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雨の音から始まる、静かな異世界転生  作者: レイン
第三章 聞いてはいけない雨
23/30

第23話 街に残ったもの

 最初に気づいたのは、私じゃなかった。


 「……変だね」


 朝、市場へ向かう途中、マレナが足を止めた。


 石畳の隅。

 まだ乾ききっていない地面に、**小さな跡**があった。


 丸くて、浅い。

 爪の痕が、かすかに残っている。


 私は、息を止めた。


 「……猫?」


 言いながら、分かっていた。


 違う。


 その跡は、雨に濡れていない。

 周囲は湿っているのに、

 そこだけ、水を弾いたみたいに残っている。


 ——街の中だ。


 谷でも、外れでもない。


 人が多く、

 声が重なり、

 選択が日常的に行われる場所。


 「昨日、猫なんて見たかい」


 マレナは、独り言みたいに言う。


 私は、首を振れなかった。


 足跡は、一つじゃなかった。


 露店の裏。

 壊れた屋根の下。

 濡れた荷車の影。


 **被害が出た場所ばかり**。


 しかも——

 全部、誰かが「次は完全に止めろ」と言った場所。


 胸の奥が、静かに冷える。


 ——示している。


 選択が、ここで行われた。


 「……マレナ」


 声が、低くなる。


 「これ、

  自然じゃありません」


 「分かってる」


 彼女は、即答した。


 「谷じゃなく、街に出たってことは」


 一拍。


 「**人が、決め始めた**」


 その言葉が、重かった。


 私は、耳を澄ました。


 雨の声は、遠い。

 でも、消えていない。


 ——急げ。

 ——偏り始めてる。


 街の中で、

 誰かが「雨を止める」ことを

 **自分の正しさとして選び始めている**。


 その選択を、

 猫は——


 見届けに来た。


 説明もしない。

 止めもしない。


 ただ、痕跡を残す。


 「……警告、ですか」


 私が言うと、

 マレナは、少しだけ首を振った。


 「記録だね」


 「後で、

  “ここで決めた”って分かるように」


 私は、足跡の一つに、そっと指を近づけた。


 触れない。

 触れられない。


 そこには、

 確かに“見られた”気配だけが残っている。


 その夜。


 街の上空に、雲が溜まり始めた。


 でも、雨は降らない。


 まるで——

 **誰が次に決めるかを、待っているみたいに**。


 私は、窓から外を見て、静かに呟いた。


 「……来たんだね」


 猫は、姿を見せない。


 でも。


 もう一度、

 街が選ぶ夜が来る。


 それだけは、はっきり分かった。


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