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26話 ゆるスクール 前

 ――前日――


 目覚ましアラームをとめる。

 白夜さんから2件の通知がきていた。


『私のこと覚えてる?』

『今日私も護衛としてついてくけど、そっちからはわからないようについてくから気にせず』


 今思いだした、了解、と送った。


 スマホを閉じてすぐに通知音。

 ぐっ、と親指を立てたキャラスタンプだった。





 住宅街が流れていく。走行音がすれちがう。

 母のスマホにはだれかの講演動画が流れている。

 キリは助手席でスマホゲームしている。


「スマホばっか見てると気持ち悪くなるんじゃない」


「わかってる」


 うっせえな、という言葉は飲みこんだ。反射的に怒りがあふれたが、いわれたのはその通りなので、オート周回モードにして景色をながめる。


 いくとはいったけど、すでに帰りたい。


 ため息がこぼれる。


 いかないっていってれば、今ごろ家でゲームしてたのに。



 駐車場に車をとめた。

 母が『駐車場に着きました。』とメッセージを送る。

 ドアを閉め、母のうしろについていく。


 母が建物を指さす。階段をのぼって入口へ。足どりは重い。

 母が透明なドアをあけると、簡易的な椅子にすわっていた男性が立ちあがった。


「おはようございます」


 母もあいさつをかえした。キリは無言。

 男の視線が母からキリに移った。


「ゆるスクールの一応責任者の木内(きうち)天長(てんちょう)です。氷水桐くん?」


「あ、はい」


 キリは目をあわせず、母の背後から応じた。


「今日はきてくれてありがとね」


 子どもたちの声がする。拍手が起こった。


「なにかやってるんですか」


 母がたずねた。


「クラス会議です。毎朝やってて。見学されますか」


「わたしもいいんですか」


「ぜひぜひ。キリくんもどうですか。まずは見学からでも」


 母がこちらをふりむく。

 キリは母を見たが、母は「どうする」というだけ。

 うつむいて考え、うなずいた。


「そうしよっかな」



 広い部屋に案内された。子どもたちの声が大きくなる。

 部屋では、五十人以上の小学生から中学生の子どもたちが十人前後の5班にわかれ、輪になって椅子にすわっていた。

 キリも椅子にすわり、近くの班に意識をかたむける。


「パス」


 といって高学年ぐらいの小学生がとなりの席にお手玉をまわす。


「ナイスパス!」


 ほかの全員が軽く拍手した。

 拍手が止み、お手玉を渡された人が発言する。


「わたしは、翔太(しょうた)さんがみんなにつくってくれた、おいしいごはんに感謝します」


「あっはは、ありがと〜」


 翔太らしき中学生が感謝をかえし、周りは拍手する。

 お手玉がとなりにまわされる。


「今日の朝ごはんがおいしかったです」

「おかあさんが少しやさしくなったのがうれしいです」


 といった発言と拍手が続く。

 責任者の天長に母がたずねた。


「お手玉をもった人が発言するんですね」


「そうですね。トーキングスティックっていうんですけど」


 ふたりが話すなか、大人びたポニーテールの女子中学生にお手玉が渡った。


「最後に、パスした中で発言したいって人はいますか〜」


 彼女は全体を見まわす。だれも手を挙げなかったので、


「それでは、議題のほうに移りたいと思います」


 紙束に書かれたものをひとつずつ読みあげる。


「この問題はまだ解決していませんか」


「もう解決しました」


「それはよかったです。では次の議題に移ります」


 ということもあれば、


「まだ解決してません」


 ということもある。その場合、


「では、自分の気持ちをみんなに聴いてもらうか、問題解決のための行動を助けてもらうか、みんなで話しあうか、以上の3つのうちどれをしたいですか」


 と、ポニーテールの彼女がたずねる。


「話しあいたいです」


 議題を書いた本人がそういったら、その人からお手玉をまわし、解決策をそれぞれ提案していく。すべての提案をポニーテールの彼女がホワイトボードに書き起こす。

 お手玉が2周まわってもどってくると、ポニーテールの彼女がすべての提案を読みあげ、


「どの提案が一番助けになりますか」


