愛焦(あこ)がれて、燃え尽きて。
その瞬間、私は間違いなく意識を飛ばしていた。長年憧れていた氏原先輩からの恋の告白を受け、放課後の体育館裏というあまりにもベタすぎるシチュエーションで呆然と立ち尽くす私と、当の発言者である先輩との間には言葉では言い表せないような時間が流れていた。
「楓夏ちゃん、大丈夫…?」
その一言で我に帰る。大丈夫なわけがない。夢と現実の境界線が歪んでいる気がして、思わず聞き返す。
「先輩…今なんて…?」
「だから、中学の時からずっと楓夏ちゃんのことが気になってた。その…俺と付き合ってくれませんか?」
夢なんかじゃない。地球上で最も起こり得ないとされた妄想が、いま目の前で実際に起こっているのだ。サッカー部のエースである先輩から、ただの美術部員である後輩の私が、中学の頃から気になってたなんて。そんなことあるはずないのに。
「どうして…?なぜ私なんですか…?」
歓喜の照れ隠しに訊き返す。
「なんでって、楓夏ちゃんの笑顔に励まされてきたからだよ。俺の試合には必ず楓夏ちゃんがいてくれて、そのおかげで俺は頑張れてるんだ。俺には楓夏ちゃんが必要なんだ。」
ひたすら昇天する私に誰かがビンタしてくれるはずもなく、声の出し方すら忘れた私に先輩は近付く。
「氏原先輩…」
辛うじて声に出た私の言葉に、先輩は唾を飲んだ。
「うん…」
「わ…私は…先輩のことを小学生の時から応援してました。私以外にも先輩を応援している人はたくさんいました…私はその人たちと同じ、一人の先輩のファンです。だからそんな、私だけが先輩と一緒に幸せになんてなれないです。みんなが氏原先輩に憧れているんです。私も氏原先輩に憧れています。だから…その…ずっと先輩に憧れさせてほしいです。」
またしても言葉にできない時間が流れる。そして気が付いた時には、自宅の玄関で座り込み嗚咽していた。
私から振ったのに、私はなぜか失恋をしていた。