沙耶の恋愛はいつも上手くいかない。
6月。
梅雨の季節。
ジメジメとした雨が今日も降り続けていた。
とある女子校の夕方の教室、2人の女子高生が向かい合っている。
1人は長くさらさらとした綺麗な髪をしており目は大きくダイヤの様に輝いてみえる、均整のとれたその美貌からその姿はまるで完成された生きた人形のようであった。
またもう1人は髪の短く、身長がやや低くほっそりとした小柄な体型でどこか儚げな印象を与える、そんな人である。
「好きです!付き合ってください!」
そういいながら手を差し出す、長い髪の女性。
「ごめんなさい。あなたを恋愛対象にはみれないの。」
髪の短い女性はそういうと悲しそうに目を伏せ1人ゆっくりと去っていく。
その姿を目続け、残された女子高生 沙耶は地面に崩れ落ち号泣し始めた。
「うぅ〜!ちきしょー!いけると思ったのに!」
そう先ほどの天使のような声とは違いドスの効いた声で叫ぶ。残念ながらこの髪の長い女性が今作の主人公である。
あの人との出会いは1ヶ月前、別のクラスで今まで話したことはなかったが偶然図書館で出会い、それから何度か顔を合わせる機会があった。たまに一緒にお昼を食べたりしだした沙耶は思った
(これはイケる!)
と。
沙耶はなんとも積極的な女の子であった。世に言う肉食系というやつである。いや恋の狩人を自称するほど恋多き女の子なのであるが残念ながら成功したためしがあまりない。毎回のように何故か振られるのだ。
(解せぬ)
振られて10分で頭を切り替え今回の問題点を洗い出しにかかった。次こそは!と意気込むその姿は狩人というよりもはや野獣のようでもあった。
「やはり教室というのはよくなかったかな。逃げられる恐れがあるもの。もっと逃げ場のない場所ならきっと頷くしかないはず…!」
などと独り言を呟きながらそそくさと荷物をまとめて帰り支度をしだす。
「また誰かに告白でもしてたの?飽きないねぇ」
教室の外から声をかけられた。振り返ると友人の朋子がドアに背を預けながら立っていた
「大きなお世話よ!今回こそは運命を感じたの!」
「あんたの運命多すぎじゃない?高校入学してたった数ヶ月なのにもう5人に告白して振られてるじゃん」
「うっさい!」
荷物を纏め終えゆっくりと朋子と一緒にバス停の方に向かう。
朋子は歩きながら伸びをした。
「あ〜ぁ、今日は疲れたぁ。授業は慣れたけどやっぱり中学とは違うわね。特に体育が最悪。もう当分走りたくないわ〜」
「そんなこと言ってあんた部活だってテニス部でしょ。走り込みとかあるんじゃないの?」
「まぁあるね、でもあれはテニスやるために必要だからなんとか耐えられるんだよ。体育の授業のランニングなんてやり終えてもテニス出来るわけじゃないしね、モチベーション保てませんよ、まったく」
はぁ〜とため息を吐く朋子。
「そういえば今日は部活いいの?まだみんなやってんじゃない?」
「いいのいいの。今日は病院行く予定だったからね。挨拶だけしてぬけてきたのさっ〜いぇ〜い」
笑顔でピースをする朋子をみて沙耶は苦笑してしまった。
「ならさっさと行けばいいじゃない。私が告白するの見てるんじゃないわよ」
それを聞き、バツが悪そうにした朋子。
「いや帰ろうと思ったら何やら緊張した様子で教室に向かう沙耶見かけてさ、何事!?と思ってつけてみたら告白してるし。しかも振られるし。まぁ見て見ぬふりして帰ろうかとも思ったんだけどね。」
「うん。」
「でも友達が振られて傷ついてるのにほのまま帰れないじゃん。」
照れながら言う朋子に沙耶はちょっとドキリとしてしまった。
「、、、ありがと」
「どういたしまして」
にやりと笑う朋子を見て、あれ?これはチャンスかもしれないと思う沙耶。
「じゃあちょっと慰めてほしいな。」
そう言うとゆっくりと朋子との距離を詰め始める。
「え〜何か奢れってこと?いやよ。私も金欠だし。」
そんな軽口を叩き何も警戒していない朋子に抱きついた
「ねぇ〜朋子、あたしと付き合おうよ?毎日きっと楽しいよ」
沙耶は耳元で囁いた。
「はぁ〜あんたみたいなめんどうな女、死んでもいやよ」
朋子はまったく本気にしていないのか、ピシャリと振り立ち止まっている沙耶を残し1人バス停へと歩く。
そんな朋子の後ろ姿をみて
「解せぬ」
そう呟き小さく笑いながら、急いで朋子の背中を追いかけるのであった。




