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狂った歯車

 夜がふけてすっかり暗くなってしまった自室をニーナはランプで照らした。

 今日は年に一度の特別な日。ニーナの誕生日。たった今、それが終わろうとしている。

 部屋にはたくさんのプレゼントが積まれていた。


(とても楽しかった……こんなにたくさんの贈り物まで)


 ニーナの誕生日パーティーにはまだデビュタント前にも関わらずたくさんの人が来た。みんな一目ニーナの美しさを見ようと集まったのだ。プレゼントはパーティーへの入場券の代わりだった。

 とはいえ、ニーナに自分が美しいという自覚はなかった。


(優しい人たちに囲まれて私は幸せね)


 無理もない。ニーナはまだ十歳だった。これから花の時期を迎えるのだから。今はつぼみでしかない。

 しかし、つぼみにして彼女の美しさはすでに同年代の少女から頭一つ抜けていた。プラチナブロンドの髪はまるで月の光を集めたような輝きを放っている。透明感のある白い肌に珊瑚色の唇。真っ直ぐに通った鼻梁。長いまつ毛に縁取られた目の奥にある大きな青い瞳は満月が明るく照らす夜空のように深く神秘的な色をしている。さらに、少女らしいすらりと健康的に伸びた手足。見る者を虜にするには十分だった。

 その中に一つ様子の違うプレゼントがあることにニーナは気がついた。暗い部屋の中、唯一キラリと光を放っている。

 近づいてみるとそれは手鏡だった。他のプレゼントと違い、なぜか箱に入っていない。取っ手に白いリボンが結ばれているだけの簡素な包装だ。

 ニーナは鏡を手に取った。銀色の鏡だった。小さな花の飾りが散りばめられ、鏡の周りを可愛らしく飾っている。裏には円形に蔦の模様が円形にあしらわれ、中心に青い大きな宝石がはまっていた。まるでニーナの瞳のような宝石だ。


(こんな素敵な鏡、見たことないわ。一体誰がくれたんだろう)


 手首を返してヒラヒラと鏡の両面にほどこされた装飾を楽しんだ。裏表、どちらから見ても素敵な鏡だった。

 ニーナは自分の姿を鏡に映した。その時だ。


「きゃ?!」

 

 激しく鏡面が光り、思わず鏡を床に落としてしまった。


 ――ピシャッ!


 ガラスが割れるような音が響く。

 光が消えてニーナが鏡の方に目を向けると、鏡は粉々に砕けてしまっていた。


「大丈夫ですか? お嬢様」


 異変に気がついた執事が部屋に来た。


「お怪我はありませんか?」

「ええ」

 

 ニーナが驚きで身を固くしている間に、執事が手早く鏡を片付けた。欠片が残っていないかよくよく確認したあと、ニーナにベッドに入るよう勧める。


(仕方がないわ。今日はもう寝ましょう。これ以上仕事を増やしたら悪いもの)


 このときまだニーナは気がついていなかった。自分の容姿が変わっていたことに。

 一つ一つは些細な変化だった。

 長い髪からは艶が失われ、瞳の輝きは濁り、鼻は低くなった。まつ毛は短くなり、肌が乾燥した。どれも少しずつ、不自然ではない程度に。

 こうしてニーナは将来得るはずだった美貌を失った。

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