貴方と星座を見たいだけ……
「今年の冬はリウと一緒に星座見たいな」
「でも……アンは夜は出歩いちゃいけないんだろ?」
「……そうね」
アンは悲しげに微笑む。
リウとアンは相思相愛だがアンの母が厳しく一緒に夜を共にしたことも、星座を二人で愛でたことさえもない。
アンの家庭環境は最悪だ。
お酒ばかり飲んで自分勝手な父。アンの自由を許さない母。
そして、アンより優れている妹アナ。
いつも、アンとアナは比べられる。アンは出来損ないだと罵られる。アナが優遇される。
自由にリウと遊びに行くことさえ母に制限される。
アンが苦しんでいる中、父はお酒をずっと飲んでいて自己中で人に命令する。それに従わされる役は全てアン。
(……もう嫌)
家にいても息苦しい。辛い。窮屈で惨めで。
たった一つの救いのリウの隣にずっと居たいと思った。けれど、それさえも母は許してくれない。
この家から抜け出したい。自由になりたい。リウと一緒に居たい……。
そんな切なる願いを抱えたアンにリウは微笑みかけた。
「なあアン……駆け落ち、しないか?」
窮屈な生活の癖に、広い豪邸の屋敷。
憂鬱な思いでいつも家に帰るアンだが、今日は期待していた。
愛するリウが……この生活から助けに来てくれるのでは無いかと。
「お姉様……どいて下さる?」
はっと我に返ってその場をどいた。笑みを浮かべて母の元へ歩いていく妹。
アンのことなんかいないかのようにアナと楽しく話す母。
そして……。
「腹減った」
酒の匂いが臭う体を引きずって父が帰ってきた。
「ご飯はまだかよ?」
向けられる父の怒った声。
「貴方が作っておきなさい」
「頑張ってね〜」
母と妹の無責任な声。
ああ、そうだった。
夕飯はアンが作らなければいけなかった、父が帰ってくる前に。
でないと。
「まだなのかよッ⁉」
父の手が振り下ろされると同時にアンに鈍い音。
やめて。痛い。嫌だ。
誰か、この生活から抜け出させて……。
──リウ……!
消え入る意識の中、アンはリウの名を、叫んだ。
「大丈夫か?」
気づけば、瞼を開いた目の前にリウの顔があった。
「ここは」
「何とか成功したな駆け落ち。お前が来るの遅いから家に行ったらあの有様だ。助けに来たんだよ」
「ありがとう……」
父に殴られて。
そこをリウに助けられて。
その途端、アンの目に涙が溢れた。
「怖かったよな……よし、上見ろ」
リウの顔が視界から消える。
その瞬間、息を飲んだ。
頭上に満点な星空が広がっていた。
「リウ……」
「アン、愛してる」
アンの唇が、塞がれた。