夢幻を想う
「う…」
頭がじんじんする。身体中が金縛りにあったかのように動かない。
「…やっぱダメだったかぁ」
そう、ひとりごとを呟く。
自分でだって分かってはいたことだ。あんなにも巨大な物体が近くに堕ちてきて助かるわけがない。それでも藁にも縋る思いで逃げていたが、まあ所詮は無駄なことだったのだ。
そう思うと自分の身勝手な行動について来てくれた玲唯に申し訳なくなって仕方ない。
その時、ふと目に光が差し込んだ。
あまりのまぶしさに目をさらに強く閉じる。
だがそれも一瞬のことだった。
「…起きなさい、湊人。起きなさい…」
とどこからともなく声が聞こえる。
耳を澄ましてみると、それは外から聞こえているのではなく、頭の中に直接聞こえているようである。それならば耳を澄ます…の意味が分からないわけだが、そんなことを考察できるほどの気力は残されていない。
「うーん…」と返事とも取れないような声を出し、起きようともせずにいると、「湊人!起きて!おねえさんが困ってるよ!」と玲唯の声が聞こえた。「ゆ…い?」
「いいから早く起きて!ねぇってば!」
ここまで焦っている玲唯は珍しい。何かしら事情があるのかも知れない。どうにか目を薄らと開けると、こちらを覗きこむ見慣れた玲唯の顔と見知らぬ女性の顔が見える。
「起きた…かしら?」とおずおずとその声の主に訊ねられ、「…あっ、は、はい」と答えると、「あぁよかった!この世界で初めての死人に…いえ、二人目の死人になるところでしたぁ。」となんとも言えない身の案じ方をされ、苦笑いをする。まだ体は重いが、どうにか起き上がれそうだ。
「えーっと…すみませんどなたですか…?」
そう疑問を口にすると、思わぬ質問に面食らったようで「えぇ?!私を知らない人がいるなんて…」と驚いていた。その後、名前を聞いたらわかるかもと「私は幻想の女神、ミヌシューラよ。」と自己紹介してくれたが、あいにくながら一ミリも分からない。その俺の様子を見てあからさまに肩を落とし、うつむいてフリーズしてしまった。
「やっぱり僕ら死んじゃったんですかね…?」
そう訊ねると、数秒の空白のあと、「え?死んだと思ってたの?そんなわけないでしょー!」と高いような低いような何とも言えないテンションの返答が返ってくる。情緒がどうなっているのか気になるばかりである。
だがそんなことよりもその「死んでいない」ということが気になって仕方なかった。
もし死んでいないのならここはどこなのか、周りを見渡しても一面白い大地が広がるばかりで何かめぼしいものは見当たらない。
そんな僕の様子を見て思ったのか、「ここは『夢嶺』と呼ばれる場所。いわゆる志としての『夢』の辿り着く先ね。ここに過去から現在までのあらゆる人々の夢が詰まっているの。だから決して安全だとは言えないし、逆も然りね。」と補足してくれた。
「えっ?安全じゃないんですか??」
思わず声に出すと、そうだけど何か、と言わんばかりの「そうね」という言葉が顔の横を掠って行った。
「とはいえ、流石にあなたたちにすぐ死なれても面白くないし酷でしょう?だから何か武器なり物資なりを与えようと思うんだけど、何か欲しいものがあるかしら?」
まるで自分は慈善家でしょうと言わんばかりにドヤ顔をしている女神さまだが、そもそもこの世界に連れて来たのも本人なわけで。
まあそんなことはいい。とりあえず物質や武器が貰えるというのはありがたいことである。
「えーっとじゃあ2階建ての戸建みたいな家とM16とその弾丸、あと十分な食糧と畑が欲しいです」
絵に描いたような欲張りセットを頼んだのは理由がある。そう、何も考えず反射的に答えてしまったためである!
「えっとちょっと待ってね、M16ってなに…?」
だが女神さまが気にしたのは量でもなんでも無く武器の話だった。M16というのはいわゆる重機関銃と呼ばれる部類の銃である。なんでこんなものを頼んだかと言えば自分にとっての武器と言えばがこれだったからである。そう、みなさんお気付きのとおり私はミリオタなのである。まあだから友人も少ないのだが。
「アメリカにて開発された重機関銃です。」そう言った瞬間、「なんですって?!ここは銃火器持ち込み禁止よ!?」と激烈な反応を受けた。「えっここ夢が叶うんじゃないんですか?」「だからって銃は持ち込んじゃダメじゃない!」「えぇ…そんなぁ…」なにやら彼女は銃を極端に嫌っているらしい。何か理由でもあるのだろうか。銃器持ち込み禁止の謎空間で使え得る上、こちらから一方的に攻撃できるものは…「うーん、じゃあとりあえず弩を…」「弩ね、わかったわ。」
自分は近代兵器ばかり調べているので他に知っている高威力遠距離武器は弩か長弓ぐらいしかない。
すると玲唯が恐る恐る口を開ける。「わ、私も欲しいんですけど…い、いいですかね…?」すると某女神は「どうぞ。みんななんでももらえるのよ。」と肯定し、玲唯の答えを待つ。玲唯は少し考えたあと、「じ、じゃあ!ま、魔法を使えるようになりたいです…!」と言った。
「魔法?!」そう驚きの声を上げる二人の声が限りない空に響き渡った。