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中編  オセロ

後編を書いていたら18000文字を越えてしまったので、急遽2つに分けることにしますた。たまにはシリアスもいいよね!

「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。わ、私、何か悪いことした?もしかして、フラグを見落とした?選択肢を間違えた?どうして、そんな、これじゃゲームと違う。それじゃあ、それじゃあワタシは、オレは―――」

「か、楓?大丈夫か?」


ガタガタと全身を痙攣させて苦しげに脂汗を浮かべている。楓がこんなに怯える姿なんて、この16年間で一度だって見たことがない。


……いや、たった一度だけ覚えがある。幼稚園に上がる前、俺たちに自我が芽生えてまだ間もない頃、何の前触れもなく楓が突然塞ぎこんだことがあった。何を言っても反応しない無気力な楓に、オジサンとオバサンはひどく不安がっていた。今にも自殺しそうな楓の表情は鮮烈に記憶に刻み込まれている。その時は、見るに見かねた俺が手を取って無理やり外に連れ出して元気づけてやって解決した。遊んでいる内に楓の状態も元に戻ったから、そんなことは今の今まですっかり忘れていた。だけど今回は、あの時よりも遥かに重症に見える。


「嫌だ、一人になるのは嫌だ、嫌だよ、嫌だ」

「おい、楓?一人にするなんて言ってないだろ?いったいどうしたんだよ。そんな顔して泣くなんてお前らしくないって。なあ、聞いてるか?」


俺の言葉が耳に入っていないのか、眦から零れ落ちる涙は止まらない。凍えたようにガチガチと歯を鳴らしながら背を丸めて嗚咽を漏らすばかりだ。虚ろな瞳は、まるで押し寄せる孤独と寒さに押し潰される雪山の遭難者のようだ。副生徒会長が突然見せる奇行に学友たちが面食らって立ち止まる。「お前が泣かせたのか」という非難の視線が突き刺さるが、俺にだって原因はわからない。

楓の豹変と周囲の人だかりの視線にたじろぎながらも、とりあえず泣き止ませようと華奢な肩におずおずと手を伸ばす。瞬間、俯いていた桜色の髪が跳ね上がり、伸ばした手を思い切り掴まれた。いつもの楓からは想像もつかない乱暴な動作に動転する間もなく、ぐいと腕を引き寄せられてたたらを踏む。


「教えて、直すから!」

「は?直すって、お前なに言って、」

「私に悪いところがあったんでしょ?気に入らないところがあったんでしょ?だから、私のことが嫌いになったんだよね?ねえ、教えて。なにが悪かったのか教えて。直すから。全部、全部全部全部、今ままでみたいに(・・・・・・・)すぐに直してみせるからっ!!」

「……ッ」


まるで命乞いをするかのように震える双眸に見上げられ、俺は楓が豹変した原因に思い当たって息を呑んだ。

異性として意識していたのは俺だけだと思っていた。鈍感な楓は俺の存在を空気のようにしか思っておらず、依存などしていないと思い込んでいた。だけど、本当に鈍かったのは俺の方だ。捨てられた子犬の瞳に俺の顔が映り込む。いや、この瞳には常に俺しか映っていなかった。楓はずっと―――俺が楓を想うより遥かに以前から、俺だけを見ていたんだ。

衝撃のあまり何も応えられない俺の様子に何を思ったのか、いつも微笑みを浮かべていた容貌を悲壮に淀ませる。きっとコイツは、俺に好かれるために影で必死に努力をしていた。少しでも俺が気に入らないような素振りを見せたら、嫌われないようにすぐに修正していたに違いない。自分がどれだけ楓に想われていたのかを思い知って、切なさに胸が締め付けられる。もっと早く気付いてやればよかった。そうすれば、楓に己を偽らせるような真似をさせなくて済んだのに。

自分の正直な気持ちを伝えようと、「ああ、そうか」と何かを勝手に納得して囁くバカ女の肩に手を置く。


「なあ、楓。俺はお前のことを、 「邪魔になったんだよね?」 ……なんだって?」


思いもよらない言葉に面食らう俺から、フラリと楓が離れる。ピンク色の髪が大きく舞って、添え木を失って崩れる桜を連想させる。倒れゆくその腕を慌てて掴もうとするが、細枝のような腕は透けるように俺の手から逃げる。


