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雨の音から始まる、静かな異世界転生  作者: レイン
第二章 選択の痕跡
13/22

第13話 止めてしまった雨

 雨は、前触れもなく降り始めた。


 夕方。

 雲が低く垂れ込めて、空気が重くなる。

 街の人たちは慣れた様子で、洗濯物を取り込み、戸を閉めた。


 でも——

 私は、わかってしまった。


 「……この雨、来ちゃだめ」


 理由はない。

 予兆も、前例もない。


 ただ、**流れが合っていない**。


 雨は、落ちる場所を間違えている。

 本来なら、川へ行くはずの水が、街の中心を選んでいる。


 私は、足を止めた。


 能力を使うつもりはなかった。

 使わずに、やり過ごすつもりだった。


 でも。


 ——聞こえる。


 雨が、同じ言葉を繰り返している。


 ——下へ。

 ——集まれ。

 ——ここへ。


 それは、命令じゃない。

 癖みたいなもの。


 「……だめだよ」


 誰に言ったのかわからないまま、私は息を吸った。


 雨を、**聞く**。


 そして——

 初めて、意図的に**返す**。


 「そっちじゃない」


 声に出したわけじゃない。

 でも、はっきりと“示した”。


 流れは、すぐには変わらなかった。


 雨は、戸惑うみたいに跳ねる。

 街の上で、行き場を失う。


 「……お願い」


 私は、一歩前に出た。


 地面に落ちる雨粒の、重さ。

 屋根から落ちる水の、角度。

 全部、**知っている形**に戻す。


 街を避けて、

 道を外して、

 川へ。


 その瞬間。


 雨が、静かにほどけた。


 強さが落ちる。

 音が、細くなる。


 ざあざあ、という騒音が、

 さらさら、という背景に変わる。


 私は、膝に手をついた。


 息が、切れる。

 若い身体でも、軽くない。


 「……止めた」


 完全じゃない。

 でも、この街を壊す雨じゃなくなった。


 周囲を見る。


 誰も、私を見ていない。

 ただ、雨宿りしていた人が、首を傾げているだけ。


 「弱くなったな」


 「天気、変だな」


 それだけ。


 ——気づかれなかった。


 胸が、少しだけ軽くなる。


 でも、同時に。


 **はっきりしてしまった。**


 私は、聞くだけじゃない。

 止められる。


 止めてしまえる。


 雨を——

 世界の都合を——

 **曲げてしまえる側**だ。


 足元に、水たまりが残る。

 そこに映る、自分の顔。


 若くて、制服を着たままの少女。


 でも、もう。


 “流されるだけの存在”じゃない。


 私は、深く息を吸う。


 次に降る雨は、

 きっと、もっと大きい。


 それでも。


 今度は、逃げない。


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