再:白い靄のなかに
「ん……?」
ぼんやりと靄のかかった意識が次第に澄んでくる。
そのとき「…ねぇ、この後どうする?」と、
横から唐突に話しかけられる。
その話しかけてきた声の主は玲唯である。
「ゆ…い…?」驚き動転して瞬間的に語彙力が低下する。
「えっと…えっ…なんで…?なんでなんだ…?」
「どうしたの…?湊人?」心配そうにこちらを観ている玲唯はついさっき自分のせいで死んでしまったはずだ。なのに何故自分の前で話し、動いているのか。これは夢なのか。幻覚なのか。そう自問を繰り返しても一向に答えが出ない。
「湊人…?お腹が空きすぎておかしくなっちゃったの…?」そう訊ねる玲唯の言葉を聞いてふとある可能性に思い至る。
「玲唯、あの建物は?」そう質問を投げかけると、「…えーっと…あの建物…って何…?」と不思議そうに思う声が返ってくる。
その予想通りの返答を証拠に、仮説が一気に可能性を増す。
おおよそ異世界転移・転生系にあるあるなチート能力というものだろう。「時間を戻せる」ということだけは分かった。つまり自分が死なない限りは何度でもやり直せるのだ。そう考えるとある程度リスキーなことでもやる価値はある。
「玲唯、あっちの方角に魔法弾撃ってみてくれない?」そう指をさした先には例の中世風の建物がある…はずである。撃って外れれば反撃が返ってこないとも限らないしさっきの例を見るにその可能性も充分に高い。玲唯は「えーっと…な、なんで…?い、いいけど…」と戸惑いながらマナを高めていく。そして、「イレ・バレータ!」と高らかに詠唱し、玲唯の頭上に形成された楔型と円柱を融合させたような魔法弾が超速で目標(があるであろう場所)に飛んでいく。数秒後、破裂音と共に鈍く崩壊する音が轟いてきた。
その音は地面を、大気を、揺らした。全てを揺さぶるその音は、叫びのようでもあった。
「えっ…えぇ…」と玲唯は魔法弾の破壊力に驚いているが、すでに自分は履修済みなのでそこまで驚いていない。
その時だった。ふっと空が暗くなったような気がして、空を反射的に見上げると、不幸か幸いか、玲唯の魔法弾の攻撃を耐え凌いだらしい家の一部が空高くから落下してきているではないか。瞬間、さっきのシーンが脳内で再生された。ヒビが広がる。その光景から逃れようと思い切り足に力を込め、その力を思い切り解放し玲唯に向かって走り出し、後ろから抱き留める。そのまま地面に背中から飛び込む。
「ひゃっわっぁ?!」驚き目を白黒させている玲唯をみて既視感を覚える暇もなく、後ろに物体が落ちる。
メンコ遊びをシンバルを使ってやったような大きな音が辺り一帯を満たす。
「はぁっ、はぁっ…」息も荒く地べたに横たわっていると、腕の中で玲唯が震える。「…えっ…と…ど、どうし、たの?」そう切れ切れに訊ねる彼女の声には驚きからなのか元気がない。
「空からでかい建材が飛んできてたから…乱暴なやり方になっちゃってごめん。」と事情を説明して謝ると、「あっそうだったの…ごめんね、なんか湊人が悪いみたいな言い方しちゃって…」と申し訳なさそうに逆に謝られてしまった。しばらくの沈黙の時間が二人を包む。「えっと…湊人?」ためらいがちに話しかけてきた玲唯の意図を感じとり、「———ちょっと待って、少しの間だけこのままでいさせてくれ」と遮る。「えっ…あっ…うん…」こちらの意図を掴めないながらも最大限気遣ってくれようとしているのか、そのまま自分に身を任せてくれる。
さっきの玲唯を失った衝撃は未だ心の中でぐるぐる渦巻いている。それを抑えようと玲唯の温もりを感じながら瞠目する。無意識のうちに強く玲唯を抱きしめる。「…湊人…ちょっと痛いかも…」と玲唯に言われ、はっと我に返り、慌てて力を抜く。次の瞬間、自分は夢の中へ堕ちていた———
ふと目が覚めた時、目の前には腕の中で眠る玲唯がいる。寝起きの感情に任せるままに玲唯の寝顔に顔を近づけて、静かに、キスをした。
魔法の詠唱
-属性-
「イレ」はIllusionからきている「幻想」の意。
「ウェ」はWindからきている「風」の意。
「ワロ」はWaterからきている「水」の意。
「フラ」はFlareからきている「炎」の意。
「アイ」はIceからきている「氷」の意。
「ネチ」はNatureからきている「自然」の意。
「ライ」はLightからきている「光」の意。
「ブレ」はblightからきている「陽」の意。
「シェ」はShadeからきている「陰」の意。
...etc
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-形態-
「バレータ」はbulletからきている「弾」の意。
「バレア」はbarrierからきている「防壁」の意。
「エクスプラーズ」はexplosionからきている「爆発」の意。
「ヒーリア」はhealからきている「治癒」の意。
「スカール」はskillから来ている特殊攻撃の意。
..etc