「好きな人、できたんでしょ?」


一歩、二歩と後ずさり、消え入りそうな声で囁く。生気を失って俯く顔からは表情を読み取れない。


「ごめんね、気が付かなくて。そうだよね、ずっと同じ女にベタベタされたって、鬱陶しくなるだけだよね。嫌になるに決まってる。飽きるに決まってる。タッちゃんだってもう16だもんね。好きな女の子ができるのは当然だよ」

「……やめろ」

「ごめんね、ごめんね。私、自分のことばっかり考えて、タッちゃんのこと考えてなかった。タッちゃんに頼ることしか頭になくて、タッちゃんの気持ちを見てなかった。こんなに自分勝手で嫌な人間、好かれるはずない。他の女の子に取られちゃっても文句言えない」

「やめろって言ってるだろ」

「あはは、私今まで何やってたんだろ?一人で必死になっちゃって、バカみたい。ぜーんぶムダにしちゃった。私は、わ、ワタシは、オレ、は―――」

「いい加減にしろ、このバカッ!!!」

「っ!?」


腹の底から激情を迸らせ、目の前のバカに叩きつける。怒鳴られた楓が総身をビクリと跳ねさせた。

本当は、いつもいつも心の中ではこうやってビクビクと怯えていたんだろう。脳天気に振る舞いながら、内心では俺の顔色を伺ってひたすら頭を働かせ続けていたんだ。家族や友人にさえ素顔を見せず、一番近くにいたはずの俺を騙し続けていたんだ。

切なさが過ぎ去れば、後から押し寄せてくるのは巨大な怒りの波だ。誰よりも心を許してくれていると思っていたのに、実際は俺に一番大きな嘘をついていた。嘘に嘘を重ねて本当の楓を塗り潰してしまうくらいに欺いていた。もう、楓にだって本当の自分がどんなだったのか思い出せないに違いない。

そこまで大きな犠牲を払ったくせに、勝手に変な誤解をして、勝手に諦めて、勝手に自分を責めている。俺の気も知らないでさっさと身を引こうとしている。今だって、嫌われたに違いないと早合点してポロポロと涙を溢している。泣きたいのはこっちの方だ。そんなに強く想われていると知っていれば、その想いに相応しい人間になろうと成長期の心身と時間を研鑽に費やせたというのに。今から頑張っても、楓のかけた労力に追いつくのはずっと先になってしまうじゃないか。


強く足を踏み進める。また拒絶されると思ったのか再び後退しようとした楓の腕を、そうはさせまいと掴み止める。服の上からでも肌が張り詰めて冷たくなっているのがわかる。洞窟のように虚ろになった楓の瞳を覗き込めば、俺の背後にチラリと視線を流してなぜかふっと口元を緩ませた。


「もう、いいんだよ。私なんかに気を使わなくてもいいの。私は大丈夫だから。その分、好きな女の子に優しくしてあげて」

「大丈夫に見えないからこうして捕まえてるんだ、このバカ。大体、そんな女はいない」

「あはは、タッちゃんは相変わらず嘘がヘタなんだから。だって、すぐ後ろにいるじゃない」

「……後ろ?」


思いも寄らないことを言われ、反射的に背後を振り向く。


「―――やばっ」

「……?」


ツインテールの女の子だった。整っているがまだ稚気が残る顔立ちと全体的に小柄な体躯の、楓とは違ったタイプの美少女だ。夏空のような蒼色に冴える髪と瞳が野次馬の中で一際目立っている。学年を表すネクタイピンを見ると、一本線が刻まれていた。今年入学した一年生のようだ。

俺と目が合うと、その女の子はどういうわけか「しまった」と言わんばかりに顔を顰めた。しかし、そんな表情をされる心当たりがない俺は眉根を寄せるしか無い。俺はこの女の子とはこれが初対面だからだ。


昼賀谷(ひるがや) 天音(あまね)……」


楓の強張った唇が震えて、かろうじて聞き取れるような声量を漏らす。なぜか、楓はこの新入生の名前を知っている。低くか細い声には好意と敵意が入り交じっているように聞こえたことからして、楓が誤解するだけの理由があるらしい。気になって天音という名前らしい新入生の顔をもう一度注視すれば、彼女はパタパタとツインテールを揺らして首を振り出した。


