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実は、意外にお金持ち?

第9章

 最近は、マルクに食事や洗濯、掃除を任せている。サルベーセンは、たまにお菓子を作ること以外は、口を出すことがない。それには理由があって、この国の料理を食べた事がなかったので、興味があった。


 「サルベーセン嬢、お酒はないと・・・?」

 「ええ、町からの荷物にはありませんでした。私が、この辺の野ぶどうで作った物です」


 珍しく、マルクが口を聞く、

 「ぶどうがなっているのは、随分と遠い場所でしたでしょう?」


 「ええ、大変でした。その頃は、食べる物が全然なくて、籠を背負って、山に入って、ぶどうや色々な物を拝借して来ては、食べました。でも、この辺り、一帯に枯草の様に生息している麦のおかげで、主食には困りませんでした」


 「先生は、枯れた麦を食べていたのですか?」


 「はい、夏から秋に、すべて収穫して、貯蔵庫に保存してあります。あの山は、宝の山で、芋も見つかって、収穫した後、家の近くに、その茎を植えたら、また、芋が出来ました。このクッキーもその麦で出来ています。栗も、山からひと籠程、収穫して、3日かかって皮をむいて、甘く煮てあります。柿も酢にして、食べれる果物は、すべて取りました」


 「本当に、良かったです。先程、ルイ様が、あの山や土地は、私の物だと教えて下さったので、遠慮なく皆さんで頂きましょう!」


 その場の人間は、誰も言葉を発しない為に、ケンティが、仕方なくサルベーセンに、教える。


 「先生、僕の家は貧しくて、食べる事にも困りますが、あの枯れた麦を食べる事はしません。先生は、王都からいらして、知らない事が多いと思いますが、交易が行われている町は、役所と言う所が管理しています。役所は、王都から派遣された官僚たちが、働いてお金を貰っているそうです」


 「先生、先ずは、町の名前を覚えましょう」

 「ええ、」


 「あの町の名前は、テン・ヴィンと言います。そして、テン・ヴィン以外の森や山、僕たちみたいな平民が暮らしている村は、全部、イレブン・ヴィン領です。そして、今の持ち主は、ヴィン先生です」


 「ええぇぇぇl!! そうなの?それなのに、どうしてこのように貧乏なの・・?」


 「ヴィン伯爵は、常に、王都で生活されていて、僕たちから高い地代や税金を取る事をしていませんでした。家令の方が、たまにこちらに来て、教会の牧師から1年分の代金を受け取るだけでした」


 「本来なら、先生は、ここの人達にお金を請求できたのです。しかし、その事を誰も先生に教えてくれる人は、いなくて、ヴィン夫人の葬儀の後に、牧師先生は、そのことを伝えるつもりだと、みんなに話していました」


 「ここの領土の人達は、本当は、ヴィン領主に感謝していると思います。しかし、優しいヴィン領主は、処刑され、町は、役所の管轄になり、怖くて、誰も、あなた方二人に、近づく事は出来なかったのです」


 「だから、ヴィン夫人が亡くなった時は、村の人達全員で見送りました。サルベーセン先生は最後まで参列されなかったけど・・」


 「先生、ごめんなさい。僕たちは、先生が、そのように大変な生活をしているとは、知りませんでした。本当です。牧師先生はいつもあなたの事を気にかけていて、だから、僕を紹介して下さいました。ここには、先生のお金ばかりを、狙っている人間だけではありません。本当です。ただ・・・、僕たち平民は、貴族の方々が、怖かっただけです。本当です、本当に、ごめんなさい。 」


 ケンティは、まだ子供で、思いっきり泣きだし、マルクも膝をついて、頭を下げた。


 サルベーセンは、そんな二人を抱きしめ、

 「ケンティ、泣かないで、お願い。あの枯れた麦は、本当に素晴らしい穀物なのよ。だって、私たちは、毎日、食べているでしょう?」


 「??????」


 「お菓子やスープ、肉料理やライス、パンの中にも、私は常にあの麦を入れて来ました。小麦の中にも粉にした麦をブレンドしてあります。マルクやケンティは信じられないかも知れないけど、あの麦は、とても栄養価が高い麦で、少しの量でお腹がいっぱいになって、満足感が得られます」


