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22話 HS機関

 銀髪紫眼の氷水桐。狼の次元霊が『ヴァン』と鳴く。

 仮面の如月白夜。カメレオンの次元霊が『忍』と鳴く。

 目つきのこわい覇暮狼牙。三頭犬の次元霊が『ワンワンワン』と鳴く。

 バナナを食む黒岳イグル。双翼の次元霊が『ピィィー』と鳴く。

 髪の逆立った伝木雷牙。七色の雷のような次元霊が『ゴロロロロ』と鳴く。


 次元霊(デュナミス)たちが会話しているのかどうかキリにはわからない。

 幼く老いた益田天が残る三人を見やる。


「あの三人とは初顔合わせだったね〜」


 キリがそちらをむくのを待たず、そのひとりが目の前にきて顔を近づけてきた。


「ふ〜ん」


 瞳にハートマークのような模様。とっさにキリはあとずさった。

 流行のファッションで全身コーデしたツインテールの女子高生。


「かわいさはあるけど、全然タイプじゃな〜い」


 彼女は口をとがらせる。


「ねぇ、キュピッピ、そう思わ〜ん」


『キューン』


 ハートマークで構成された次元霊が鳴いた。


「あ〜あ〜もっとイケメンならな〜」


華恋(かれん)


 白夜が低い声を発すると、華恋の動きがとまった。


「私の友だちになんか文句あんの」


「え、や」


 華恋は目をぱちくりさせ、ぎこちなくキリを指す。


「と、友だち?」


「うん」


「友だちいたの」


「そんなにまたアレ(・・)してほしいのか」


 華恋がビクッとふるえた。


(アレ?)


 キリがそう思うと同時に、華恋が微笑みかけてきた。


「ひ、氷水桐くん、だっけ。カレンは芽吹華恋(めぶきかれん)っていうの。よろしくね」


 キリは白夜を見やる。


「この人友だちですか」


 白夜は首をふる。


「んーや全然」


「よかった」


「よかったァ?」


 声を荒げた華恋だが、ハッとして猫なで声にもどる。


「ひす……キリく〜ん、ど〜ゆ〜意味かな〜」


「べつに。深い意味はないです」


 キリは白夜のうしろに隠れた。


「ちょっとぉ〜」


 白夜が華恋を見下ろす。


「おまえはこの子に話しかけんな」


「ひどっ。なんでよ。カレンなんもしてなくない?」


「ちょい黙っとけ」


「んぎゅっ」


 首に手刀を喰らって華恋が倒れた。

 長髪のインド系白人が近づいてきた。


「アナタが例の」


 なにかつぶやいてから両手をあわせる。


「ナマステ。ナーサティヤ・アシュヴィンです。日本のアニメが好きで、インドからきました」


「あ、氷水桐、です」


「キリさん、よろしくお願いします」


「あ、はい」


 握手を交わす。ナーサティヤが頭上を指した。


「この子はアストライオス」


 雪の結晶を背後に浮かせたトカゲの次元霊。


『ファーン』


 反響するような鳴き声だった。


「昨日アナタの居場所を見つけたのはワタシです」


 ナーサティヤが白夜を指す。


「ソイツから頼まれて」


「そう、なんですか」


「ひとつアドバイスしましょう」


 白夜を指したまま。


「コイツはあまり信用しないほうがいいです」


「変なこと吹きこむな」


「ホントのコトでしょ」


 キリも白夜に目をやる。


「人望ないんですか」


 顔をそらされた。代わりにナーサティヤが。


「コイツは認識阻害を利用してほとんど無断欠勤しています。なのに毎月自動入金される給料はうけとってやがります」


 キリは白夜を見る。白夜はなにもいわなかった。

 益田天が最後のひとりに話しかける。


「ほ〜ら、キミも自己紹介しなって〜、恥ずかしがらずにさっ」


「恥ずかしがってねえ」


 タバコ型チョコが噛み砕かれた。長い前髪で片眼を隠し、両手をポケットにいれ、全身黒い服装でフードをかぶった小学一年生。小さいのに風格があり、ねめつけられたキリの身がすくむ。


