夜の語らいと死神の務め
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悠真の部屋から凛が消えた後、彼はベッドに倒れ込んだまま天井を見つめていた。頭の中は校庭での化け物、凛の鋭い刀さばき、そして彼女の腹黒い言葉でぐちゃぐちゃだ。窓の外からは秋の虫の声が聞こえ、静かな夜が広がっている。だが、悠真の心はちっとも落ち着かなかった。
「化け物退治に協力って……マジで何だよ、これ」
彼は呟き、枕に顔をうずめた。だが、その瞬間、部屋の空気がわずかに変わった。ひんやりとした気配が漂い、背筋にゾクッと寒気が走る。悠真が慌てて顔を上げると、ベッドの端に凛が座っていた。さっきと同じ現代風の黒いデニムと白いシャツ姿だが、なぜか左手に古風な提灯を持っている。提灯の淡い光が部屋を不思議な雰囲気に包む。
「うわっ! なんでまたいるんだよ! 出てっただろ!?」
悠真は飛び起き、ベッドの端に後ずさった。凛は提灯を軽く揺らし、悠真を一瞥して薄く笑った。
「騒々しい若人よ。わたくし、そなたに話すべきことがあり、戻ったまで。さほどの驚きは無用」
彼女の古風な口調は変わらず、どこか落ち着いた響きがある。だが、悠真は彼女の突然の出現に心臓がバクバクしていた。
「いや、驚くわ! 普通にドアから来いよ! ていうか、さっき窓から出てったのにどうやって――」悠真の言葉を、凛は片手で制した。
「時を無駄にするな。そなた、穢れのことを知りたいのであろう?」
凛は提灯を床に置き、悠真の目を真っ直ぐ見つめた。その視線は鋭く、まるで心の奥まで見透かすようだ。悠真はゴクリと唾を飲み込み、渋々頷いた。
「まぁ……確かに。あの化け物、穢れって何なんだよ? なんで幽霊を襲ってたんだ?」
凛は小さく息をつき、ベッドに背を預けた。彼女の左腕の包帯が提灯の光に照らされ、かすかに血の滲みが浮かんでいる。彼女はしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「穢れとは、現世にて死した魂が、あの世へ旅立てず堕ちた末に生まれるもの。あの世への道を踏み外し、怨みや執着、或いは強すぎる未練に縛られた魂は、妖魔と化す。それが穢れじゃ」
悠真は目を丸くした。
「え、じゃあ、あの化け物って、元は人間の幽霊だったってこと?」
「然り。されど、もはや人の魂の欠片すら残っておらぬ。穢れはただ喰らうのみ。亡魂を喰らい、力を増し、さらなる禍を現世に撒き散らす」
凛の声は淡々としていたが、その言葉には重みが宿っていた。彼女は提灯を見つめながら続けた。
「あの校庭の亡魂、あの女はまだ穢れに堕ちてはおらぬ。だが、穢れに喰われれば、その魂は永遠に救われぬ」
悠真は校庭で見た女の幽霊の怯えた顔を思い出した。あの震える姿が、永遠に消えてしまうかもしれないと思うと、胸が締め付けられるようだった。
「じゃあ、あの幽霊を助けるために、お前は戦ってたのか?」
凛はわずかに目を細め、悠真を見やった。
「助ける、と言えば聞こえは良い。されど、わたくしの務めは異なる。わたくしは穢れを討ち、亡魂を正しくあの世へ送る者。いわば、死神と呼ばれる存在じゃ」
「死神!?」悠真は思わず声を上げ、ベッドからずり落ちそうになった。
「お前、死神なの!? マジで!? あのマント着て、鎌持ってるみたいな!?」
凛は悠真の反応に小さく鼻を鳴らし、呆れたように言った。
「鎌など持たぬ。そなたの考える死神は、絵本の戯言じゃ。わたくしはただ、魂の行く末を正す者。あの世とこの世の均衡を守るため、穢れを討ち、亡魂を導く。それがわたくしの定め」
悠真はしばらく口をぽかんと開けたまま、凛を見つめた。死神。化け物を斬る謎の女が、実はそんな存在だったなんて。頭では理解しようとしているのに、心が追いつかない。だが、凛の真剣な目を見ていると、彼女の言葉が本当だと感じざるを得なかった。
「で、なんで俺がその手伝いをしないといけないんだよ? 俺、ただ幽霊が見えるだけで、戦えねえし、死神の仕事とかわかんねえよ」
悠真は少しムキになって言った。凛は口の端をわずかに上げ、どこか腹黒い笑みを浮かべた。
「ふむ、そなたの言う通り、ただの若人に過ぎぬ。されど、そなたがあの場におり、わたくしの気を散らしたゆえ、この傷を負った」
凛は包帯を軽く押さえ、わざとらしく顔をしかめた。
「そなたの心には義侠の気がある。あの亡魂を見捨てられぬと思う心がな。ならば、その心に従い、わたくしに力を貸すがよかろう」
「うっ、だからそれズルいって!」
悠真は頭をかきむしった。凛の言葉はまるで彼の良心をピンポイントで突いてくる。確かに、あの幽霊の怯えた顔を思い出すと、放っておけない気持ちがムクムクと湧いてくる。だが、化け物と戦うなんて、想像しただけで膝がガクガクだ。
凛は悠真の葛藤を見透かしたように、静かに立ち上がった。
「そなたが何を思うても、穢れは再び現れる。あの亡魂を喰らうまで、奴は止まらぬ。そなたが手を貸さずとも、わたくしは戦う。されど、そなたの目――亡魂を見抜く力――は、わたくしの助けとなるやもしれぬ」
「俺の目?」悠真は首をかしげた。
「ただ幽霊が見えるだけだろ? それが何の役に立つんだよ」
「亡魂を見抜く力は、稀有なもの。穢れは亡魂を隠れ蓑とし、わたくしを惑わす。そなたの目ならば、その隠れ蓑を見破れるやもしれぬ」
凛は提灯を手に取り、窓の方へ歩いた。
「明日の刻、そなたを試す。準備を怠るなよ、若人」
「試すって何!? ちょっと待て、詳しく――」
悠真が叫ぶ前に、凛は提灯の光と共にスッと窓の外へ消えた。まるで幽霊のように跡形もなく、部屋には静寂だけが残った。
「マジかよ……死神って……」
悠真はベッドに倒れ込み、頭を抱えた。化け物、死神、そして自分の「目」。普通だったはずの高校生活が、まるでホラー映画の主人公になったみたいだ。だが、どこかで小さな火が灯っていた。あの怯えた幽霊を救いたい。凛の戦う姿に、ほんの少しだけ憧れのようなものが芽生えている自分に、悠真は気づいていた。
窓の外、夜の闇が深まっていく。虫の声に混じって、遠くで何か不気味な唸り声が聞こえた気がした。悠真は慌てて布団をかぶり、目を閉じた。明日はどんな一日になるのか――考えるだけで、心臓がドキドキと鳴りやまなかった。