「ちょ、ちょっと待って!オレ―――じゃなかった、天音は夜月先輩とはまだ何の関係も―――――タツヒコ、手を離しちゃダメだ!!」

「なッ!?お、おい、楓!?」


気を抜いた瞬間を衝かれた。目を見開いた天音の鋭い声に慌てて腕を振り乱すが、俺を突き飛ばした楓が踵を返す方が何倍も早かった。宙に涙の飛沫を散らせて床を踏みしめ、いつもの大人しい楓からは想像もつかない速さで廊下を駆け抜けていく。

どんどん小さくなっていく背中が、まるであいつの存在そのもののように見えてゾッとする。楓が消えてしまう。せっかく両想いだとわかったのに。まだ俺の気持ちを伝えてないのに……。


「何ボサッとしてんだコラ!さっさと追いかけねぇか!!」


幼い女の子の声で男のような怒声が飛んできた。バランスを崩してたたらを踏む俺の背中を誰かが乱暴に支える。肩越しに透かし見ると、水色のツインテールが視界に広がった。さっき、楓が俺の恋人だと誤解した女の子だ。俺の名前を知っていたり、見た目にそぐわない表情で睨んできたり、奇妙な女の子だ。


「君はいったい……?」

「んなこたぁどうでもいいだろが―――――ぁ、いやその―――ど、どうでもいいんですよ、先輩!ぜーんぶ女の子の勘とかそういうものです!ほら、楓さんを早く追いかけてあげてください!取り返しの付かないことになっちゃっても知りませんよ?」


「取り返しの付かないこと」と囁かれた途端、身体が勝手に動き出す。床を滑るような動作でバカ女が落とした鞄を拾い上げ、そのまま廊下を走る。追いついて、捕まえる。二度と離さないようにしっかり掴んで、今度こそはっきりと俺の気持ちを伝えよう。腐れ縁の幼馴染みとしてではなく、異性の男として。家族に向ける“好き”ではなく、家族になって欲しいという“好き”を。


「せんぱ~い!楓さんに『ヒロインが全員集まるまでは停戦にしてあげます』と伝えておいてくださいね~!きっと落ち着きますから~!」


廊下の角を曲がる直前、天音の間延びした大声が耳に入った。本当に不思議な女の子だ。







タツヒコが瞬く間に廊下の角に姿を消した。ちゃんと聞こえただろうか?まあ、主人公補正とかで何とかなるだろう。ったく、世話の焼ける奴だ。誤解されるようなところに突っ立ってた俺も悪いんだけど。


「ね、ねえ、天音。今のなに?あのカッコイイ先輩と知り合いなの?てゆーか、アンタあんなに乱暴な言葉づかいだったっけ?」


声の方に振り返れば、同じ新入生の友人が目を白黒させていた。面倒くさいことになった。せっかく今まで俺が大好きだったキャラクターの昼賀谷 天音ちゃんを忠実に演じてきたというのに台無しになっちまった。このままじゃ、腹黒キャラへの移行は確実だぜ。……まあ、それもいいか。純粋なロリ娘も楽しかったが、腹黒いロリ娘ってのもなかなか面白そうだ。アイツ(・・・)も原作のゲームと違うルートに入ったみたいだし、今さら原作に忠実になる必要なんてないわな。

しっかし、まさかメインヒロインの朝香 楓も俺たち(・・)と同じだったとは驚いた。こりゃあ、ヒロイン全員に確かめてみる必要がありそうだ。さっそくアイツに調べさせよう。

何はともあれ、とりあえず今は目の前の友人を何とかしないとな。


「ふにゃ?天音、ユーちゃんがなに言ってるのかぜ~んぜんわかんな~い。にゃはは!」

「………」


なに恐ろしいモノを見るような目を向けてやがる、このアバズレめ!!こっちだって死ぬほど恥ずかしいんだよ!!







