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その殺し十円で引き受けます  作者: 矢野そとか
2/2

大嘘吐き

「驚きました。まさか惑星に一人で住んでいる方がいるとは」

エリは質素な家の椅子に腰かけながらそう呟いた。

「私も驚きましたよ…まさかこんな若いお嬢さんが殺し屋だなんて」

男性はそう言って二人分の茶を注ぐ。

「どうぞ…」

「ありがとうございます…」

エリは右手でティーカップを持つとそっと口に運ぶ。

「…不思議な香りですね」

エリは甘いようなスッとするような香りを楽しむ。

「はい。この惑星にしか生えていない植物の蜜を温めたものです。よろしければお土産にどうです?」

「…そうですね。ちょうど副操縦席が寂しいので一瓶頂けるとありがたいです」

「ええ、もちろん。どうぞ遠慮なさらずに」

男性はそう言って戸棚から瓶を取りだし、きれいに包装紙で包んでいく。

「…手際がいいですね」

「ええ、ずっと家に引きこもってこの作業をやっていましたから」

男性はきれいに包まれた瓶をコトンと机に置くとエリの前にスーと移動させる。

「どうぞ…」

「ありがとうございます」

エリはそれを丁重に受け取ると木で編まれたバックにそっと入れる。

「ずっと引きこもっていた…ということは以前この星にはあなた以外の人も?」

「ええ、もう三年以上前になります…まあ、この星の時間で…の話ですが」

男性はそう呟いた。

「私は引きこもる前まで地質学者でした。地質学者という名前からは想像がつかないとは思いますが空から降ってくるものが専門でしてね。まあもちろん地上についても詳しいですが…」

「そうなのですね…」

「はい、不思議でしょう。それで私は研究を長年続けてきました。そしてある日とんでもない現象に気が付いてしまったのです。それはこの星の人全員の命に関わることでした…」

男性はそう言うとティーカップを口に運んだ。

「……」

エリは黙って男性が語りだすのを待つ。

「私は幼少のころから虚言癖とでもいいましょうか…よく嘘をつく人間として有名でした。別に人を傷つけるような嘘ではありませんが…よくつきました。自分の嘘によって人が慌てたり感動したりする姿を見るのが好きだったのです」

男性はそう言ってため息をつく。

「ですがやがて嘘はバレます。一つ嘘がばれ、二つ、三つと私の付いた嘘がバレていきました。そして私はいつしか誰からも信用されない人間になってしまったのです」

「…何となく分かった気がします」

エリはそう呟いた。

「ええ…その日、私はこの星に住む人全員に外に出るな、家の一階で頭を守れと伝えました。もちろん耳を貸すものは誰もいませんでした。そして私以外全員、死んでしまいました」

「それが噂に聞く鉛の雨ですか…」

「ええ、文字通り千年に一度この星に降り注ぐ鉛でできた雨です。ですがそんな雨が降ることを知る人間は僕以外いませんでした。その雨が降り注いだその日はちょうど教会で祈りをささげる日でしてね…せいぜい百人程度しかいないこの星の住人が僕を除いて全員、街の広場に出向いていました。そして…」

男性はそこで言葉を止めた。

「鉛の雨が降ったのですね…」

エリがその続きを語る。

「ええ…それは弾丸より速い速度であっという間に広場にいた全員を殺してしまいました」

男性は悲しく笑った。

「それで…あなたは私に依頼を…?」

「ええ、嘘つきな自分のせいで救えたはずの命を救えませんでした。そのことがずっと気がかりでして…」

「…分かりました」

エリはカバンから銃を取り出すと男性に向ける。

「では…」

エリは指先に力を込めて引き金を引く。カチッと小さな音が静かな部屋に響いた。

「嘘つきだったあなたは今死にました」

エリはそう呟くと銃を降ろしカバンにしまう。

「…そうですか」

男性はどこか悲しいようなほっとしたような顔をして遠くを見つめる。

「では…私はこれで失礼します。お土産の蜜ありがとうございました」

エリはそう言って席から立ちあがる。

「いえ、こちらこそありがとうございました…」

男性は深々とお辞儀をしてエリを見送った。


 エリはもう誰もいなくなった街を歩いていた。その街は動物と植物が支配していた。

「あれがさっきの広場…?」

エリは街の中央にある広い空間へ出た。ツタに覆われた下にはたくさんの人骨が転がっていた。

「お悔やみ申し上げます…」

エリはそう呟いて誰かのものであった頭蓋骨を持ち上げた。ちょうどおでこの部分に穴がいていた。

「……」

エリは頭蓋骨を軽くゆする。カランカランという音がして中から鉛の塊が落ちた。それはきれいに加工された銃弾だった。隣にあった頭蓋骨からも同じモデルの銃弾が出てきた。

「……」

エリは膝をついたままカバンから銃を取り出すと左の脇の下から後ろ向きに撃った。エリの背後で先ほどの男性が頭から血を流して倒れる。その男性の手には頭蓋骨から出てきた銃弾と同じ銃弾を使うライフルが握られていた。

「…これはお返しします」

エリはそう言うとカバンからお土産にもらった瓶を取り出し男性のそばに置いた。


エリがその星を去った後、野良猫や鳥がやってきて男性の死体をつつき始める。その星に住む人はもう誰もいない。


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