第14話 同じ側に立つ人
雨が弱まったあと、街は何事もなかったみたいに動き出した。
濡れた石畳を踏む音。
店先で交わされる、いつもの会話。
誰も気づいていない。
さっきまで、街の行方が少しだけ違っていたことに。
私は、マレナの後ろを歩いていた。
いつもより、距離が近い。
それでも、何も言われない。
家に戻ると、彼女は戸を閉め、しっかりと閂をかけた。
その音で、胸が少しだけ強張る。
責められる。
問い詰められる。
そう思ったのに。
マレナは、深く息を吐いてから言った。
「……さっきの雨」
私は、黙って頷く。
「やっぱり、あんただったか」
声は低いけれど、怒ってはいない。
「見てたんですか」
「途中からね」
私の方を見て、はっきり言う。
「止めたろ。
逃げなかった」
その言葉に、胸の奥が少し熱くなる。
「……怖かったです」
正直に言った。
「間違えたら、どうなるか分からなくて」
マレナは、しばらく私を見ていた。
それから、短く笑う。
「それでいい」
「え?」
「怖がらない奴は、だいたい壊す」
乱暴な言い方なのに、不思議と安心した。
マレナは棚から布を取り出し、私に渡す。
「着替えな。冷えてる」
受け取った瞬間、指先が少し触れた。
そのまま、離れない。
「ユイ」
名前を呼ばれる。
「私は、あんたが何者か、全部は知らない」
一拍。
「でもね」
視線が、まっすぐだった。
「街を守ろうとした人間を、
売ったりしない」
胸が、ぎゅっと締まる。
「……いいんですか」
「何が」
「私、これから……
もっと厄介なことになると思います」
マレナは、少し考えてから言った。
「だろうね」
即答だった。
「でも」
彼女は、私の肩に手を置く。
重くて、温かい。
「一人で立たせる気はない」
その言葉で、はっきり分かった。
この人は、守られる側じゃない。
**一緒に立つ人**だ。
「外では、何も言わない」
マレナは続ける。
「必要なら、嘘もつく。
隠す場所も用意する」
「……どうして」
問いは、素直だった。
マレナは、少しだけ目を伏せる。
「昔ね」
短く、でも確かに。
「守れなかった人がいる」
それ以上は、語られなかった。
でも、それで十分だった。
私は、深く頭を下げる。
「……ありがとうございます」
「礼はいらない」
マレナは、いつもの調子に戻る。
「ただし条件がある」
顔を上げると、真剣な目。
「無茶は、相談してからだ」
思わず、笑ってしまった。
「……はい」
その瞬間。
胸の奥で、何かが**静かに固定された**気がした。
雨は、今は降っていない。
でも次に来る時は——
私はもう、一人じゃない。




