最終章
第70章
リキュルは、カオ国に転生される前に、色々な研修を受けて来たらしく、マリヒューイが、出産祝いにくれたウォシュレットやシャワーを見ても、驚かなかった。
「しかし、流石に今回は、驚いていた・・・、そうだよね」
その日の夜、サルベーセンが執務している部屋に現われたのは、マリヒューイとマリヒューイ兄上、そして、幽霊のリリアール・・・。
「リリアール、リキュルに戻って、最近、リキュルに慣れてしまって、その姿に違和感がある」
「そう?わたくしは、全然ないのですけど・・・」
リリアールは、人間のリキュルに戻り、マリヒューイの兄上は、見るからに不機嫌そうな様子で、サルベーセンは、マリヒューイに小声で、
「あの・・・あなたのお兄様、どうしたのですか?」と聞いた。
「どうやら、すべての灰が、回収できなかったそうです」
「!!!! やっぱり、突然、イレブン・ヴィン領の近くに誕生した島は・・・」
「はい、カオ国の灰や各国から出た災害ゴミで出来ています」
「リカの国には、川も海もなく、橋が架けられません。だから、兄上は、気に入ったイレブン・ヴィン領の港の近くに橋を架け、そこをご自分のプライベート島にする事にしたようです」
「??????」
「ごめん、もう少し、わかりやすく説明してくれる?」
「兄は、元の国の二番目の皇子ですが、もっと前の国では、唯一の皇子でした。しかし、その国は、閉鎖され、今は、幻の国に変わり果てていて、現在、ご自分が、継承する国はありません」
「ーーーーーー」
「兄とわたくしは、魔王とこの国の子孫の間に生まれた本当の兄弟で、上の兄は違います。上の兄は、今の国の正当な後継者で、魔力はほんの少しです」
「だから、父上は、この2兄をわたくしを助ける為に、派遣して下さったと思っていました。それに、本当に、今回のカオ国の災害は、わたくしの力だけでは、止められませんでした。だから、2兄には、本当に感謝しています」
「元々、2兄の力は、父上によって、封じられているのですが、このようなウルトラ級の災害の為に、今回だけ、少し、父上も魔力を開放したと思われます。しかし、兄が灰を回収し始めたと同時に、もう一人、灰を回収し始めた人間がいたそうです。それも、強力な魔力で・・・」
「◎✖▼#$&!!ええええええ!!!! どこに?どこに、その様にスゴイ力が、この公国に?」
「この公国ではありません。その人物は、この世界のどこかの国の人間らしく、本当に、今は、正体がわかりません」
「だから、本来なら、もっと、早くに、灰などを回収できたのですが、兄上は、そのもう一人と、ずっと、取り合いをしていて・・・、この国まで覆うような、大きな災害になってしまいました」
「しかし、今回、こちらのお兄様が、もしも不在だったらと思うと・・・、」
「はい、多くの命が奪われたでしょう。しかし、父上は、怒り、兄上はふてくされ、その相手の正体もわからない状況で・・・。だから、サルベーセン王妃へのご報告が遅れまして申し訳ありません」
「そ、そんな、お二人には、すべての国王、国民が、いくら感謝しても足りないくらいです。本当にありがとうございました。マリヒューイもリカの国の国民たちが、心配して待っているのに、今も、来てもらってすいませんでした」
「いいえ、公王様には、今回、こちらに寄り、リカの国に戻る事を伝えてカオ国を出発しましたので、丁度、いい時期でした。それに、カオ国も落ち着き始め、各国も撤退が始まり、ルイ公王も、きっと、もうすぐご出発します」
「本当?」
「はい、本当です。王妃にそう伝えて欲しいと、ご伝言を頂きました」
サルベーセンは、嬉しくて仕方がないが、今は、その様な雰囲気でないので、ぐっと堪えた。
ーーーその場の3人は、ふてくされている気難しそうなこの2兄を見て、小声で話す。
「問題は、もう一人、魔力がある人物がいる事・・・・?なの?」
何も語らない兄に代わって、マリヒューイが、説明する。
「わたくしは、まだ、魔力が足りず、ずっと、カオ国や公国のすべての国を、救える事が出来るのかが、幼い頃より不安で仕方がありませんでした。だから、サルベーセンさん達に、初めて出会った時に、一筋の光が見えたようでした」
「しかし、サルベーセンさん達とカオ国に行っても、どのようなアドバイスをもらっても、その不安は、消える事はなかったのです」
「わたくしのこの不安は、父上とこの2兄には、どんなに遠く離れていても、伝わっていたと思われます」
「その度に、彼らに、心配をかけていた事も、今回、初めて知りました」
