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雨の音から始まる、静かな異世界転生  作者: レイン
第三章 聞いてはいけない雨
22/22

第22話 守られなかったという声

 最初に来たのは、苦情だった。


 「屋根が壊れた」

 「商品がだめになった」

 「なぜ完全に止めなかった」


 誰も、名指しはしない。

 でも、視線は私に集まる。


 噂は、もう回っていた。


 「雨の流れを触れる子がいる」

 「街は守られたが、完全じゃなかった」

 「なら、次はちゃんとやれ」


 市場の空気が、重い。


 私は、マレナの後ろに立っていた。

 それだけで、少し距離は保たれる。


 「被害が出たのは事実だ」


 前に出た男が言う。


 商人だ。

 濡れた帳簿を抱えている。


 「谷は助かったらしいな」


 その言葉に、ざわりと空気が動く。


 「だったら次は、

  **街を優先しろ**」


 はっきりとした要求だった。


 私は、喉が乾くのを感じた。


 ——聞こえる。


 この人たちの声は、

 雨よりずっと大きい。


 「完全に止められるんだろ」


 別の声。


 「できるのに、やらなかった」


 それは、責めではなく

 **期待**だった。


 その方が、痛い。


 マレナが、低く言う。


 「できるかどうかと、

  やるべきかどうかは別だ」


 「そんな理屈で、

  飯が食えるか」


 即座に返される。


 正論だった。


 私は、一歩前に出た。


 足が、少し震える。


 「……止められませんでした」


 正確には、

 止めなかった。


 でも、言葉は選ばない。


 「全部を止めたら、

  別の場所が壊れます」


 「それは、知らない」


 「街が守られなかったのが問題だ」


 誰かが言った。


 ——そうだ。


 ここでは、それが全て。


 「次は、ちゃんとやれ」


 「街を選べ」


 「人が多い方だ」


 声が、重なる。


 私は、耳を塞ぎたくなった。


 ——聞いてはいけない雨。

 ——聞いてしまう人の声。


 どちらも、似ている。


 追跡者が、静かに口を開いた。


 「要求は、分かった」


 一瞬で、場が静まる。


 彼は、街の人間を見渡す。


 「だが、約束はできない」


 ざわめき。


 「この子は、

  **英雄じゃない**」


 はっきり言った。


 「便利な道具でもない」


 視線が、私に向く。


 「選ばないことで、

  世界を保つ役だ」


 理解されない言葉。


 当然だった。


 「だったら、いらない」


 誰かが、吐き捨てる。


 その一言で、

 胸の奥が、きしんだ。


 ——いらない。


 存在を、否定する言葉。


 その瞬間。


 耳の奥で、

 雨が、遠ざかる。


 怖くなって、

 私は、深く息を吸った。


 「……次の雨も」


 声が、かすれる。


 「被害は、出ます」


 正直に言う。


 「ゼロには、できません」


 でも。


 「壊れ切る前には、

  必ず、間を作ります」


 沈黙。


 納得は、ない。


 それでも。


 「それしか、できない」


 言い切った瞬間、

 胸の奥が、少しだけ楽になった。


 マレナが、隣に立つ。


 「この子は、街を見捨てない」


 「ただ」


 一拍。


 「**街だけは選ばない**」


 人々は、納得しないまま散っていった。


 要求は、残った。

 不満も、残った。


 でも。


 私は、立っていた。


 選ばないと決めた場所に。


 その夜。


 雨は、少しだけ降った。


 被害も、少しだけ出た。


 それでも。


 雨は、私を避けなかった。


 ——まだ、聞いていい。


 そう言われている気がして、

 私は、目を閉じた。



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