職責
翌朝。
ジラセは父親から指示されたレ=メゾン国にある庁舎に出向くことになった。
勿論父親であるザッカスも同行していた。
父親は自らが庁舎に入って受付に書類を提出していた。
そして、その後息子の方に振り向いた。
その顔は、これ以上ともないほどの笑顔と誇りに満ち満ちているように彼は思った。
(父ちゃんは僕を平和で安全な社会に隔離しようといている。
そんな場所よりも、名誉や繁栄が欲しいけどなぁ)
ジラセは唇を尖らせないように注意をしながら、父親の想いに従った。
そう、相手が反感を持たないようにして、来年に向けての準備の一環であった。
ここは都市中央部にある市庁舎。
そこは、頑丈な石組みの建物。
そしてプルーン爵卿からの許可文を保管している施設も備わっていた。
爵卿は、各国家を飛び地のように支配する貴族であり、皆中央王国の高級官僚からなっていた。
「成程。
ザッカス殿のご子息とは君のことね、それではジラセ殿よ」
彼の目を見詰めるひとりの上官。
彼女は卓の前で腕を組んでから引き出しから一通の手紙を差し出す。
そこにはレ=メゾン国の国章である両翼に枝の生えた石が封蝋で打ち込まれている。
どうやら重要な書簡であるようだった。
「それを、嘗ての敵国であったリン=ジェンの総督にまで届けて欲しいの。
本来なら、経験のある人材に頼むべきなんだけど━━ここは君に託そうと思うわ」
ジラセはゴクリと唾を呑み込んだ。
手紙の内容は自分の国家の行く末を変えるのであろうか?
これは信頼されている証だと彼は感じ入り、力強く頷いた。
感激して涙が出ないように気持ちもしっかりと保ちながら。
彼は腰につけていたバックにその書簡をしまった。
その様子を眺めていた上官である、パァン氏。
彼女は新たに配属された男であるジラセを褒めた。
気合を籠めるように肩を叩いて。
「それでは、長官。
行って参ります」
ジラセは礼を行い、先輩について出ていった。
先輩は、十五歳になる女性。
彼からすると何故自分がこの持ち場に配属されたのか分からなかった。
周りを見ても女性比率が高く、男であるのは自分ともうひとりの爺さんだけであったから。
都市レ=メゾンから南方に位置する港湾都市リン=ジェン。
かの都市を支配下に組み込んだ後に、しっかりとした街道を整備した。
その整備の気合の入れようは、もう永続的に勢力圏の範囲内に治めるといういう首長の想い故であった。
そう、ジラセは先輩であるメメさんから聞いた。
メメさんは、背は小柄な割には圧力を感じさせる声音と態度を持っていた。
最近恋人と結婚したばかりといい、お惚気話を道中後輩に語って聞かせた。
「それでね。
ジュンちゃんだけど……、ジュンって私の旦那だけど。
彼って本当に技術力に長けているのよ、母国でその技術力の高さから今年度の匠に挙げられたぐらいに」
メメさんはジラセを先導するかのように道を踏みしめていく。
ボキ女神界は、時折勃発する女神の大乱令に備えて勢力圏外の地域とは街道すら整備していなかった。
さらに、まるで靄がかかったように当該地域の知識を得ることも困難であった。
それでも、レ=メゾン国の政権は各地の知識を得ようとして“冒険家”の職業をつくった。
“冒険家”はその呼称の通りに自らの体力と知力、そして気力を頼みの綱にして各地方の地理や文物などの情報なども収集する職責があった。
ジラセの特殊な能力である“賜力”も文物だけでなく様々なの情報を知ることのできるモノであった。
「メメさんから愛されて旦那さんは幸せですね」
ジラセは当たり障りのない返事をする。
彼女は目元から感じさせるほどの笑顔になった。
彼は心の中で生まれている溜息を吐きたい気持ちを抑えていた。
(女って、愛する人を語っている時は何でこんなに馬鹿者のようなんだ。
僕はこんな馬鹿な連中と懇意にならないようにしないと)
ジラセは心の中でその呟くと、空を仰ぎ見た。
雲一つない快晴であった。
移動の時の天気としては、これ以上ないほどの素晴らしさだった