 本人にたずねる。


優斗(ゆうと)くんの提案を試したいと思います」


 そうして決まったら、


「それをいつ実行しようと考えていますか」


 と、ポニーテールの彼女がたずねる。


「今日親が帰ってきたらやりたいです」


「お〜いいですね〜」


 ポニーテールの彼女が手をたたき、みんなも続いて拍手した。


「これで今日の議題はすべて終わりました。続いて昼食のメニューを考えましょう」


 わー、と小学生たちが騒ぐ。これもまたお手玉をもった人から順に、


「カレー」

「ラーメン」

「カツ丼」

「おれもカレー」

「中辛がいい」

「甘口と中辛で班分けしよ〜」


 といった意見があがった。

 各班のリーダーが意見をまとめた。

 ①ラーメン

 ②カツ丼

 ③スパゲッティ

 ④カレー甘口

 ⑤カレー中辛


「みんなこれでいいですか」


 意義の声はあがらず、


「よし」


 ポニーテールの彼女が手をたたいた。


「では椅子を片づけ終わった人から学習タイムに入っていいですよ〜」


 片づけ終えた小学生たちがキリたちの周りに集まってきた。いばらのように視線が刺さる。


「あたらしい人〜?」

「なにが好き〜?」

「ゲームなにやってる〜?」

「カードゲームできる〜?」

「リアライズ知ってる〜?」

「その髪どうしたの〜?」

「昼食なにがいい〜?」

「カレー甘口派? 中辛派?」


 視線の棘に身動きを封じられる。頭が真っ白になる。


「ほ〜ら〜」


 パン、と手をたたく音がはじけた。


「いきなりわーってしたら困っちゃうでしょ。聖徳太子じゃないんだから」


 ポニーテールの女子中学生だった。


「えー聖徳太子だと思ってたー」


 冗談をいう小学生に、


「それならしかたない。かんちがいはだれだってあるよね」


 真顔でそういって彼らの笑いをとってから、彼女はキリを見やった。


「はじめまして。富士宮(ふじみや)(のぞみ)です。中学3年生です」


「あ……氷水、桐、です。中2です」


「ヒスイくんね。アレルギーとかある?」


「あ、や、とくには」


「ならよかった。きらいなものとかある?」


「い、いろいろ、ですけど」


「いろいろか〜」


 笑って彼女はホワイトボードを見やる。


「どれ食べたい? ラーメンか、カツ丼か、スパゲッティか、カレーか」


「……カレー、ですかね、中辛の……あ、でも、じゃがいもが苦手で」


「おっけおっけ。よそうときにじゃがいもいれないようにすればいい?」


「あ、お願いします」


「なになに昼食の話〜?」


 男子の声だった。


「あっ料理長〜」


 小学生のなかから声があがる。

 背の高い男子中学生がきた。


「どもども〜。料理長こと(たちばな)翔太(しょうた)でーす。俺も中2だから同い年だな。キリってよんでい?」


「あ、うん」


「おれも中辛カレーだから料理班も同じ。自分たちで買いだしいってつくるのは知ってんだっけ」


「あーうん。きいてるけど」


「ど? 買いだしついてきてもいいし、なんかゲームでもしながら待っててもいいし。料理にも参加してもしなくてもどっちでもいいんだけど。やってみる? せっかくきたんだし」


「……じゃあ、やってみようかな」


「おっしゃきた」


 翔太は指を鳴らし、うしろをふりむく。


「ミサミサ、キリもくるって。おまえは」


 よびかけられた女子中学生は、スマホを見たまま無言を続ける。


「おーい、ミサミサー」


「うっせえ。今いいとこだっていったろ。執筆中は話しかけんな。集中力きれる。つかうち甘口だし。班ちがうんだから関係ねえし」


 そういってスマホ画面を打ち続ける。

 希が翔太に笑いかけた。


「あらら、ふられちゃった」


「執筆中はマジで機嫌悪いんだよな」


 翔太がキリを見る。


「あ、ごめんごめん。あいつ、白石(しらいし)美咲(みさき)っていうんだけど、同じ中2な、小説書いてるからって買いだし参加しないこと多いんだよ。強制じゃないし別にいいんだけど」


「へぇ……」


 キリは美咲を見つめる。

 時刻は11時15分にせまる。

 希が全体によびかけた。


「そろそろ買いだしいくよ〜。中辛班集まれ〜」

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