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25話 如月白夜 急

「なんのご要件でしょうか」


 対応にでた先生は男を見ていったが、


「“パンドラ”の運営会社の者だよ〜。シュタインブレイドちゃんはいる〜」


 応じたのは益田天。幼子にしか見えない。男のほうはイグルだった。


「ミャハ☆」


 車にのって支部にむかった。運転はイグル。


「遺伝子組み換えの件、やめるなら今のうちだよ〜」


 となりの益田天がこちらを見た。

 後部座席にもたれる白夜は目をつむった。記憶をめぐらせた。これまでのすべての思い出。良い記憶も悪い記憶もすべてを思い起こした。


(なんでもいい。これまでの世界とちがう世界にいきたい)


 目をあける。景色が流れていく。


(もしヤバい組織に連れてかれたとしても、最悪死ねばいいだけだし)


 目をつむってイヤホンする。


(もし超能力とかの話がマジだったら)


 視線も音もない世界。

 世界から自分だけがいなくなる疑似体験。


(透明になれたら、少しは気楽に生きられるかな)





「ってのが、HSに入るまでの経緯。ここに引っ越したのは都会ほど人がいなくて、田舎ほど不便じゃないから。駅も徒歩圏内にあるし」


 今の白夜が仮面を押さえる。


「顔見られるのにトラウマあって。あんな感じになっちゃったのは、そういうこと」


 静寂がおりた。


「ちょい、なんかいってよ」


「……ごめん。勝手に顔見ちゃって」


「ミセリアくんが謝ることじゃないって。いわなかった私の自己責任。それに友だちなら、いつまでも顔隠したままってわけにもいかんし。いつかは仮面とって遊べるようになんなきゃ、とは思ってるんだけど」


「無理はしなくていいですよ。素顔見えても見えなくてもあんま関係ないし」


「やーそれはさすがに」


「ゲームってみんな仮面かぶってるようなもんだし」


「あったしかに」


 白夜は天井を見あげて、


「ゲーム、アバター、仮面……」


 ひとりごとのようにつぶやく。

 キリは床を見つめる。


「その力で」


 ためらいがちに投げかける。


「学校のやつらを殺してやろう、とか、思わなかったんですか」


 穴があいたような静寂だった。

 白夜はうーんと背中をそらす。


「思ったことがない、といったら、うそになるかもね」


 それからキリを見すえた。


「けど、そういう次元者(シビュラ)の身勝手に人生をぶち壊された人たちをいっぱい見てきた。罪咎義団の理念は絶対まちがってる。だからか知らんけど、自分がそうなっちゃ絶対だめだって、今は思ってるかな」



 キリは益田天と握手した。


「よろピクミン☆」


「お、ねがいします」


 白夜に軽く背中をたたかれた。


「進路とかはゆっくり考えりゃいいよ。できることあったらサポートするから」





 罪咎義団はまちがってる。協力なんかしちゃいけない。そう思った。うそじゃない。そのときの気分では。それが本心のような気がした。気の迷いだったんだって。


 十三夜の月下。湯船に浸かりながら白夜との会話を思いだしていた。

 友だちっていってくれて、秘密を打ち明けてくれて、うれしかった。


 小学校の思い出がよみがえる。

 暴力と視線。会話が成立しない教職員。


 これからやろうとしてることを知ったら、ゆるしてもらえないだろう。


 天井を見つめ、手をのばす。


 絶交になっても。

 二度と心をひらいてもらえなくなっても。

 それがわかっていたとしても。


(ぼくは、同じ選択をするだろう)


 こぶしをにぎりしめる。安理真由良の手を思いだす。


 ――世界に叛逆しましょう。ともに自由を生きましょう。


 この世に生まれた意味がほしい。


(ぼくの人生を生きたい。これが最後のチャンスなんだ)





 同じ十三夜の月下。とある山奥の建物。


「如月白夜……」


 安理真由良がつぶやいた。


「そうでしたね。昨日の襲撃者は彼女でした」


「あいつが」


 山崎章央が声をあげた。


「たしかに強かったが、特別強いかってェとそうでもなかったが」


「満月の夜ではありませんでしたから」


 ほかの三人も安理真由良と同じく認識がもどった。


「これが如月白夜の認識阻害です。昨日は能力も見たというのに、今この瞬間までわすれていました」


「今から殺しにいくか、日付が変わる前に」


「いえ、やめておきましょう」


「なんでだよ。今日は満月じゃねえんだぜ」


「今彼女を攻撃すれば、氷水桐さんは味方になりません」


「あんなやつどうでもいいだろ。あの女を殺すのが優先じゃねえのか」


「彼はイレギュラーです。こちらにひきこめなければ危険かもしれません」


「アレが?」


「エルシャライムの王からなにかきいていませんか」


「さあ、な。んなことに興味はねえ。直接きけよ。居場所は知ってんだろ」


「聖域へのアクセスは権限者の承認を要しますから」


 真由良は十三夜月を見やる。


「如月白夜を確実に殺せる保証はありません。対処は氷水桐さんが復讐をとげたあとにしましょう。HS機関にもどれなくなってからであれば、彼が敵方につくおそれはなくなります。われわれの助けを借りずに生きることはできなくなりますから。明日は予定があるようなので、決行はあさってになりそうですね」


「満月の日じゃねえか、おい」


「夜がくる前に終わらせましょう。彼の復讐も日中に終わるはずです。そちらのほうが都合もいいですし」


「都合ォ?」


「如月白夜は満月の日の前後に住まいを離れます。そのためにこれまでは襲撃が困難でした。ですが今は氷水桐さんの護衛についています。居場所の特定が容易なのですよ」


 十三夜月に視線をもどす。


「ごめんなさい、氷水桐さん、あなたの大切な人はできるかぎり保護したいのですけれど」


 安理真由良は哀しげに眉をひそめた。


「如月白夜は危険すぎるのです」





 キリの風呂あがり、お茶を飲んでいるところに母が話しかけてきた。


「明日どうする、ゆるスクール」


 台所にコップを置く。水滴を見つめる。

 やめとこうかな。そんな気分じゃないし。

 返事を決めようとしたとき、


 ――キリといっしょに出かけるの楽しみにしてるよ。


 母の言葉が吹き抜けた。

 ひらきかけた口を閉じる。

 深呼吸する。あらためて口をひらいた。


「いこう、かな」

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