人権がない 私たちのドッペルゲンガー【短編版】
わたしと同じ形の乳首をつねる。
すると、わたしと同じ形の唇からくぐもった声が漏れた。
わたしはわたしの姿が大好き。
ツヤツヤで透き通った肌はいつも撫でちゃうし、スラリとした手足は見惚れちゃうし。
パッチリとしたお目目と、小動物のようにかわいい顔立ちなんて、いつまでも見ていられる。
ホント、こんなにかわいく産んでくれたママとパパに感謝! ……まあ、なんでか2人にあまり似ていないけど。
代わりと言っていいのかな。親よりもそっくりなヤツがいるけど、そいつのことは心底嫌い。
「ちょっと、あんまり動かないでよ」
「……ぁ……うぁ……」
わたしと同じ目。同じ口。同じ胸。同じ手足。同じ肌。
ホント、不思議。
鏡映しみたいだけど、鏡じゃない。
わたしと全く同じ姿をした人間が、目の前にいるなんて。
……ああ、違う違う。
人間じゃなくて、ドッペルゲンガーだった。
間違えると、村のしきたりだからって、ママにすごく怒られちゃう。
でも、わたしもママぐらいヒステリックに怒ってもいいよね?
こいつ、わたしと同じ姿でサイテーなことしてるし。
「ねえ、あんた、知ってるよね? わたしが先輩のこと大好きだって」
一つ上の先輩。
思い出すだけで、胸がドキドキしちゃう。
よく見ないとわからないけど、顔が整っているし、どこか儚げな雰囲気がホントにイケメンなの。
こんな田舎に引っ越した時は死んだ方がマシって思ったけど、先輩に出会えただけでもお釣りが出るって感じ!
オンボロ神社の神様、ありがとう!
って、素直に言えたらよかったんだけどね。
「今日、先輩との初デートなんだよ。先輩の家にお邪魔するの。昨日の帰り、なんて言われたかわかる?」
猛烈アタックして、芋っぽいくせに先輩にたかる虫を駆除して、やっとの想いでお付き合い出来たのに! なんでこんな想いをしなくちゃいけないの!?
「とってもかわいくて無邪気な顔で『君のドッペルゲンガーを見たい』って、先輩、言ってた。わたしが彼女なのに……。どうせ下品で気持ち悪い手段を使ったんでしょ」
「……ぁ……う……」
「声ぐらいちゃんと出したらどうなの!?」
何その顔。
悲劇のヒロイン気取り?
はあ。舌を抜かれているからって、わたしが怒らない理由にはならないよね?
わたしのドッペルゲンガーなら、それぐらいで諦めんなよって。
「先輩も変わってる。こんなにお腹が大きいのに」
まあ、先輩のそういうところもかわいいけど。
こいつは気持ち悪い。
お腹がポッコリしているのって、不格好すぎない? 全然かわいくない。ドッペルゲンガーなら全部同じでいてよ、気色悪い。
はあ。妊婦なのに色目使ってたの? 先輩に自分の赤ちゃんを押し付けるつもり?
先輩はアンタの彼氏とは、全然違うんだよ?
先輩は無責任なことをしない。
ハジメテの時だって、すごく優しくしてくれるだろうし。
もし妊娠しちゃっても、頑張って一緒に赤ちゃんを育ててくれるに決まってる。
絶対にそう。間違いないっ!
やっぱり先輩がイチバン!
って、あれ?
「やばい! もうこんな時間!」
早くしないと先輩を待たせちゃう!
えっと、わたし、今日もかわいいよね?
髪は大丈夫?
お化粧は? 日焼け止めはしたよね?
あ。ちょっとクマができちゃってる。もう隠す時間がないし、どうしよう。
でも、これも健気さが出ていいかも? 実際、デートが楽しみすぎて眠れなかったんだし。
服はこれでいいよね?
白くて清楚なワンピースに、大きな麦わら帽子。田舎の風景にばっちり合ってる!
でも、男の子ってこういう服が好きなんでしょ? 先輩、かわいいって言ってくれるかなぁ。
勝負下着も、うん、ちゃんとエロい。
あとはドッペルゲンガー。
さすがに裸のままはマズイよね。ママ、世間体にうるさいし。
でも、汚れちゃうから、わたしの服も着させたくないなぁ。
あ、そうだ! 今度捨てようと思ってた服があったんだった。
えっと、確かクローゼットの奥に……。
って、ダサっ! え、わたし、こんな服着てたの、子供っぽすぎない!? 小学6年生ぐらいの時だったから、2年前だよね? 何考えてんの!? 死にたくなってきた!