ギシ、と耳障りな音が聞こえる。それが使い古されたブランコの錆びた鉄の音か、自分の心が軋む音かはもう判別がつかなかった。


「あはは……タツヒコって年下の妹キャラが好きだったのか。そうだと知ってればこんな苦労しなくてよかったのになぁ。あはは、はは……」


どうしてだろう。可笑しくて仕方がないはずなのに、心から笑えない。これまでの努力もこれからの人生も全部水の泡になったんだから、せめて大声で笑いたい。愚か者の自分を嘲り笑いたい。そうでもしないと気が狂ってしまうじゃないか。


昼賀谷(ひるがや) 天音(あまね)―――朝香 楓に次ぐこの世界のメインヒロイン。一歳下の新入生で、天邪鬼だけど甘えん坊な可愛い後輩キャラだ。前世で一度攻略したことがあるからよく知っている。金持ちの実家のことで大きな悩みがあるとか、ワガママなのは寂しがっているからだとか、実は尽くすタイプだとか―――入学式の日にタツヒコに一目惚れした、とか。

さっき、廊下で彼女を目にした時、直感で理解した。タツヒコの背後に現れて俺をじっと観察するその視線に気付いた時、彼女が俺に対して敵意を抱いているのだと気付いた。彼女を庇うように立ちはだかるタツヒコを見て、二人の関係を悟った。自分がタツヒコにとってただの幼馴染みで、二人にとって邪魔な存在なのだと知ってしまった。

実を言うと、昼賀谷 天音は俺が二番目に好んでいたヒロインだった。ジャジャ馬な性格だけど根は寂しがり屋で、恋仲になった途端に頑張ってお弁当を作ってくれたりする可愛いキャラクターなのだ。情に厚くて面倒見のいいタツヒコとなら、きっと良い関係を築ける。互いに支えあうことのできる理想的な男女だ。タツヒコに依存するばっかりで自分の足で人生を歩こうとしない俺よりもよっぽどお似合いだ。


「馬に蹴られて死んじゃう前に退散しないとね。死因が馬だなんて前世より情けないんだから。でも、これからどうやって生きればいいかわかんないよ。あはは、まいったなあ。これじゃあ死んでも死ななくても変わりないじゃん」


夜の公園にくつくつと小さな笑みが木霊する。もし誰か他に人がいたら、警察か救急車でも呼ばれてたに違いない。人気のないちっぽけな公園でよかった。昔はここまで寂れてなかったし、もっと広かったと思っていたんだけど。

俯いていた視線を少し上げれば、ブランコの目前に広がる砂場が入る。子どもの頃は、よくここで遊んだ。あの日(・・・)―――俺が前世の記憶を取り戻してしまった日も、ここでタツヒコと砂遊びをしていた。

黄色い電灯に照らされた砂場には、昼間に子どもが作ったのだろう砂の城が聳えていた。誰かに踏まれたのか、それとも時間が経って劣化したのか、半分以上崩れてしまっている。



『 今日こそ砂場にオレのでっかい城をつくるんだ。完成したらかえでもいっしょに住まわせてやるよ 』



「……嘘つき」


ちゃんと手伝ったのに。部屋の間取りまで一緒に考えたし、犬小屋と庭も作ったのに。一日中付き合ってあげたのに。それなのに、言い出した本人がさっさと忘れてしまうなんてひどい。


「……“リビングは一階全部使って、二階はキッチンとお客さんが来たときのための部屋。三階はお父さんとお母さんたちの部屋で、四階は楓の部屋にしていい。でも一番上の五階は俺の部屋だ。一人じゃ怖くて眠れない時は、俺の布団で寝てもいいぞ”……。あはは、10年以上前なのにけっこう覚えてるもんだね」


首を上げていることも億劫になって、また項垂れる。自分もこの砂の城みたいに崩れてなくなればいいのに。さらさらと細かい砂になってしまえば飛んでいけばいいのに。そうすればきっと、この胸が張り裂けそうなつらい気持ちとも永遠におさらば出来る。虚しい人生なんて送らずに、何も考えなくてもいい真っ白な存在になってゆらゆら漂えるのに。



ジャリ、



「………?」


不意に、数歩手前で足音がした。芝生を踏みしめてこちらに歩み寄ってくる。重い、男の足音だ。迷いのない足運びからして、目的は俺に違いない。まったく警戒してなかったから気が付かなかった。