「それで、今後は、どうなさるの?その島にお住まいになるのですか?」
不機嫌で無口な2兄の魔王は話し出す。
「あの日、この国に来てから、もう、元の国に帰る事は考えていない」
「??????」
マリヒューイが、
「2兄は・・・、このような性格ですが、前世でも、わたくしの事が大好きでして・・・、」
リキュルが、
「シスコン?なの・・・・?」
再び沈んだ空気をどうにかする為に、サルベーセンが提案する。
「あの島や橋は、当然、お兄様の物ですが、これからあそこで生活するとなると、それなりに生活費が必要になります。その生活費は、今回のこのご活躍の給金として、公国としてお支払いするように、国王陛下に進言いたします。それでよろしいでしょうか?」
2兄は、言葉も発しないで、頷き、そのまま自分の島にマリヒューイと共に移動して行った。
二人が消えて、リキュルとサルベーセンは、顔を見合わせて
「まだまだ、不思議な事があるんだね・・?」
「わたくし自身に起きた事、リリアールの中で起こった事、元のサルベーセンさんの事など、不思議な事でいっぱいですが、この世界は、確かに存在して、わたくし達は今も生きています」
「ーーーわたくしとあなたが出会って、あなたが王太子殿下を攻略しろ! って、おかしな話をしたことから始まっていますが、どうやらその無謀は命令は、正しかったのでしょう。ありがとうございます。わたくしが出会った優しい幽霊、わたくしとルイ陛下を会わせて下さって、公国全土を救った事、全国民を代表してお礼を述べます」
「サルベーセン・・・・。わたくしも、今、どんなに幸せかわかる?信頼できる友達がいて、この国の為に少しでも役立って、わたくしが、あの時、処刑された意味が、今のこの公国にあるのなら・・・その意味を、今なら、受け入れられます」
二人は抱き合いながら、再び喜び合った。
「本当に良かった。この国も、公国も、すべての人々も、どうにか存在しています! 」
それから数週間後に、ルイ国王陛下は、大勢の軍隊と共に凱旋した。
街は、紙吹雪で溢れかえり、歓喜する大勢の国民に迎えられ、王宮ではサルベーセン王妃が、バルコニーから、まだか、まだかと、その勇姿を発見する為に、待っている。
「母上、ずるいです。今度は、僕の番です」
「しかし、ホハバ皇子、まだ、父上の馬列は見えませんよ・・」
「貸して下さい。僕が探します」
二人は、魔王の2兄からもらった望遠鏡で、凱旋するルイ国王を、探しながらすでに1時間以上もこの場で待っていた。
「王妃、・・皇子、一度、お部屋に戻って下さい。このままでは、お風邪を引きます」
二人は、エフピイのその言葉で、振り向き、納得して部屋に戻り、「リキュルは?」と聞くと、「はい、今回、お父上も、ご一緒にお迎えに来ると聞き、お生まれになった弟君の為に、プレゼントの用意をなさっています」
「そうね。リキュルは、もうすぐ、帰国するのね・・・」
「母上、見えました。物凄く遠くですが、父上のお姿が見えます。笑って、民衆に手を振っています。素晴らしいご勇姿です」
サルベーセン王妃は、急いでまた、バルコニーに出て、本当に、遠くに小さな姿の愛する夫を、発見する事が出来た。
「ルイ公王陛下、あなたは、この公国を残す事をやり遂げました。おめでとうございます」
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月夜の下、お気に入りのバルコニーで、サルベーセン王妃は、マリヒューイとリキュルと3人で、楽しそうに、ケーキを頬張り、お茶を飲み、おしゃべりをしている。
「王妃、まだ、そのワイン飲んでいるのですか?」
「まったく・・・、ハハハハ・・・」
「そうそう、あれから・・・・、弟が・・」
サルベーセン王妃は、二人が、王宮に現われる事を、誰にも知られない為に、3人でのお茶会は、月夜の下で行っているが、ルイ陛下は、片目を開けて、そっとベットから離れるサルベーセン王妃を、いつも笑顔で送り出していた。
「ああ、今宵も、大好きなお茶(?)会ですね」
そして、月夜に映し出された美しい後ろ姿に向かって、
「風邪を引かないで下さいね。あなた方は、大切な方々です」と、呟く。
この小説を、読んでくださったすべての方に、感謝します。この後、誤字等の修正を行う事がありますが、内容の変更はない予定です。
本当にありがとうございました。感謝で、いっぱいです。
ーーーーーto be continuedーーーーー