えっと、落ち着こう、わたし。
ドッペルゲンガーに着させるのにちょうどいいよね。うん。
ちょっとタイトだけど、いつも裸でいるんだからちょうどいいでしょ。
あとは首輪をつけさせて、バッチリ!
あーもー! 結構時間使っちゃった。急ぎすぎると汗かいちゃうし、余裕を持って行きたかったのに!
「ママ、いってきます!」
「いってらっしゃい。あら、ドッペルゲンガーも連れて行くの?」
「本当はイヤだけどね。先輩に言われたから」
「変わった男の子ねぇ」
「そういうところがかわいいんだけどね」
ママ。その顔やめて。恥ずかしいんだけど。
「あら。誰に似たのかしらねえ。ちゃんとものにしてくるのよ」
「うん。任せて」
あ、すごい。
ドア開けたら、清々しい青空。
田舎、空気がキレイなのはいいけど、本当に何もないなぁ。
田んぼと畑しかない。虫いっぱいいるし、本当に日本なの? わたし、タイムスリップしてない?
それにしても、いつ見ても不思議な光景。
みんな、犬みたいにドッペルゲンガーを連れまわしてる。田舎ってホント都会と違う。どこもこんな感じなの?
えっと、待ち合わせ場所は校門で間違ってないよね。
うん、大丈夫。メッセージにも残ってる。
先輩、もう来てるかなぁ。
どんな格好で来てくれるのかな。
あ、先輩、もういる。
うそ。ちょっとだけオシャレな服を着てる?
わたしは大丈夫だよね?
かわいい? 髪、乱れてない? 顔赤くなっちゃってる。表情固くない?
先輩、もうこっちに気付いて、手、振ってくれてる。幸せ。
「す、すみません、待ちましたか?」
「大丈夫だよ。今来たところだから」
「先輩。好きです」
「え、いきなりどうしたの?」
やっちゃった!
顔熱い。やばいっ!
先輩困ってるじゃん。何やってるの、わたし!?
でも、先輩がかっこよすぎるのが悪いよね。
いつもは地味な学ランだったけど、今は私服。ううん、至福かも。
全部、村のダサい服屋で売っているものばかりだけど、先輩が着るだけで韓流アイドルみたい。
なんだかいい匂いするし、どうなってるの!?
って、見惚れすぎちゃった。先輩に返事しないと!
「えっと、その……。つい言いたくなっちゃいまして」
「そうなんだ。かわいいね」
え、かわいいって言ってもらえた。ここって天国だっけ?
「それで、これが君のドッペルゲンガー? こっちもかわいいね」
やっぱり地獄だったかも。
「ちょっと触ってもいい? このドッペルゲンガー」
「恥ずかしいですけど、先輩ならいいですよ」
あ、わたしと同じ肌に、先輩の指先が触れてる。
ちょっとゴツゴツしてそう。
そうだよね。いつも河原で石に触ってるもんね。
あんな指で触られたら、どうなっちゃうんだろう。
きっと、すごく気持ちいいよね。
あ、先輩の顔、わたしと同じ形の耳に近づいていく。
何を言っているのかな? 絶対、甘い言葉だよね。
――って、おい、ドッペルゲンガー。
なんで少し嬉しそうにしているんだよ。
は?
はあ???
はああああああああああ????
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな。
先輩はわたしの彼氏なのに。王子様なのに。
お前は人間とすら思われていないだけだろ。
ペットと変わんないんだよ。わかってんのか? 獣なんだよ、獣。
お前のような汚れた穴になんて、先輩は興味ねえよ。
って、危ない危ない。顔に出るところだった。
ほら、わたしの顔、にこー。
「面白いね。ドッペルゲンガー」
「そうですか? ドッペルゲンガーなんて、人間とほとんど変わりませんよ?」
「そこが面白いんだよ。全く違う生き物なのに、」
「え、なんで女の子の感触を知っているんですか?」
え。
先輩って、こんな田舎に住んでて、素朴で、イケメンで……。
だから、わたし以外に触れたことないはずだよね!?
そうだよね!?
ヤリチンだったりしないよね!?
