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まさかの早帰り

「お疲れ様です、主任。」


今日もいつも通りの残業かと思いきや、主任からの突然の一言に目を疑った。

「今日は早く帰れよ。たまにはゆっくりしろ。」

まさかの定時退社のお許しが出た。奇跡ってこういう時に起こるんだ、と心の中でガッツポーズを決めた。


「こんな日もあるのか…」電車に揺られながら、私は浮かれ気分でスマホを取り出す。雅晴に連絡しようかと思ったが、ふとある考えが頭をよぎる。


ーー今日はサプライズしてみようかな。


いつも私が遅く帰るせいで、同棲中の雅晴とは夕食も一緒に取れない日が多い。それにしても最近、彼が妙に家にいるのを楽しんでいる様子が気になる。定時で上がることができる仕事なんて、なんて羨ましいんだろう。でも、今日は私が早く帰る番だ。黙って帰ったら、どんな顔をするだろう?驚くかな、喜ぶかな。そんな妄想が膨らむ。


ーーやっぱり言わない方が面白いかも。


私は彼に連絡しないことに決めた。普段と同じように「残業頑張ってね」と言っておけば、23時くらいまでは帰らないと油断してるはず。だから今日は、こっそり家に忍び込んで、サプライズで彼を驚かせるのだ。




家に着くと、いつもと違う静けさが漂っている。これが「早帰り」か。玄関で鍵をそっと回し、音を立てないように慎重にドアを開けた。その瞬間、目に飛び込んできたのは、そこにあるはずのないものだった。


ーー女性ものの靴…?


何度見ても、見慣れない可愛らしいピンクのパンプスがそこに鎮座している。雅晴は靴フェチだったっけ?いや、そんなわけない。私の靴ではないし、誰かが私の家にいるという現実が脳裏を駆け巡る。


心臓がバクバクする。まさか、浮気?だとしても、こんなベタな展開が現実にあるなんて、私の人生はドラマのワンシーンなのか。怒りと好奇心が入り混じり、私は気づかれないように、そっと玄関から部屋へと足を進めた。




リビングに近づくと、何やら楽しげな話し声が聞こえてくる。私の耳はピーンと立ち、神経を研ぎ澄ませる。静かにドアの隙間から覗き込むと、そこには雅晴と…見知らぬ女性がいるではないか。


ーーうそでしょ?浮気相手を自宅に連れ込むなんて、どれだけ無防備なの!


私はパニックになるどころか、どこか滑稽に感じてしまった。雅晴、バカすぎる…。だって、私の存在が完全に無視されてるじゃないか。まるで私は幽霊か何かか?少し頭を冷やしながら、次にどう動くか考えた。




ーーここは冷静に行こう。証拠を掴むんだ。


焦ってはだめ。私はその場で暴れたっていいが、それじゃただの修羅場だ。ここは一つ、理性で対応しよう。浮気を暴く方法、慎重に準備してから仕掛けるべきだ。そう、探偵になったつもりで。


とりあえず、彼らの会話を聞くことに決めた。雅晴がどんな話をしているのか、興味津々だ。


「やっぱり理恵子、今日も遅くなるってさ〜。23時までは大丈夫だって。」


雅晴の声が聞こえてくる。私は心の中で笑う。


ーーいや、23時どころか、今すぐ目の前にいるんだけどね!


それにしても、こんな露骨なことを言うなんて信じられない。


浮気相手の女性は笑いながら、「本当?じゃあ、まだ雅晴とゆっくりできるね」と嬉しそうに返している。二人とも油断しきっている。私はしばらく観察を続けたが、ついに決心がついた。




次の瞬間、私は玄関に戻り、再びドアを開ける音をわざと立てた。そして、元気よくこう叫んだ。


「ただいまー!!」

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