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36話 全面戦争

 三つの影があらわれた。

 それをしたがえる伊藤太郎のうしろからナーサティヤも駆けつける。

 太郎とナーサティヤは、美烏、狼牙、章央と対峙する。五人全員が神体(テロス)だった。





 狼牙が消えたあとのHS機関日本支部。

 蹴りを空振り、着地した太郎が益田天を見やる。


「氷水桐と如月白夜の居場所は」


「どっちも家にいないのはたしかだけど」


 ナーサティヤも首をふる。


「ワタシの探知も夜でなければ使えません」


 太郎は歯ぎしりする。

 静寂のただよう空間で、イグルの死体が存在感を強め、重たい空気が流れる。


「ひとつ提案がある」


 雷牙がいった。


「今のオレはガス欠だが、少し冥想すりゃあ次元法式(エンテレケイア)一回分はぎり回復できる。”紫電一閃(サイバー・アナライズ)“を使やあ、ふたりの居場所を見つけられるかもしれねえ」


 太郎がそちらを見る。


「ハッキング能力か。だがそれで見つけられる保証はない。一回しか使えないなら尚更だ」


「それをナーサティヤに使うんだよ」


 太郎が目をみはる。

 全員の視線がナーサティヤに集まった。彼女は目をぱちくりさせる。


「ワ、ワタシ?」


「人間の脳も電気信号で可動するコンピュータだ。電子機器とのちがいは、PCでいうマウス、スマホでいう液晶画面みたいなインターフェースがねえこと。だから外部アクセスできねえ。だが”紫電一閃(サイバー・アナライズ)“は電気をあやつって直接侵入できる。インターフェースはいらねえ。ナーサティヤの脳をハックして夜だと錯覚させりゃあ探知能力も使えんだろ」


「ワタシの、脳を」


「他人の身体、とくに次元者(シビュラ)の体内に影響を与えることはふつう不可能だ。効力圏の問題でな。だが相手が抵抗しない場合はべつだ」


 ナーサティヤは先日、キリの居場所を探知したときのことを思いだす。雷牙の効力圏に入ることでナーサティヤも“疾風迅雷”をまとって高速移動できた。


「脳じゃなくて、このあいだのように現在時刻が夜の国にいけばいいのでは」


「あれは”疾風迅雷“の連続発動でゴリ押したんだ。今のガス欠状態じゃ無理なんだよ」


 ナーサティヤは眉をひそめる。


「でも、脳の電気信号を直接あやつるのは……アナタのミスで死ぬかもしれない」


「可能性としちゃな。ワクチン接種の副作用で死ぬ可能性だってある」


 雷牙がナーサティヤを見すえる。


「オレを信じろ。これしか方法がねえ。できなきゃキリと白夜が死ぬ」


 ナーサティヤは視線を落とし、悩み、雷牙の目を見かえした。


了解(ティケ)





 太郎、ナーサティヤ、華恋がいなくなったあと。

 床の血痕を掃除ロボがきれいにしていく。イグルの死体もロボットによって運びだされる。

 雷牙は眠っている。


 益田天は映像を観ていた。三人には盗聴器と小型カメラを装着させ、その頭上に何台かのドローンも飛ばしている。

 重要度は白夜よりキリのほうが高い。でもおそらく敵の人数は白夜のほうが多い。だからそっちにふたりをやった。

 映像を観ながら携帯端末でメールを打つ。


『不測の事態だよ。シビュラの仏が出ちゃった。世間にシビュラを説明するのは難しいよね。そちらで適当に処理しちゃってくれよん』


 送信後、映像にもどる。どちらもまだ目的地にはついていない。

 安理真由良はキリを殺したくないだろうし、殺されそうになっても相手はひとりかふたり。戦力の多くは白夜に使っているはず。華恋だけで対応可能だろう。それに。


 益田天は回転椅子にもたれ、ゆっくりまわる。


 キリは力を隠している、無自覚に。ここで死ぬならそれまでだが、敵方に寝返ることだけは許容できない。こちらの手元に置けず、盤面をぐちゃぐちゃにされるぐらいなら。


 回転椅子が一周してとまった。


 死んでもらったほうがいい。

 世界平和のために。





 北海道の山奥深くの森林。

 狼牙は影相手に苦戦していた。


(こんなもの斬魔装さえあれば)


 ミセリアの水爆をふせぐのに”闘技・豪雷牙針撃“を使い、まろんや蘭のように次元力(エネルゲイア)を失うことはまぬがれたが、最後の斬魔装を使ってしまい、しばらく次元法式(エンテレケイア)を使えない。素の戦闘能力が高いので影相手に互角だが、影が二体に増えると劣勢になる。


 水爆を喰らっていない章央は余裕があり、影とナーサティヤを相手に互角以上。狼牙を相手にしている影の片方がたまにサポートに入ってナーサティヤを助ける。


 太郎の相手は美烏。彼女は水爆を喰らっているのに元気だった。

 太郎は目をみはる。こいつ、次元力(エネルゲイア)が増えていく。

 身にまとう炎も勢力を増していく。


「きゃははっ」


 太郎は、爆破テロ直後の生配信を思いだす。配信者は美烏だった。


(なぜあんな配信をした? 目立ちたいから? それもあるだろう。だが)


 太郎は推測する。


(まさか、俺様と同じ……敵意をむけられるほど強くなる能力か)


 太郎の右手の甲には漆黒の紋が描かれている。この“影黒紋(シャドウクレスト)”が敵意を吸収し、その敵意を“影葬剣(シャドウレクイエム)”として具現化、放出できる。


 美烏の炎を漆黒剣の斬撃が消す。その斬撃は美烏にも切り傷をつける。


 敵意を太郎自身の影に放出すれば“影雄戦隊(シャドウヒーローズ)”が使える。


 三つの影が狼牙と章央を苦戦させる。


 ”影雄戦隊シャドウヒーローズ“は敵意の数だけ分影を召喚する。分影の数だけ次元力(エネルゲイア)も消費するから早く決着をつけたかったが。


 美烏がせまりくる。太郎は顔をゆがめる。

 あの動画が炎上するほど次元力(エネルゲイア)を増大させるとしたら。


「きゃはっ」


 爆発的な熱エネルギーが放たれた。

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