「ごめんごめん。お姉ちゃんがいたからね。まあ、僕のオナニーを見たせいで出て行っちゃったんだけど」
よかった〜〜〜。
そうだよね。先輩にも家族がいるんだから、当たり前だよね。
あ、先輩、手を握ってくれた。恋人繋ぎなんて、大胆。
「じゃあ、行こうか」
「あ、えっと、どこに……?」
「もちろん、僕の家だよ。約束したでしょ?」
そうだった。
頭、ぼーってする。顔、あつい。
あー、幸せ。
「先輩の家、楽しみです」
「豪邸じゃないよ?」
「先輩が住んでいるだけで、どんなお城にも負けません」
「面白いこと言うね」
もう、先輩に手を引っ張られるだけで尊い。
これが先輩の歩く速さかぁ。
ちょっと遅い気もするけど、ノンビリできていちかも。
田舎の人って、なんで歩くのが遅いのかな?
あれ、無言になっちゃった。
やばいやばいやばい! つまらない女だと思われちゃう! なんでもいいから話さないと。
「あの、先輩」
「なに?」
「先輩って、休みの日に何をしているんですか?」
こんな話題しか思いつかなかったけど、大丈夫かな。
「うーん。これと言って、何かをしていることはないかな?」
「えー。本を読んだりとか、SNSとか、絶対何か」
「じゃあ、当ててみてよ」
まさか試されてる!?
でも、わたしを甘く見てもらったら困りますよ、先輩。
「河原で石を積み上げてるんじゃないですか?」
「え、なんで知ってるの?」
驚いてる先輩の顔、かわいい。
いつもは何考えてるかわかんない顔をしてるから、わたしの言葉で表情を変えてくれると、胸がキュンキュンする。
「実は見たことがあるんです。河原で先輩がしていること」
「うわー。恥ずかしいなぁ。誰にも見られてないと思っていたのに……」
あ、やっと顔を赤くしてくれた。
色っぽくてドキドキしちゃう。
「でも、虫が嫌いなはずだよね? 都会から来た人だし。なんであんな山奥の河原にいたの?」
「えっと、聞いても嫌わないでくださいね……?」
「大丈夫だよ」
ちょっぴり不安だけど、わたしのことは何でも知ってほしいし。
上目遣いでお願いしたし、大丈夫だよね。
わたし、かわいいし。
「わたし、家出したことがあって、その時、偶然にも先輩がいる河原にたどりついたんです」
「へー。とってもいい子に見えるのに。意外だ」
「元々、こんな田舎に来るのは反対だったので。あ、でも、先輩と出会えたことはすごく嬉しくて幸せだなー、って思いますよ」
「僕も君と出会えてうれしいよ」
ガチ!?!?
ニマニマが止まらないんだけど!?
相思相愛って、こんなに気持ちいいんだ。今まで奪ってばかりだったから、全然知らなかった……。
「最初は興味本位で見ていました。何をしているのかなーって」
「石を積んでいるだけなのに、よく見てられたね。全然気づかなかったよ」
「その時のわたしには、新鮮で、とても奇妙に見えたんです。石を、絶対に積みあがらない形にしようとしている男の子が気になったんです」
本当、あの時のことは運命だと思っちゃう。
「完成した時、わたしは思わず声をあげました。重力がないみたいに積み重なった石たちが、すごくキラキラして見えました。生まれて初めて、感動を知った気がしたんです」
いつ思い出しても、鳥肌が立っちゃう。
あの日から、わたしは先輩のことしか見えなくなっちゃった。
この人はなんの変哲もない石もキラキラに変えちゃう、魔法使いみたいな人。だから、わたしは先輩のそばにいたいって思ったの。
まだ恥ずかしくて、そこまでは言えないけど。
「ストーンバランシングって言うんだ」
「ストーンなんて、キラキラした名前ですね」
「そう? 地味じゃない?」
うーん。どうすればわかってもらえるかな?
そうだ、スマホ!
あ、やばい。充電ない。でも、先輩に見せたい!
「これです。これ!」
「なにこれ。人の顔が光ってる?」
「ストーンメイクっていうんですけど、ラインストーンを顔につけると、とってもかわいいんです。あの時の先輩は、これぐらいキラキラして見えました」
「……へぇ」
あれ、先輩の表情、暗くなっちゃった。
何かやらかしちゃった!?
「すみません、先輩」
何に謝っているかは分かんないけど……。とりあえず謝れば許してくれるよね! ねっ!
「違うんだ。やっぱり、僕は変わっているんだなぁ、って思っただけで」
「確かに、」
「そうじゃなくて……えっとね。僕がキラキラして見える時が、君と違うんだ」
「……え?」
絶対、石が積みあがった時が一番キラキラしてるよね?
それ以外のどこにキラキラがあるの?
