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父に勝利して冒険家への道を、しかし……(1-05)

 寒い季節に向かっていく秋季の手前。

体感の気温が下がりつつ外では樹々の葉が風に散っていく。

その空気感は樹々がその枝先などに実を付け始めている季節でもあった。

秋本番になる前に、数多くの動物たちは冬季に向けての準備段階になりはじめていた。


 その中をジラセは庭にある縄を巻いた人型の試練杭を訓練刀で叩いている。

両手で掴んでいる訓練刀が試練杭に当たる度に鈍い衝撃が僕の腕に伝わってきた。

毎日の特訓が、危機的な状況の底上げに繋がると信じての行動であった。


 試練杭の左右には、剣を思わせる武器と反対側には盾を思わせる木の板が手に持っているかのようにある。

試練杭は彼の父が作り、力強く芯に武器を当てると本体が回転して武器をこちらに向けてくるようになっていた。

それを回避するのも訓練の一環の一つであった。


「ジラセ、もっと自らの攻撃以外にも意識を向けておけ! 

誰でもお前が思っているような木偶の坊ではないからな」

父からの叱責。

彼は言葉の返答の代わりに、身体の動作によってその返答にした。


 その人型の試練杭は極めて実践的な存在であり、庭付きの一軒家以外のどの家庭の庭先にも備わっていた。

所謂、レ=メゾン国の民の住居の標準装備であった。


「よし。

今日は此処までにしようか。

未だ女神の大乱令はおろか戦争の兆しも見えない。

庶民が武力に関わることは大概そのふたつでのことぐらいだからな」


 ザッカスが自分の息子であるジラセを叱咤激励し労いながら、昼食とて与えられていた乾燥させたパンを彼に渡した。

そのパンは携帯できる反面、固く味も美味しくはない。

つまり人気はなかった、当然彼にとっても。


「ねえ父ちゃん。

たまには麺類のようなのが食べたいんだけど……」


 ジラセの頭の中では、レ=メゾン国で最近開発された小麦粉を練って作られた細長い麺類が思い浮かんでいた。

それに、ソースを上にのせて纏めて食べるのがマナーであった。


「麺のような柔らかい物ばかり食べていると、根性が鍛えられたないぞ。

昔から伝わるパンが一番だ。

しっかりと自らの特技や性格を熟知し、体得する。

それが未来の栄光への近道だ」


 一人息子に対して滔々と語る父親。

ジラセはその言葉に年頃のひとりとして、深く感銘を受けることなく適当に受け流していた。

そして、訓練刀を自らの父親であるザッカスの視線の正面に向けると宣言した。


「親父、僕と勝負しろ。

そして僕が勝ったら素直に冒険家に就くことを認めてもらおうか! 

しかし、負けても毎年の父ちゃんへの挑戦権を共に求める」


 彼は無謀とも言える言葉を吐いた。

しかし、彼は毎年挑戦できる保険を持たせる事も忘れなかった。

徐々に実力をつけて何時の日にか勝利できる時が来ると信じての宣言であった。


 その言葉を聞いたザッカスは表情を崩すことなく住宅に取って返すと彼に一振りの真剣を渡した。

刃を零していない正真正銘の実戦用の武器であった。


「いいだろう。

その覚悟のほどをこの俺に見せてみるがいい」


 ジラセは両手で渡された真剣を握った。

普段使っている訓練刀よりも重く重心を保つだけでも苦労しそうだと彼は頭の中に思考が広がってくる。


しかし、その想いを振り払うように幼少期から教え込まれた構えを取った。

女神の大乱令以外では、軍団に所属しない限り甲冑を着る機会はなかった。

その為、自然体の腰つきで相手を見据えた。


 ジラセは真剣を構えたまま地面を脚で蹴って、壁としての敵の父親に対して突っ込んだ。

それと共に喉奥から声を唱えながら。


 しかし、父親はその攻撃を動くことなく自らの真剣で受け止めた。

金属製の音が響き渡った。

そのまま挑戦者ジラセは、一歩引くと共に鋭い突きを行った。

それは、上からの打撃を加えられた事によって腕を痺れるとともに得物を落としてしまった。


 この瞬間にこの秋季には、ジラセはレ=メゾン国の冒険家ではなく他の仕事に就くことが決まった。

しかし、彼はそれで意気消沈することはなかった。

なぜなら、さらに来年には又挑戦権を得ることを手にしていたからであった。

その想いを胸に、十四歳で必ずや冒険家になってやると心に誓った。

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