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雨の音から始まる、静かな異世界転生  作者: レイン
第三章 聞いてはいけない雨
17/22

第17話 雨に濡れない足跡

 白い足跡は、谷の奥へ続いていた。


 濡れた土の上なのに、

 そこだけ、水を弾いたみたいに乾いている。


 昨夜の雨は、かなり強かったはずだ。

 谷の斜面はぬかるみ、

 踏みしめるたびに、靴底が重くなる。


 それなのに。


 足跡の輪郭は、くっきりと残っていた。


 流されてもいない。

 崩れてもいない。


 まるで、

 **最初から濡れることを拒んだみたいに**。


 私は、無意識に足を止めていた。


 近づくほど、違和感が強くなる。


 白い。

 土の色をしていない。


 石灰でも、灰でもない。

 光っているわけでもないのに、

 周囲から浮いて見える。


 「……これ」


 声に出した瞬間、

 雨音が、一段だけ遠のいた気がした。


 谷は静かだ。


 水が滴る音。

 葉が擦れる音。

 どれも、はっきり聞こえる。


 それなのに、

 足跡の周囲だけ、

 音が吸い取られている。


 私は、しゃがみ込み、

 そっと手を伸ばしかけて——止めた。


 触れてはいけない。


 理由は分からない。

 でも、分かってしまう。


 この足跡は、

 「通った」証じゃない。


 **見られた**証だ。


 谷の奥へ向かって、

 足跡は一定の間隔で続いている。


 迷いがない。

 急ぎもしない。


 ただ、

 選んだ道を、そのまま辿っている。


 私は、喉を鳴らした。


 雨は、もう止んでいる。


 でも。


 この足跡だけは、

 **雨の前から、ここにあったみたいに**

 変わらず、残っていた。


 ——追うべきか。


 ——追って、いいのか。


 答えは、聞こえない。


 それでも、

 足は自然に、

 白い跡の先へ向かっていた。


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