「石を積み重ねるのって、すごく大変なんだ。重心とくぼみを考えて、本当に繊細な動きでバランスを保たないといけない。カッチリと合わせるためには、目に見えない程の微調整が必要になるんだ。すごく頑張って、神経を集中させて、何度も失敗して……やっと完成する」
「本当にすごいと思います」
「僕はね、その努力の結晶を壊す瞬間が、最高にたまらないんだ」
それって、一番切ない瞬間じゃないの?
でも、先輩、全然冗談を言っていなさそう。
「なんだろうね。僕はきっと、何かが壊れてしまっているんだ。人と感動する瞬間が違っているし、きっと化け物なんだろうね」
「そんなことはないですよ!」
先輩が化け物なわけない!
確かにおかしいなって思ったけど、こんな素敵な人なんて他にいないもん!
「ちょっと変なところも先輩の個性ですよ。確かに少し困惑しましたけど、先輩のことが好きな気持ちはちっとも揺らいでいません!」
あ、先輩黙っちゃった。またわたし、何かやらかしちゃった? 言葉選び間違った?
「ありがとう。君が彼女になってくれてよかったよ」
よかった。
先輩……しゅき。
心臓がバクバクすぎて太陽になっちゃいそう。
「君みたいな人がご主人で、このドッペルゲンガーも幸せだよね」
「当たり前じゃないですか。わたしはいつも、ドッペルゲンガーのことをいっぱい可愛がっていますから」
なにその目。反抗的。
ご主人様を立てることもできないの?
って、あれ?
なんで先輩、ここで足を止めるの?
えっと。
そんなわけ、ないよね……?
「ここが僕の家だよ」
え……………?
ここが、先輩の家?
っていうか、これ、家なの?
わたしの目がおかしいのかな?
どこからどう見ても、これって鳥居だよね?
神社の入り口。
でも、なんでかな。不気味に見えちゃう。
すごく古くて汚いはずなのに、キレイすぎる気がする。
「えっと、先輩の家って神社だったんですか?」
「うーん、ちょっと違うかなー」
「え?」
「とりあえず、上がってもらえばわかるよ」
今さら帰るなんて無しだよね。
先輩に嫌われちゃうかもだし。
「あ。大事なことを言い忘れてた」
なんですか?
あれ、なんでうまく声が出せなかったんだろう。
「君は階段の右側を歩いてね」
「先輩の後ろについていけばいいんですか?」
「そうじゃなくて、僕は左側を歩かないといけないから、君は反対側を歩いて。ごめんね。そういうしきたりなんだ」
「じゃあ、手を繋いで登れますね」
よくわかんないけど、こういう時はかわいくポジティブ思考!
「ごめんだけど、手を繋ぐのも禁止なんだ。あと、君のドッペルゲンガーも僕と同じ右側だから、リードを貸してくれない?」
「……わたしが、先輩の彼氏なんですからね」
「わかってるよ」
はぁ。
この村、変なしきたりが多いなぁ。
田舎って自然がいっぱいで自由な雰囲気があるのに、窮屈なのが嫌だなぁ。
って、この石階段、登るの大変なんだけど。
一段一段が狭いし、ちょっと苔生えてるし、サイアク!
……ふう。
なんとか登りきった。汗で化粧落ちてないよね?
「ようこそ。ここが僕の居場所だよ」
やっぱり、神社だ。
おんぼろ神社。
よく見たら所々穴開いてるし、貧乏くさい。
でもやっぱり、違和感がある……。なんでだろう。
「じゃあ、上がって上がって。大丈夫だよ、親はいないから」
「えっと、お邪魔します」
ドキドキする。
けど、どっちのドキドキなのかな。
ここ、本殿って言うんだっけ。名前負けしてるぐらい小さいけど。
たしか、ママは入るなって言っていた気がする。でも、先輩の方が正しいよね。うん。
…………え。
ここ、人、絶対住んでないよね?
テレビも冷蔵庫もないんだけど。
真ん中にあるのは何?
大きな鏡なのかな。かなり古そうだし、こんな大きな部屋に鏡だけって、ちょっと不気味かも。
こういう鏡、姿見って言うんだっけ。
「鏡が気になるかい?」
「あ、えっと、その……」
「のぞいていいよ」
なんでだろう。先輩の言葉に逆らえない。
嫌な予感がするけど、鏡をのぞきたくて、わたしを抑えられない。
のぞいただけで呪われたりしないよね?
……なんで?
鏡の中に、わたしがいっぱい映ってる。写真が何枚も重なってるみたい。
合わせ鏡って、たしかこう見えるよね。
後ろに鏡はない……よね。そうだよね。この1枚しかない。じゃあ、なんでこんな風に見えてるの?
