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雅晴の言い訳劇場

「た、ただいま?」


私が玄関で声を張り上げた瞬間、返ってきたというより聞こえた言葉は「おかえり」ではなくまさかの「ただいま」だった。リビングに入ると雅晴とその女が固まったのが見えた。まるで時間が止まったかのように、二人とも口を半開きにしたままピクリとも動かない。私は内心、笑いをこらえながらも、無理やり平静を保ってリビングに入った。


「な、なんで今日こんなに早いの?」


雅晴がやっと声を絞り出したが、完全に動揺しているのが丸見えだ。


「主任が珍しく気を利かせて早く帰らせてくれたのよ。あら、雅晴、どうしたの?お客さん?」


私は意図的に無邪気なフリをして、目の前に座っている女性に視線を移した。明らかに焦っている彼女は、すぐさまバッグを掴んで立ち上がった。


「ち、違うの、あの…!私はただ…その…」


彼女は言い訳を口にする前に雅晴に助けを求めるような目を向けた。だが、雅晴もこの状況にうまく対応できるわけがない。私は心の中で、ーーさあ、雅晴、どうする?

とワクワクしていた。




雅晴は一瞬深呼吸し、妙に冷静を装いながら口を開いた。


「いや、あのさ、理恵子。これは本当に誤解なんだ。彼女はただの…その…」


おっと、ここでどんな言い訳が出るのか、私は興味津々だ。だって、明らかに歳下なのにファーストネーム呼び捨てで「ただの」関係なんて、世の中にはないはずだ。


「同僚だよ!そう、同僚!最近仕事でいろいろと悩みがあって、相談に乗ってたんだ。それだけ!」


雅晴の顔は引きつりながらも必死だ。でも、そんな言い訳が通用すると思っているのかしら。私は、あえて追及せずに微笑みを浮かべて返した。


「へぇ、同僚ね。で、その同僚がうちに来て、相談しながら…どんな相談を?」


雅晴は完全に言葉に詰まった。浮気相手の彼女も今にも泣き出しそうな顔をしている。




次の瞬間、雅晴が妙に力強く立ち上がり、急に演説でも始めるかのように声を張った。


「実は、彼女は今、本当に大変な時期なんだ。仕事でいろいろ問題があって、上司とのトラブルが重なって…精神的にかなり参ってるんだ。それでどうしても相談に乗ってほしいって言われて…」


ーー精神的に参ってるのは今のあんただろうけど。

と思いながらも、私は冷静に聞き流す。雅晴の言い訳劇場は止まらない。浮気相手の女性も雅晴の話に合わせて、何とか自分を弁護しようとする。


「そうなんです。私、本当に最近つらくて…でも、今日みたいに突然お邪魔するつもりはなくて…あの…すぐ帰りますね!」


彼女は慌ててバッグを掴んで、玄関に向かおうとしたが、雅晴が慌てて引き留める。


「いやいや、落ち着いて。理恵子、これは本当に誤解なんだよ。彼女を追い出すなんてことしないよな?」


その瞬間、私の頭の中である考えがひらめいた。ここは一つ、さらに雅晴を追い込んでみようか。




私はわざとらしくため息をつき、肩をすくめた。


「まあ、確かに大変な時期なんでしょうね。でも…どうして彼女がうちに来てるの?仕事の悩みなら、カフェとかで相談すればよかったんじゃない?」


雅晴は完全に焦りだし、さらに意味不明な言い訳を展開し始めた。


「いや、それがね、実はこの辺のカフェがどこも満席でさ!仕方なく家で話すことになったんだよ!」


どこも満席だって?そんなにカフェっていつも満席だったかしら?明らかに無理がある。


「そっか、満席ね…まあ、それなら仕方ないわね。で、さっき話してたのは、どんな内容だったの?」


私は続けざまに質問を投げかける。雅晴の動揺は増すばかりだ。


「えっ、あぁ、いや…えっと、将来のこととか、仕事の悩みとか…」


この時点で彼の言い訳はほとんど破綻していた。だが、私は意外にもここで怒りを爆発させる気はなく、もう少しこの状況を楽しむことに決めた。




その時、浮気相手が意を決したように口を開いた。


「すみません、私が無理を言ったんです。理恵子さん、本当にごめんなさい。雅晴さんとはそういう関係では…」


「そういう関係じゃないのに、こんなに緊張してるの?」


私は軽く皮肉を込めて返すと、彼女は真っ赤になってしまった。


どうやらここまでみたいね。雅晴も言い訳のストックが尽きたらしい。最後に、私は一言だけ放つことにした。


「じゃあさ、二人とも今後はカフェで話しなさいよ。私の家じゃなくて。」

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