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10話 ログイン

 ――10日前――


 知らない天井だった。知らないベッドで寝ていた。

 うるさいアラームをとめる。


 どこだ、ここ。


 スマホの表示は土曜日になっている。

 なんでこんなに目覚ましがセットしてあるんだ。アラームなんてセットする習慣ないんだけど。

 とりあえずぜんぶオフにする。なんか既視感(デジャヴ)

 昨日は金曜。なにしてたんだっけ。


 キリは起きあがって周りを見まわす。

 まあまあ広い部屋だった。

 立ちあがってカーテンをあける。ここが自宅近くの高層マンションだとわかった。

 誘拐。デスゲームの冒頭。なわけないか。

 ドアに近づく。鍵をあける。あっさりひらいた。


 まずトイレにいく。なぜか場所がわかった。

 手を洗ってふく。

 のどがかわいた。台所でコップにお茶をそそぐ。なぜな場所をすべて把握している。


 足音がした。リビングの入口に仮面女が立っていた。


「あ、おはー」


「だ、だれ。ここ、どこですか」


 仮面女はぐったりと手をさげた。


「フルダイブゲームするって約束したじゃん」


「え、フルダイブって」


「今すぐ月見てこい」



 ゲーム専用部屋の明かりがついた。


「おぉ」


 フルダイブ機器が目の前にあった。


「なんかコールドスリープできそう」


「私のことわすれたくせに、そんな人にフルダイブ貸していいのかしら」


「ごめんなさい。お願いします」


「ふん、しょうがないわね」


「ありがとうございます」


「今回だけなんだから」


「なんでツンデレ風味きかせてるんですか」


「なんとなく」


「顔見えないツンデレって需要ありますか」


 横腹を小突かれた。


 “パンドラ”はフルダイブ対応だが、フルダイブ機器は高すぎて一般人にはまだ手がでない。VRゴーグルは使い勝手が悪いので、ほとんどのプレイヤーは今もPC(パソコン)でプレイする。


「アイコン登録どうやってするんですか」


「んーとねー」


 白夜の操作をながめる。


 アイコンとは、3DモデルデータをVRMファイル形式で保存したアバターにつけられる個人識別用ゲシュタルトタグのこと。特定のプラットフォームに依存せず、VRM対応のゲーム間を横断してアバターを使用できる。ブロックチェーンで作成されたNFT(データ上の偽装できない証明書のようなもの)だからオリジナルデータのコピーやアカウントの乗っとりもできない。


「ん、登録完了」


 アバターの外見はAIで自作できる。アニメキャラとかも可能。変な外見にしてもNPC視点に補正が入り、NPCからはふつうの人間に見えるらしい。性別設定は男性、女性、中性からえらべる。