「お、ちゃんと映ってるね」
あれ、先輩は普通に映ってる。
すごく怖い。
「この鏡、おかしくないですか?」
「大丈夫だよ。この鏡は本当の姿を映してくれるんだ。なにせ、この村にずっと昔から伝わる鏡だからね」
「本当の姿……?」
意味わかんない。
いつも見ている自分が、自分じゃないの?
「人間って、自分の姿を直接見ることはできないよね。カメラとか鏡とか、光の反射を使わないと、自分の姿を見ることができない。それって、実は本当の姿じゃないんだ」
「……え?」
そんなわけないって。
なにを言ってるの、先輩?
「ずっと、僕たちは信じ込まされてきたんだ。鏡に映る姿が、本当の自分だ、って。この鏡はそれを気付かせてくれるんだ。目に見えるから真実とは限らない」
た、たしかにそうかもしれない。
この世界は全部全部偽物で、本当の事なんてひとつもないし、先輩が全部正しい。
あれ、わたしがおかしいのかな?
いやいやいや! そんなわけないって!
わたし、頭はあまりよくないけど、それぐらいはわかるよ!?
って、あれ?
この神社、おかしくない?
いやいやいやいやいやいやいやいや!
絶対おかしいって!
すごく古いはずなのに、きれいすぎるでしょ!
木目も、キズも、汚れも、全部っ! 鏡を境に鏡映しになってるんだけど!?
こういうのって『せんたいしょう?』っていうんだっけ。数学なんて嫌いだからわかんないけど。
絶対、ふつうじゃない。
鳥肌が止まんない。
すごくザワザワする。
吐き気がするし、クラクラする。なにこれ、つわり?
「すみません、先輩。ちょっと具合が悪くなってきたので――」
帰ります。
早く早く早く早く早く!!!
逃げないとっっ!!!!
「ほら、帰るよ」
ちょっとドッペルガンガー、なんでそんな顔をしてるの?
早く帰らないといけないの、あんただってわかるでしょ!?
死にたいの!?
ねえ、早く。
ちょっと。なんで、わたしの腕を掴んで――
「……………………?」
わたし、いま、どっぺるげんがぁに、なに、された?
きす?
した、べろべろされた?
あれ?
とっても、きもちー。
ああ、ワタシの顔ってかわいいなぁ。
「ああ、今の君はとってもキラキラしているよ」
あれ、わたし、なんでふく、きてない?
くびわ……?
「大好きだよ」
……なんで、おなか、ふくらんでるの?
ここ、どこ?
いま、いつ?
暗いし、きもちーし、いたい。
わたし、ワタシとなにをしてるの?
あ、ママ、パパ!!
どうしたの?
なんでそんなに冷たい顔してるの?
わたしだよ。かわいいかわいい娘!
わかるでしょ!?
すぐに助けて!
なんだかわかんないけど、すっごく怖い!!!
あれ?
…………なんで。
いや!!!!
わたしの舌、引っ張らないで!!!
抜けちゃう!! 千切れちゃうっっっ!
あ…………あぁ……………。
あれ?
なんでワタシが、ママとパパとご飯食べてるの?
一緒に笑ってるの?
学校に行ってるし、わたしのお気に入りの服を着て、笑ってるの?
やめて。
わたしの乳首をつねらないで。
痛いって。
そんなに酷いこと言わないでよ。
苦しいよ。
泣きたいよ。
誰かに話を聞いて欲しい。
わたしって、そんな権利もないの……?
ねえ、わたしってなんなの?
こんなの酷いよ。
死にたい。
……………………………
………………
…………
……
あれ、わかっちゃった。
そういうことだったんだ。
ワタシってかわいいんだから、本物とか偽物とかどうでもいいんだ。
あ、先輩。
ワタシの家に来てくれたんですね。
とっても嬉しそう。
先輩の笑顔が見れるなんて、幸せ過ぎる。
どうしたんですか。
今日はわたしなんかに用があるんですか?
ああ、こんなわたしに触ってくれるんですか?
うれしい。
ワタシもとっても嬉しそう。
愛しています、先輩。
わたしに何をしてもいいですよ。
割れるまで、グチャグチャにしてほしいです。
だって。
わたし、もうヒトじゃありませんから♪
この作品は、長編で書く予定だった作品を、短編として再編したものです
また、もし長編化する場合は、この小説を更新する形で報告しますので、長編を読みたい人はブクマをしていただけると幸いです
ついでに、☆をもらえる作者のモチベーションに繋がります!