冒険家への一歩を
ジラセは成人の儀の翌日に、いつもの朝の頃に目が覚めて起き上がった。
両親と同じ部屋で暮らしており、もう成人した彼は拠点を変えたく思っていた。
(母ちゃんであるマナラバは僕の意見を聞いて尊重してくれそうだけど、父ちゃんで、ザッカスは説得に骨が折れそうだな)
頭の中で思考が回転していく。
しかし、考え事だけをしていても先には進まない。
ここは相手を征服するかの心持で説得にかかるのみと決めた。
彼は鳩尾の下あたりに気持ちを鎮めると寝静まっている両親の枕元に立った。
両親とも、女神の大乱令を勝ち抜いた人材だと思えないほど平和な寝顔をしていた。
「ふたりとも起きて~」
精一杯の大声と頬を平手打ちをしようと体勢を沈めた。
その時に父ちゃんは急に起き上がると右腕を掴んだ。
咄嗟の行動だったわりには、かなり痛い。
「……ああ。
ジラセか。
今日は俺たちは仕事のない休日だ。
何も用事がないなら静かに眠らせてくれ」
そう言うと、ベッドの上で体を寝転がった。
「何も用事がないわけではない、です。
僕はレ=メゾン国の内外の領域を探索する“冒険家”に就きたいんです」
「そうか」
父はその一言だけ言ってまた寝転がった
ジラセは、両親に望みを伝えた事により返答を待たずに実家を出た。
そして、冒険家の集まるという料亭に向かった。
そこは、レ=メゾンの都市の左区にある一軒の店。
その店内に、冒険家を募集している張り紙が貼られている。
そして、志願者もそこに集まってくるのであった。
(確か国内で冒険家は四十一名居たはずだったけど。
僕の師となれそうな人は居るのであろうか?
いや、最初から諦めるのはよくないや)
そう自分の頭を説得すると料亭に向かった。
その料亭である、集いの酒盛り亭は名の通りに各区の冒険家たちが情報交換などの場として使われている食堂であった。
気分を高める為に酒は必須なのか、酒盛りと題されてもいた。
彼は両開きの扉を両手で押し開いた。
中で騒々しく言葉かけが行われている様子が耳に入ってきた。
その言葉を聞くだけで、老若男女が集っていることが分かる。
ざっと視線を見渡すと、奥まったところにカウンターが設けられている。
その店主の親父さんの背後には、様々な樽や瓶が並んでいた。
僕は恐れることなく、店主の方へと歩を進めていく。
「ねえ、僕は冒険家志望のジラセなんだけど。
若手の冒険家を募集している師匠になれそうな人材って居る?
年齢や性別は問わないよ、あっそれから父親はザッカスといって都市での庁舎の役割の官僚ってやらに就いているさ」
自慢にならないように慎重に声音を落ち着かせて発言した。
庁舎の官僚は、学校での文術コースで好成績を修めた人材の登竜門の一つであった。
何の登竜門かというと、官僚での実務をこなしてから政治の実験を握る政治家と成ることであった。
政治家に就任すると、名前の後ろに“卿”と付けて呼称されて年金も支給されるようになる。
「成程ジラセ様ですね。
冒険家になる為には、一季に渡る教育課程を履修する必要性があるけど、その準備は出来ているかい?」
店主の親父さんが訊ねてくる。
その答えは決まっていた、そう覚悟は出来ていた。
だって、十歳の頃からのひたすら願っていた夢の職業なのだから。
どんな苦しい試練にも立ち向かう想いと自信は腹の中に染みわたっていた。
決意に満ちた返答を聞いた親父さんは、一言口頭で伝えてくれた。
冒険家への教育課程は、春季及び秋季の一日目に行われていると。
本日は、夏季十三日。
つまり、まだ十数日ほど待たなければいけなかった。
「もっと早く修学できる裏ルートみたいのはないの?
僕は素早く就任しないと……」
親父さんは彼の両目を見ながら口角を引き上げた。
随分挑戦的な方だなと思いながら、思った。
(父ちゃんを納得させるには、最短ルートで就かないと。
そう今年度中に、ね)
ジラセはその思考を顔に出さない様に気を付けながら彼の表情を読み取ろうとした。
しかし、隠されている様な情報に気づくことはできなかった。
それとも本当に来季━━秋季━━にまで待たなければいけないのだろうか?
彼は戦慄した。




