大根
掲載日:2026/10/15
船に穴が空いた。
海水が、勢いよく船内に流れ込んできた。
「船長! 浸水です!」
船長は穴に駆け寄ると、とりあえず手で押さえた。
穴はちょうど、野球のバットくらいの太さだった。
「遊戯室からバットを持ってこい!」
「バットですか?」
「いいから早く!」
船員が遊戯室へ走っていった。
しばらくして、バットを持って戻ってきた。
船長はバットを穴に当ててみた。
「……ちょっと細すぎるな」
「そうだ、調理室から大根を持ってこい」
「大根ですか?」
「いいから早く!」
船員が調理室へ走っていった。
海水は、さらに船内へ流れ込んできた。
船長は片手で穴を押さえながら、もう片方の手で水をかき出した。
しばらくして、船員が戻ってきた。
「船長、大根がありませんでした」
船長の肩まで海水が来ているのを見て、船員は両手を高く掲げた。
「にんじんと白菜持ってきました」
ずぶ濡れの船長が、野菜と船員を見た。
「……鍋でもするのか?」
ーー
地球の裏側で。
真っ暗な山間のトラック街道沿いには、一軒の鉄板焼き屋しかなかった。
すでに長時間運転した岩田は、眠気を抑えに、申し訳なかったがアイスコーヒーを一杯だけ頼んだ。
「コーヒー一杯だけで申し訳ない」
「いいえ!」
店員が元気よく言った。
「それでは鉄板に火をおつけします」




