第22話 守られなかったという声
最初に来たのは、苦情だった。
「屋根が壊れた」
「商品がだめになった」
「なぜ完全に止めなかった」
誰も、名指しはしない。
でも、視線は私に集まる。
噂は、もう回っていた。
「雨の流れを触れる子がいる」
「街は守られたが、完全じゃなかった」
「なら、次はちゃんとやれ」
市場の空気が、重い。
私は、マレナの後ろに立っていた。
それだけで、少し距離は保たれる。
「被害が出たのは事実だ」
前に出た男が言う。
商人だ。
濡れた帳簿を抱えている。
「谷は助かったらしいな」
その言葉に、ざわりと空気が動く。
「だったら次は、
**街を優先しろ**」
はっきりとした要求だった。
私は、喉が乾くのを感じた。
——聞こえる。
この人たちの声は、
雨よりずっと大きい。
「完全に止められるんだろ」
別の声。
「できるのに、やらなかった」
それは、責めではなく
**期待**だった。
その方が、痛い。
マレナが、低く言う。
「できるかどうかと、
やるべきかどうかは別だ」
「そんな理屈で、
飯が食えるか」
即座に返される。
正論だった。
私は、一歩前に出た。
足が、少し震える。
「……止められませんでした」
正確には、
止めなかった。
でも、言葉は選ばない。
「全部を止めたら、
別の場所が壊れます」
「それは、知らない」
「街が守られなかったのが問題だ」
誰かが言った。
——そうだ。
ここでは、それが全て。
「次は、ちゃんとやれ」
「街を選べ」
「人が多い方だ」
声が、重なる。
私は、耳を塞ぎたくなった。
——聞いてはいけない雨。
——聞いてしまう人の声。
どちらも、似ている。
追跡者が、静かに口を開いた。
「要求は、分かった」
一瞬で、場が静まる。
彼は、街の人間を見渡す。
「だが、約束はできない」
ざわめき。
「この子は、
**英雄じゃない**」
はっきり言った。
「便利な道具でもない」
視線が、私に向く。
「選ばないことで、
世界を保つ役だ」
理解されない言葉。
当然だった。
「だったら、いらない」
誰かが、吐き捨てる。
その一言で、
胸の奥が、きしんだ。
——いらない。
存在を、否定する言葉。
その瞬間。
耳の奥で、
雨が、遠ざかる。
怖くなって、
私は、深く息を吸った。
「……次の雨も」
声が、かすれる。
「被害は、出ます」
正直に言う。
「ゼロには、できません」
でも。
「壊れ切る前には、
必ず、間を作ります」
沈黙。
納得は、ない。
それでも。
「それしか、できない」
言い切った瞬間、
胸の奥が、少しだけ楽になった。
マレナが、隣に立つ。
「この子は、街を見捨てない」
「ただ」
一拍。
「**街だけは選ばない**」
人々は、納得しないまま散っていった。
要求は、残った。
不満も、残った。
でも。
私は、立っていた。
選ばないと決めた場所に。
その夜。
雨は、少しだけ降った。
被害も、少しだけ出た。
それでも。
雨は、私を避けなかった。
——まだ、聞いていい。
そう言われている気がして、
私は、目を閉じた。




