表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨の音から始まる、静かな異世界転生  作者: レイン
第三章 聞いてはいけない雨
19/22

第19話 聞いた者の目

谷を出るころ、空は薄暗くなっていた。


 雨の匂いは、まだしない。

 それでも、空気が張りつめている。


 ——選択の余韻。


 聞いてしまった音は、もう消えているのに、

 耳の奥が静かすぎて、逆にうるさい。


 「……今日は、戻ろう」


 マレナの声に、私は頷いた。


 振り返った、その時。


 「無事に聞いたようだな」


 声は、背後からだった。


 いつの間にいたのか分からない。

 谷の入口、影の中。


 追跡者。


 あの男は、こちらを見ていた。

 いや——**私の耳の奥**を。


 「……何の話ですか」


 そう答えながら、分かっていた。


 通じない。


 男は、静かに歩み寄る。


 「雨を聞いただけなら、

  あの顔はしない」


 視線が、逸らせない。


 「聞こえてはいけない層がある」


 淡々と。


 「それに触れた者は、

  必ず、少し遅れて息をする」


 私は、無意識に呼吸を整えた。


 ——遅れていた。


 「……先代も、同じだった」


 その言葉で、胸が冷える。


 「最初は、返事をしなかった」


 男は続ける。


 「だがな」


 一歩、距離を詰める。


 「**聞けるという事実自体が、世界にとっては危険だ**」


 マレナが、前に出た。


 「この子は、何も決めていない」


 男は、頷いた。


 「分かっている」


 その肯定が、逆に怖い。


 「だから、まだここに立っている」


 「……止めに来たわけじゃないんですか」


 私が聞く。


 男は、少しだけ考えてから答えた。


 「止める権限は、俺にはない」


 「じゃあ、何をしに」


 視線が、真っ直ぐ刺さる。


 「**確認だ**」


 「次に、返事をするかどうか」


 沈黙。


 遠くで、雷が鳴る。


 まだ、雨は落ちてこない。


 「一度でも返したら」


 男は、低く言う。


 「猫は、もう現れない」


 その言葉に、心臓が強く打った。


 「選択を見届ける役は、終わる」


 「……それは」


 「世界が、お前を“当事者”として認識する瞬間だ」


 マレナが、私の腕を掴む。


 強く。


 「脅しかい」


 男は、首を振った。


 「警告だ」


 そして、少しだけ声を落とす。


 「俺は、先代を追い続けて——

  **止められなかった**」


 一瞬だけ、感情が滲んだ。


 「だから今回は、

  “間に合っているか”を見に来た」


 男は、距離を取る。


 影に戻る直前、言った。


 「次の大雨が来る」


 「その時だ」


 「聞くだけでいられるか」


 「それとも——」


 言葉は、続かなかった。


 男の姿は、雨の予感と一緒に消えた。


 私は、しばらく動けなかった。


 「……聞いたな」


 マレナが、ぽつりと言う。


 私は、正直に頷く。


 「でも、返事はしてません」


 「それが、境目だね」


 その夜。


 空は、厚い雲に覆われた。


 雨は、まだ降らない。


 まるで——

 **返事を待っているみたいに**。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