」
「ああ、約束だよ。ぜったい、ぜったい、帰ってきてね。またみんなで映画を撮ろう。バカやって、ふざけて、遊ぼう。ぜったい、ぜったい、ね。」
「ばいばいみんな。またね!」
制作:○年度、幻想学園映画研究同好会
キャスト
“桃太郎”:初等部5年、百川 桃
“猫”:大学部1年、猫又 楽
“鵺”:中等部三年、鬼子母神 鵺
“青鬼”:高等部三年、魚屋 青鬼
“赤鬼”:幻想学園映画研究同好会顧問 八百屋 赤鬼
他:有志一同 友情出演。
Fine.
ふぅ~…、終わった。二話連続投稿。
や~っと終わった。桃太郎と鬼が島の鬼退治。
最後は学園物にしてみました。
病気の桃太郎の為、映画研究会の友人たちが集まり、卒業制作代わりに映画をつくる。そのグダグダな話。もともとは、ネット上のチャットで起こった小芝居を基に、作られたお話です。時間が経つにつれて、内容がおぼろげに。せっせ、せっせと継ぎはいで、話しをつなげ、修正をして、いつの間にかこんな風に。
赤鬼VS青鬼は、八百屋VS魚屋というネタでもあったりするのです。だからどうした、と言われても答えられない自分が憎いぜ。
これにて桃太郎と鬼が島、閉幕で御座います。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました!