女神の大乱令と霊魂石
女神の大乱令とは、この世界を創り出したボキ女神様による嗜みによって行われる十数年に一度訪れるという全世界を席巻する大乱の事。
この時にある国を制覇すると、その国の霊魂石を破壊して力を奪うことができる。
それによって自分たちの力を増すことができるらしかった。
そしてこの大乱には成人した男女全員がまるで酔ったかのように参戦をするらしかった。
僕の父もかつて参加した事があるらしく、その時の活躍によってママの心を射止めたとか。
霊魂石とは、一国家につき一個ずつ備わっているボキ女神様の祝福や力の備わっている石柱。
各国家ごとに色味や形が異なっている。
これを失った国民は、目頭の間の霊胞を消失してしまい精神的にも従属的に変化する。
それによって、本国でも奴隷として使われていた。
そして僕らのレ=メゾン国の霊魂石は、中央部にレ=メゾンと国家名称が彫り込まれた部分の周りにスベスベした側面を持つ。
そして、その石本体の下に国家の力のランクや国民数などの情報が記されている。
当然レ=メゾン国にも存在しており、成人した国民は霊胞を基盤にした特殊な能力を発揮することが出来る。
といっても、どのような力でも一日一度しか行使ができない。
その為、使いどころを考えないといけなかった。
僕は同年輩の皆と共に成人の儀を無事に終えた。
帰宅する時間帯には既に陽は地平線に沈んでおり、夜空に浮かぶ星星と家々の中の漏れ出る照明が道を照らす明かりとなっていた。
「ジラセ君、あたしもこれから頑張ってこの国一番の吟遊詩人になるから将来の、そのお嫁さんに選んでね」
彼女はニコリと微笑む。
その笑顔は幼少期から見慣れていて特段心が動かされることはなかった。
そして、こんな早く婚約者を決める事は未来の自分の発展を阻害しかねない要素になりそうで返答を濁した。
「も~ぅ。
本当に臆病ね」
ユマは冗談半分の声音で僕の隣を歩きながら色々な題材の話題を振ってくる。
「そんな事ばかり言ってると、ボキ女神様の加護を失ってしまうぞ」
「そんなことないもん!」
ユマは慌てたように言葉で僕の言葉を一刀両断した。
といっても、僕の言葉には裏付けがないわけではなかった。
その答えは、『ボキ女神様は、愛し合ってない者同士の結婚の決断にはしている』という事であった。
僕らは成人したとはいってもまだ若い。
気が変わらないとも限らないから、早めに決断するのは不利であった。
僕の両親も付き合うまでに一年以上かかっているらしく、母であるマナラバの熱意によって父ザッカスの心に恋の炎が燃え移った格好であったらしかった。
僕は自宅についてユマと別れようと言葉をかける。
その言葉を聞いて彼女は大袈裟に目を瞑って涙を流した。
お得意のウソ泣きだろう。
そこで僕は気にしないようにして玄関の戸に手をかけた。
しかし、その時に服の裾を引っ張られる感覚を持ち振り向くとユマが裾を片手で掴んでいた。
その顔は項垂れており、見せたことのないほどの悲しさを湛えていた。
「あのさあ、ユマ。
お別れしたり縁を切ったりするわけではないしさ━━そこまで悲しむことはないさ」
僕は明るく断言した。
日頃見せる事のないほどに元気よくも示した心算だった。
「あたしは……あなたが誰か他の奴に奪われるんじゃないかって心配なの。
一番、そう一番付き合いが長く深いって自覚があるから。
都市の傍にあるメゾン湖の満々と湛える水のように」
メゾン湖は、レ=メゾン国で最も巨大な湖であった。
もっとも、“湖”と呼べるのは其処だけであり言い伝えで伝わる“海”といってもいいだろう。
海は湖よりも巨大であり、反対側の岸辺が見えないほど遠くにある場合に使うらしかった。
レ=メゾン国の勢力圏の支配下には、港湾都市リン=ジェンがあった。
女神の大乱令の結果征服した土地であった。
リン=ジェンはその名の表すとうりに巨大な港を有しており、国外との貿易によって富を増してきていた。
その反面軍事力に劣っており、我らの国は一代前の女神の大乱令の時に占領下に置いたのだった。
そして僕は自班の決断を反芻しながら帰宅した。