「ガキが」


 小学生にガキっていわれた。

 彼の影からは無形の闇が上方向の平面に伸びている。


『シャテン』


 影のなかから囁くような声がした。

 小学生は立ちあがって間近にくる。キリも小さいが、もっと小さい。しかし気おされているのはキリのほうだった。


「グーテンターク」


 といって小学生が首をかしげ、無形の闇を親指で指す。右手にだけ手袋をはめている。


「こいつはシュヴァルツ。俺様はドゥンケルハイト」


 益田天が彼の右後ろにきた。


「本名は伊藤太郎くん」


「その名でよぶな」


「ミァハ☆」


 太郎のまわし蹴りは軽々かわされた。

 白夜が声をひそめる。


「シミュレーション計画の発案者に伊藤って日本人がいたって話、おぼえてる?」


「え、あー、あっ」


 白夜の視線を追う。タバコ型チョコをくわえる小学生の伊藤太郎。


「あいつはその孫らしい。面識はないだろうけど」


 くるくるくるりとまわって益田天がもどってきた。


「こ〜れ〜が〜、HS機関日本支部の全員にゃ」


 といってウインクした。


「HS機関のおもな仕事は、人類滅亡を目的とする罪咎義団に属する悪性の次元者(シビュラ)を排除すること。それともうひとつ、ファウンデーション計画。これはHS機関全体の大きな方針であって、支部に属するキミたち次元者(シビュラ)はそれほど気にする必要ないんだけど」


 益田天は笑顔のままいった。


「未来永劫の世界平和。その準備を完了させることがファウンデーション計画の目的。これを心にとどめて、協力してくれるなら、そこから逸脱しないかぎりの自由を約束しよう。入りたい学校とか、なりたい職業とか、取得したい資格とかあれば手を貸すよ」


 手をさしだされる。


「どうかにゃ〜」


「あの、ちょっと、ききたいことあるんですけど」


「ほほう、ぜひ質問したまえ」


 キリは目をあわせず。


「え、HS機関とか、罪咎義団とか、なんなんですか。なんで現実世界にもあるんですか。日本支部ってことは世界中にあるんですか。HS機関は“パンドラ”にもあるけど、罪咎義団の名前はきいたことないんですけど」


 益田天が指を鳴らした。歩きながら話す。


「HS機関も罪咎義団も世界各地にある。“パンドラ”に罪咎義団がないのは、あの世界では古くから存在する神託教会(オラクリオン)が同じ役割を担ってるからにゃ。各地の神託教会(オラクリオン)に工作員を送って組織ごと乗っとれば、最初から組織をつくって育てるコストが削減できるからね〜」


 足音がとまった。


「こっちの世界に支部が創られた理由だけど」


 益田天は少し声量を落とす。


「罪咎義団の親組織がこっちの世界にアクセスして次元者(シビュラ)をつくったのがはじまり。その対策としてHS機関の親組織も次元者(シビュラ)をつくらざるをえなかった」


「親組織」


「それは気にしないでいいにゃ〜。支部の次元者(シビュラ)は末端だからファウンデーション計画に直接関与はしない。HS機関本部を介して親組織から使令がくだらないかぎり、罪咎義団に対する治安維持活動と、各々の人生を自由にまっとうしてくれていい」


 目があう。キリは反射的に顔をそらす。


「も、もうひとつ、質問いいですか」


「ど〜ぞど〜ぞ〜」


 少しためらってから、


「あ、あなたは、次元者(シビュラ)じゃないですよね。罪咎義団の代表も次元者(シビュラ)じゃなかった。次元者(シビュラ)の組織なのに、どっちの代表も次元者(シビュラ)じゃない。どういうことなんですか」


「ミァハ☆」


 益田天は笑った。


「くわしい説明はむずかしくなるけど、かんたんにいえば、代表者の適性がDNAで決まるからだね〜。次元者(シビュラ)になるにはDNAをいじらなきゃいけない。それでDNAの配列が変わったら代表者の適正を失っちゃうんだよ」


「……そう、なんだ」


「うんうん」


 益田天に顔をのぞきこまれる。


「質問はもうないかにゃ〜」


 急に近づかれ、キリはあとずさった。


「あ、はい、たぶん、今のところ、ないと思います」


「それじゃあ」


 ふたたび幼気な手がさしだされた。


「ボクたちに協力してくれる?」


 その手を見つめる。


 ――世界平和。


 鼓動が鳴る。


 ――そこから逸脱しないかぎりの自由を約束しよう。


 手汗がにじむ。


 自由。

 逸脱しないかぎりの(・・・・・・・・・)自由。それは。


 安理真由良の眼差しがうかぶ。


 そんなものは。


 ――ともに、自由を生きましょう。


 自由じゃない。


「その前にさ」


 両肩に手がのせられた。


「ミセリアくんとふたりきりにしてよ」


 白夜が益田天を見すえる。


「話したいこと、話さなきゃいかんこと、いっぱいある。こんな大人数の前じゃ話しづらいだろ。ひきこもり族のコミュ障力をナメんなよ」





 景色が流れていく。後部座席の窓から、太陽に照らされて輝く海が見えた。

 翠色の瞳を海と同じぐらい輝かせる少女。幼い白夜。

 運転席と助手席には父と母がいた。

 車内には笑い声が飛び交っていた。

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