 「・・・・・・」


 「魔法の麦なのよ。マルクさんを始めて見た時に感じたのは、栄養不足だと思いました。それに血行も悪そうで、湯舟から出ても手足が冷たくて、でも、今はどうですか?」


 「こちらで暮らしてからは、ぐっすり眠れて、目覚めもいいですし、寝込む事もありませんでした」


 「あの枯れた麦は、魔法の麦なの、だから、気にしないで、自分の土地に自然に生えてくる食物があるなんて・・・夢のようです」


 「それに、あの麦、いくら食べても太らないの、私が見本です」とクルリと回って、みんなに見せたが、反応は薄く、サルベーセンは、気を使い、仕方がなくワインを注いで、食事を始めた。


 ルイ王太子は、サルベーセンに尋ねる。

 「どうして、その枯れた麦を食べようと思ったのか?」


 「え?他に食べる物が無くなったからです」


  また、その場が沈んで行ったが、ルイ王太子は続ける。

 「なぜ?母親の葬式に参列しなかった?」


 「ーーーそれは・・、多分、母は、私に無関心な人で、私も母に無関心でした。母が亡くなって、悲しい気持ちと、むなしい気持ちが同時にやって来て、私の頭が少しおかしかったのでしょう」


 「でも、どうして、立ち直ったかと言うと、母に感謝する事が見つかったから・・、彼女は、私を連れて行かなかった。その事は、本当に感謝していて、だから、枯れた麦を食べても、生きたいって思いました。そして、わたくしは、魔法の麦を私は見つける事が出来た!! 」


 その夜は、あまり美味しくないワインを飲みながら、この国の事や、領土の事、生活の事、色々な事を初めて、この9人で、話してみた。


 そして、どうやって眠りについたかわからない程、酔っ払い、誰かが抱き上げてくれて、眠りについた。


 まるで、雲の上にいる様な気分を味わいながら、眠りについた時に、心のどこかで、今は、幸せだと感じていられた。


 次の日からは、ケンティと4人の答え合わせが始まり、ここには参考になる文献がないために、不確かな事ながら、その事を前提に、5人は、次への旅たちの準備を始める。


 ケンティは、本当に優秀で、従者4人は、次の旅へと連れて行きたい程だったが、母親の事を思うと、それも出来ずに、数か月間、閉鎖された港は、春になる前に開き、この共同生活は終わりを告げた。


 「気をつけて、また、会いましょう」


 笑顔で、ルイ王子、マリヒューイ、従者4人を見送り、春になってからは、マルク、ケンティも、元の家に帰る為に、見送った。今後の買い物は、日曜日だけになり、ケンティは、毎日、学校に通うようになった。


 誰もいなくなった家は、寂しそうに見えたが、サルベーセンは、ずっと、リリアールと共に歩む事を決めていたので、二人の生活も自然で、穏やかな暮らしになり、落ち着いていた。


 「リリアール、久しぶり、思いっきり話せるね」


 「サルベーセン、この数か月は、本当に勉強の毎日でしたね。この国は、確かに変わったワ! 」


 「????、又、わからない事を・・・・」


 「あなたは、もっと、勉強しなくていけない事があります」


 「リリアール、勉強しても、この生活は変わらないよ。お願いだから、二人でいつまでも生きて行きましょう?どうしても、王都に行きたのなら、もう少し、私がこの世界に順応してからにして、お願い」


 「ええ、このような無知を、野に放つ訳には行きません」


 「え??何?ソレ・・?わからない・・。無知は、仕方がないの、生きて来た世界が違うのだから・・、諦めで下さい。あ~~~、もっと、チート能力欲しかった!!! 」


 それから、次の麦の収穫時期までは、ずっと、リリアールは、暇さえあれば、貴族の生活、マナー、ダンスや仕草等をサルベーセンに教え込んだ。


 「リリアール、明日からは、麦の収穫を始めるわよ。だから、今日は、早く寝ましょう。ムニュ・・・・・・・・・!! 」


 眠りに落ちそうになった瞬間、部屋の床が光り始め、魔法陣の上に、光を纏ったマリヒューイが降臨した。


 「ひぇ~~~!! どういう事?」




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