タツヒコの前では、俺は無防備な女の子を演じていた。でも本当は、タツヒコ以外の誰にもこの身体に触れられないように常に周囲を警戒していた。落ち着きなくキョロキョロと辺りを見回していたのは、自分を見る男の視線や動きに注意していたからだ。邪まな意思を持った変質者が近づいてきたら、純粋な笑顔で対応しながら背中に回した手の中で防犯ブザーを握りしめていた。タツヒコが助けに来るのをギリギリまで待って、震える手を背中に隠して。決して、タツヒコ以外に身体を許さないために。


「……でも、そんな必要もなくなっちゃった。今さら処女守ったって意味なんてないんだし」


ボソリと呟く。それが聞こえたのか、砂場に差し掛かったところで足音が止まった。動揺したらしく蹌踉めいてたたらを踏む気配がする。いくら美少女でも、夜の公園でブツブツ独り言を漏らしていたら不気味に思って近づけないのだろう。亡霊だと思われたのかもしれない。あながち間違ってはいないけど。

踏ん切りがついたのか、再び男が歩を進める。どんどん足音が大きくなる。走ってきたような荒い息遣いまで聞こえてくる。もう砂の城の辺りだ。

もう、どうにでもなればいい。どうにでもすればいい。一人ぼっちで生きていくしかないのなら、誰かの慰み者になって生きる人生も悪くない。造られた世界のニセモノの人生でも、誰かに必要とされるなら少しは生き甲斐も生まれるかもしれない。いっそのこと壊れるまで無茶苦茶に扱って、砂の城みたいにバラバラにしてくれた方が気も楽だ。


そっと、髪の表面に手が触れられる。数瞬躊躇うような気配を見せた後、ぽんと頭に手が置かれた。無意識にビクリと肩が跳ね上がる。

これから何をされるのか。そんなの、元は男だったんだから俺にだってわかる。下衆い男が美少女を前にして考えることと言えば一つしか無い。ここじゃ目に付くからどこか茂みにでも連れて行って、抵抗するなら何度か引っ叩いて、口に詰め物をして、手足ふん縛って、服を脱がせて、それから―――。


「―――ぅ、ふぐ、ぅぅぅ……!」


息が弾み、ぎゅっと閉じたはずの唇の隙間から嗚咽が溢れる。ブランコの鎖を握る手が汗ばんで気持ちが悪い。閉じた太ももが恐怖でガクガクと震えるのが見える。眦が熱くなって、目に映る景色の輪郭がぼやけていく。世界が色を失っていく。

怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。

やっぱり怖いよ。()、無茶苦茶になんかされたくない。慰み者になんてなりたくない。他の誰にも触って欲しくない。私の身体はあなた(・・・)だけに触れてほしい。


正直に言います。あなたが好きです。

最初は依存することしか頭にありませんでした。自分を保つためにあなたに寄生していました。でもいつの頃からか、本当に好きになったんです。例えゲームの世界でも、あなたと過ごす毎日が私にとっての本物でした。あなたが、モノクロだった世界を色鮮やかに輝く世界に変えてくれた。前世のことなんて忘れて、朝香 楓として心から笑うことができたんです。

お似合いだとか関係ない。盗られたくない。ずぅっと前から私がツバつけてたのに、いきなりやって来て横から持って行っちゃうなんてあんまりだよ。そのせいで私は今からひどい目に遭っちゃうのに。ああ、ヤダ。防犯ブザーを鞄の中に忘れちゃった。どうしよう、ホントに無茶苦茶にされちゃうよ。


硬直して震えるだけの私に何を思ったのか、頭に置かれていた手がゆっくりと離れる。どうする気だろう。髪を掴んで引っ張りあげるんだろうか。いきなり殴って気絶させるんだろうか。まさか、ここで押し倒すんだろうか。どれも嫌だ。想像もしたくない。

助けて。いつものように助けに来て。妹みたいな女の子が好きなら頑張ってそうなるから。だから、年下の女の子なんて放って、急いで駆けつけて。カッコイイ背中で私の前に立ちはだかって。


「……ツ、ヒコ……タツヒコぉ……助けに来てよ……一人にしないで……」


ついに、男が動く。大きく手を広げて背中に手を回してくる。湿った汗の臭いに抱きとめられる。腕にぎゅっと力を込められて、身動きが取れなくなる。男が耳元でボソリと囁く。




「―――なに呼び捨てにしてんだよ、楓のくせに」

一途で健気な女の子とか大好きです。具体的に言えばソードアート・オンラインのアスナとか大好きです。

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