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My snow days~とある雪の日の君と僕の物語~

作者: ハマ@KT


「この子、あんたのせいでこんなに泣いているのよ?」


 雪がしんしんと降り続けるとある冬の日のこと。給食が終わりみんなが思い思いに駆け回っている昼休みの教室で、一人の少女が泣いていた。

 ズラリと色鮮やかなランドセルが詰め込まれた棚の上に、ただ少女は顔を伏せながら声を押し殺して泣き続けていた。


「僕の、せい・・・?」


 僕はそんな少女を前に情けなく首を傾げながら立ち尽くす。

 僕は目の前で泣いている少女のことが大好きだった。朝家を出て学校に行くまでの途中の長い下り坂でいつも優しい笑顔でおはようと声をかけてくれる君が、帰り道、僕と仲の良い友達数人と一緒に喋りながら眩しい笑顔を見せて歩く君が、僕は好きで仕方なかった。

 だからこそその時の僕にはわからなかった。どうして今、いつものような笑顔ではなく涙を、それも押し殺しながら泣いているのか。


「・・・ごめん」


 そんな少女を前に、僕が出した答えは謝りの言葉。

 僕のせいで彼女が泣いている、僕のせいで彼女を悲しめている。なんとかいつものような笑顔を取り戻してほしくて、幼い僕が必死に全力で考えた末に辿り着いたのが「ごめん」の一言だった。


「なにをしたのかわからないけど、とにかくごめん。だからどうして泣いているのか、教えてくれないか?」


 だけど幼い僕には気付けなかった。その一言が少女の心を突き刺し、切り裂き、その涙さえバラバラに打ち砕いてしまっていたことを。

 今思えばそれは当然だったのかもしれない。その謝りの言葉は、少女が泣いている理由を僕が全くわからないと証明しているようなものだったから。

 今ならわかる。少女はわかってほしかったのだ。できるなら全部、それでなくてもほんの少しでもいいから僕に。少女の腕を濡らし続ける涙は、そのためでもあったのだ。

 思えばこの時の僕は、本当に馬鹿だったと心から思う。


「もう、いいから・・・」


 震える声で、少女は顔を伏せたまま僕に告げる。

 重く心をこれでもかと締め付ける言葉。頭の中にその光景が何重にも鎖でしばりつけられて思い出し、その度に胸がなぜかどうしようもないぐらいにズキズキと痛んでその日の夜は一秒とまともに眠ることはできなかった。


 後から親しい友人から聞かされた話だ。

 少女はずっと僕のことが好きだったらしい。僕が少女のことをずっと好きだったことも知っていた友人は、お前ら両想いだったのにどうして付き合わなかったのかと、真面目に不思議がっていたほどだった。


 それからの話。

 僕と少女は同じ中学校へと進学し、入学して1ヶ月と経たないうちに少女はとある男子から告白され、そのまま付き合うことになった。

 これも皮肉なのかそれとも当たり前のことだったのか。その相手は中学に入学して新しくできた親友ともいえる友人だった。


 だけど、僕がそのことになにかを思うことはなかった。


――――あれから何年が経っただろう。


 僕と少女はそれぞれの道を選び、そしてそれぞれの道を歩いていった。

 あの後少女と親友がどうなったのかはわからない。今でもその親友とはたまに連絡を取り合っているが、そこに少女の話がでることはなかった。

 噂によれば高校進学後に別れたらしいが、それももうどうでもいいことだった。


「おー、降ってるな」


 もう君は僕のことをとっくに忘れているんだろう。僕もほとんどあの頃の記憶を失いつつあるけれど、冬になり雪が降っているのを眺めているとあの光景だけはたまにふっと思い出すことがある。多分完全に消えることはもうないんだと思う。

 確かに両想いでありながらお互いそれに気づかず、結局実を結ぶことはなかった。けれどそこに君が居て、僕が居た。それだけはどうやったって変えることのできない事実であり、決して無駄にはならない僕の歩みの一つでそれがあったから今の僕が居るのだ。

 現にそれからの僕は、不器用ながらも相手のことをよく考えて行動し、接せるように努力するようになった。もう、自分の無知さで大切な人の涙を見たくないから。


 だからあの時はごめん。君の思いに気付けなくて。

 そして改めて言わせてほしい。君に出会えて、僕は本当によかった。


「んじゃあ、いってきます」


 今、君は元気にしているだろうか。

 こうして僕が僕の道を歩み続けている間も、心のどこかで君との思い出が空から舞い降りた雪の結晶のようにキラキラとずっと輝き続けている――――

 




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