「最初は動作に違和感あるだろうからプライベートで感覚慣らそう」


「パブリック(オープンワールド)で死んだら初期化ですもんね」


 “パンドラ”のプライベートエリアはシュミレーションモードともよばれる。アバターが死んでも初期化されず、何度も戦ってプレイヤースキルを磨ける。


「“パンドラ”のレベルアップはアバターの経験値よりプレイヤーの経験値重視するから、初期化されても長時間やりこまなくていいとこは救いだよね」


「アバターの経験値失うのはけっこうしんどいですけどね。せっかく開放した高ポリゴンコードのエリアも初期化されて、最初からアバター専用ポリゴン増やさなきゃだし」


「それはそう」


 フルダイブ機器のふたがひらいた。


「慣れてきたらパーティー組んで試運転しよ」


「了解です」


 土曜だからログイン時間で不登校バレはしない。シュタインブレイドさんとやっとオープンワールドで遊べる。

 キリが機械に入り、横たわると、半透明のふたが自動で閉じた。


「あ、寝心地いい」


「全身スキャンして体格にあわせて自動調整されるからね」


 いろんな装置が動いて目と頭が覆われた。


「じゃ、私はPCでインするからルーム招待してちょ」


「はーい」


 VR画面にログインボタンがあらわれた。それを押し、プライベートモードを選択し、アクセプトボタンを押すと、落ちるような浮かぶような感覚に包まれた。


 そよ風が肌をなでる。手をにぎにぎする。

 ゲーム画面のむこうだった景色が立体的に広がっていた。


「うわ、えっすご、異世界転生した気分。空気感やべえ、グラフィックすげえ」


 この美しさは生き残りの特権だ。プレイヤーはアバターのポリゴン数にパラメトリック最適化された主観情報サブジェクト・ワールド空間情報オブジェクト・ワールドにグロ補正などのフィルタがかかったもの)しか認識できない。解像度の高い映像体験がしたいなら死なずに経験値(EXP)をためてポリゴンを増やすしかない。

 視覚カメラを自分にむける。声は現実と同じだが、見かけは金髪イケメンだ。

 シュタインブレイドから個人メールがきた。


『招待まだ〜?』


「あ、そうだった」


 招待ボタンを押した。


【シュタインブレイドが入室しました】


 影の忍者があらわれた。


「おいキミ、絶対わすれてただろ」


「え、そんなことないですよ」


「じゃ早速慣らしやるか」


「えっ、あ、ちょ」



 金髪イケメンがフルボッコにされまくった。



「おーし、そろそろパブリックいくか」


「私怨混じってませんでした。あんま慣らせた気しないんですが」


「え、そんなことないよ」


「絶対怒ってるじゃん」


「もうすっきりしたけどね」


「ほらやっぱり」


 白夜が立体ウインドウを操作する。


「どのHSにインする。そっちにあわせるけど」


「じゃあここで」


 友愛団(エラノス)招待メールのあとに場所も送る。パンドラではパーティーのことを友愛団(エラノス)という。


友愛団(エラノス)にシュタインブレイドが加わりました】

【リーダーがシュタインブレイドに変更されました】

【ログインを承認しました】


 HS機関支部でログインボーナスをガチャる。


 HS機関とは、次元者(シビュラ)(プレイヤー)が所属する謎の組織である。世界各地にあるHS機関支部はログイン/ログアウトする場所。プレイヤー用身分証発行機関、オート翻訳AIのインストール、チュートリアル、チェックポイント、地点間転移(ファストトラベル)、クエスト受注といった機能もある。HS機関の建物は異次元にあってNPCから認識されない。ひそかに魔物討伐などをこなし、人々(NPC)の安心安全に貢献するのが次元者(シビュラ)の役割だ。クエストより探索や観光を優先しても機関に怒られはしない。


 チュートリアルで最近の社会情勢を教わる。

 ログイン時にチュートリアルでその国の法律や社会情勢を説明してもらえる。チュートリアルをスキップするのはおすすめしない。法や慣習を知らないせいで投獄や処刑されたプレイヤーは多い。彼らは懲役リセットのため初期化するか、運営にクレームをいれた。たとえば懲役二年の場合、現実時間の二年間ずっとアバターは牢獄に囚われる。それはあまりにも厳しすぎるという真っ当なクレームも無視され、そのリアリティを楽しめる変態以外はアンチになった。


 ふたりともチュートリアルを終え、デイリークエスト【迷宮攻略】を受注する。


 “パンドラ”はすぐ死ぬし、プレイヤーに優しくはない。が、NPCは人間のように話すし、動きもなめらかで、グラフィックも現実(リアル)と同じかそれ以上。ゲームの完成度は圧倒的最強。マニアはとことん沼る。


 ふたりそろってHS機関支部のある異次元から出る。

 その瞬間、世界にノイズが走った。


【フルダイブ専用クエス……強制転送……ます】


 キリのアバターが光に包まれた。


「え」


 とっさに伸ばした忍者アバターの手は虚空をつかんだ。

 パソコンの前で白夜はあぜんとする。


「な……」


(なにが起こった)

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