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31話 炎上

 養護施設にきた初日。


「同い年じゃん」


 最初に話しかけてきた女の子。


「あたしは秀水(ひでみ)美烏(みお)。そっちは」


「……如月白夜」


「えー名前かっこよ。白夜って白い夜よね」


「そーだけど」


「ヨルってよんでよき?」


「あ、うん。じゃあ、ミミってよんでいい?」


「ミミ?」


「ヒデミの“み”とミオの“み”で」


 ミミが吹きだした。


「そこピックアップするー? おもろー」


 ミミの笑い声。

 白夜もかすかに笑みをこぼした。





「ミミ……?」


 モニターの女が笑みを深める。


『正解。五年ぶりぐらい?』


 記憶の渦に呑まれながら、白夜は声をしぼりだす。


「な、んで、ここに。これまでどうして」


『ヨルのストーカー』


 ミミはウインクした。


『ぐうぜん見かけてさ。なんか仮面かぶってたけど、ファッション? にしては奇抜すぎん? ま、それはひとまず置いといて。で、ストーキングしちゃった。一階から順にピンポンしててって今あたったとこ』


「そっ、いうことじゃなくて。どうしてたんだよ。急に失踪とかして」


『ここでする話じゃなくね』


「……ちょい待って」


 仮面をつけ、玄関ドアをあける。

 目の前にミミがいた。ぽかんとした顔。


「わお、仮面だ。ファッション?」


「なわけねえわ。ちょっと事情。ミミがいなくなってからいろいろあって」


「あーね」


 白夜がきびすをかえし、ミミがドアを支える。


「おじゃましまーす」


 テーブルをはさんでむかいあう。お茶をいれたコップをふたりぶん用意した。


「で、なんで失踪したの。私になんもいわずに」


「あーそれね」


 ミミはのどをうるおして、


「学校でもだけど、施設でも虐待されててさ」


 軽い感じでいった。


「失踪したのはそれが理由。あのころは若かったな。生きるために逃げることしかできなかった。今ならどうとでもやりようあるのに」


「……どうやって生きてきたの」


「えーそれきくー?」


「いいたくないならいいけど」


 ミミは「うーん」と天井を見つめて、


「テレビつけていい」


「なんで」


「いいから」


「……いいけど」


 リモコンの電源ボタンをミミが押した。食レポ番組が流れる。

 彼女は笑いかけてきた。


「教えてあげてもいいよ」





 東京の小さなマンション。その一室。

 男子小学生が布団をかぶってマスクをつけていた。おでこには冷たいシート。


「えほっえほっ」


 風邪の咳が続く。

 マスクをした母親が入ってきた。


「おかゆつくったけど、食べれそ」


「……食欲ない」


「食べたほうが栄養ついて早く治るよ」


「うッさい。頭ひびく」


「でも」


「あっちいってて。あとで食べる」


「いつぐらい」


「一時間ぐらいあと」


 母親が時計を見る。


「ん。また声かけるね」


 母親が去る。

 男子小学生は寝返りを打った。


(頭痛くてきつくいっちゃった。熱下がったら謝ろ)


 直後、彼は天井の崩落に呑みこまれた。





 食レポ番組がニュースに切り替わる。

 東京都のマンションで原因不明の爆発があったという。

 白夜はあぜんとする。



 風邪休み中の男子小学生と、看病のために仕事を休んだ母親も圧死していた。



 ミミは、秀水美烏はスマホをテーブルの上に立てかけ、白夜の前で生配信をはじめた。


「ど〜も〜。ただいま日本で爆破テロが起こりました。犯人はあたしで〜す。いえ〜いっ」


 再生数とコメント数が伸びていく。


「この動画は無差別に感染させたコンピュータウイルスを使ったブロックチェーン上で配信しているため、途中で切ったり削除したりはできませ〜ん。きゃははっ」


 数字が指数関数的に増えていく。

 美烏は頬を紅潮させ、鼻息を荒くしていた。


「いいねいいね〜。もっとヘイト集めてよ〜。もっともっとあたしを憎しんでよ〜」


 目の前の光景が信じられなかった。


「ミ、ミ……?」


 赤らめた顔で美烏が微笑んだ。


「こうやって生きてきたんだ」


 配信をとめ、熱っぽい声でささやく。


「だからヨルも、あたしを憎しんでよ」


 美烏はふところから人形を投げ、白夜にぶつけた。


「オッケー」


 美烏がそういった瞬間、部屋からふたりが消えた。

 代わりにふたつの人形が落ちた。



 北海道の山奥深くの森林。

 白夜と美烏はそこにいた。

 困惑する白夜の前で、美烏は巫珠の指輪をはめる。

 美烏のうしろに、虹色の飾り羽をひろげた烏天狗ならぬ天狗烏というべき次元霊(デュナミス)があらわれた。


「闇鴉、神依(エンセオス)


 二頭身平面の天狗烏が次元霊装(ダイモニオン)に変換される。

 周りにはほかにも三人いた。


 津田まろん、人形をたくさんもった小太りの男。

 毛村暁、特徴の薄い中年男。

 朝露(あさろ)(らん)、騎士のような男。

 秀水美烏をふくめ、四人全員が神依していた。


 美烏は白夜を見すえる。

 欠乏感のことを、次元者(シビュラ)はステレシスという。欠乏感(ステレシス)に支配された精神状態では神依(エンセオス)できない。そのために大きな喪失感をたたみかけた。訓練はしてるだろうけど、今すぐ調子をもどすのは無理でしょ。

 四人同時に白夜を殺しにかかる。


(ヨル、おまえが()クとき、どんな表情(かお)をしてくれるかなぁ)


 白夜は仮面を放りすてた。

 息を呑むような美しさがあらわになった。

 幻想的な芸術を前に、四人はわれをわすれた。

 刹那のすきに、白夜は調氣法を使う。


(変だとは思った。私が尾行に気づかないとか、護衛用の部屋にくるとか。だけど)


 胸に手をあてるルーティン。


(信じたくなかったんだよ)


 白い空間にひとりきりの自分をイメージ。

 呼吸を調え、ゲーム中の感覚をよび醒ます。

 全意識を、今この瞬間に集中させた。


「忍三郎、神依(エンセオス)

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