生活が始まる。
第7章
「どういう事ですか?」
「はい、僕が町の市場に行ったら、市場の人たちが、一斉に僕の所にやって来て、荷台に商品を積め始めました」
「町に入る前に、お二人とは別れていて、僕は、いつもの様に、先生の買い物リストを見ながら歩いていると、市場の人たちが押し寄せて来て、僕に、いつも以上に購入する事を求めて来ました」
「それでも、断っていると、段々、迫って来て、いつの間にか勝手に荷台にどんどん食料を乗せて行くのです。困っていると、見回りに来ていた役所の人が、助けに来てくれて・・・・・」
「??????」
「先生の家まで荷台を押してくれる人を探してくれました」
「え?どういう事?」^ーーーーケンティは、もう少しで泣き出しそうだった。
「役所の人が言うには、これから雪が酷くなって、市場が閉まると・・、しかし、一緒に運んでくれた人達は、国王陛下のご命令で、港が閉まるので、市場の人たちは、違う市場に向かう為に、移動に邪魔な在庫をサルベーセンさんに押し付け、現金に替えると言いました」
「その人達は、サルベーセンさんに、売ってしまえば、役場は、確実にお金を払ってくれて、損をしないで、身軽に移動できると、言っていました。助かる、って・・・」
「あいつら、反省していないな!!! 」
「それで?その運んでくれた人達は?」
「家の前に荷物を置いて、逃げました。ーーー町で、困っている時に、遠くでイカルノさんと目が合って・・・。頷いてくれたので・・・・、そのまま、帰って来ました」
「・・・・・・」
サルベーセンは、考えて、
「ーーーケンティ、遠くで誰か見ているかも知れないから、外の貯蔵庫にしまいましょう」
「肉や魚、腐りそうな物は、一度、切り分けて、家の近くの保存庫にしまいます。丁度、雪が降って来て、腐る事はないでしょうけど、動物に食べられてしまっては、勿体ないです」
「はい、先生」
それから、ケンティと二人で、雪の中、汗が流れる程、荷物運びをして、厨房に戻ってからは、生鮮食品の加工を始めて、大きな肉や魚は、切ったり、煮たり、焼いたり、下味をつけたり忙しく働いた。
やっと、ルイ王太子の従者のイカルノとマルセルが到着して、
「ルイ様、遅くなりまして申し訳ございません」
「うん、港が閉鎖され、町の様子が一変したようだな?」
「はい、町で買い物をしながら、情報を集めたのですが、隣国センブルクの様子が怪しいらしく、国王陛下は、彼らが一番入国しやすいここの港を閉鎖したようでした」
「センブルク国?センブルク国とは、争いが無いと思うが・・・、どうい事だ?」
「センブルク国の国王陛下が亡くなり、小さな内乱が起こっている模様です」
「そうか・・・」
「多分、父上は、私が出国していない事を、知っているに違いないな・・・・」
「はい、国王陛下は、そのような方です」
「・・・・・・」
「それでは、風呂に入るか」
2人はため息を吐き、
「ーーー王太子もそのような方・・・・です」
ルイ王太子は、肉屋や魚と戦っているサルベーセンの所にやって来て、
「早く、浴槽を使いたい! 」と、言って来た。
後ろの従者たちは、どこからかパーテーションを増やし、きっちりと浴室を作っていた。
(--こいつら・・・!! 図々しいにも程がある。)
食べ物の事で頭がいっぱいなサルベーセンは、大量の生姜と格闘していて、すぐそばで王太子が入浴する事に、特段、気にしていなかった。
大量の生姜で、生姜シロップを作り、保存が効くようにオイル漬けにもした。美味しいシロップが出来上がって、
「そうだ!! 生姜なんて、この国では初めて見たので、生姜焼きを作ろう!! 」
鬱憤を晴らすように、シャキシャキしている野菜を大量に切って、その後、この国で初めての生姜焼きを作ってみた。交易がある港町には、異国の食べ物が沢山あって、希望の商品を探してくるケンティは、物凄く優秀だと、常に感じていた。
「・・・先生、お腹が空きました」
「もしかして、お昼ご飯食べていないの?」
「・・・・・・」
「丁度、生姜焼きが出来たから、先に頂きなさい。パンとスープもあるから・・・」
「ねぇ、この生姜初めて見るけど、どこの国の物かしら?」
「多分、センブルク国の特産です。今日、初めて見た商品です」
周りの人間たちは、じっと、サルベーセンとケンティの会話を聞いていた。
いい匂いの漂う部屋では、きっと、誰もがお腹を空かしていて、
「サルベーセン嬢、僕たちも昼食を食べていません」
「え〜! 町に出た時くらい、食事をして来て下さい」
匂いにつられたのか、お風呂上がりの王太子も食事を始めて、みんなで夕食をすませた後に、マルクは、起きて来た。
「・・・先生、申し訳ありません。寝すぎました」
「大丈夫です。お疲れだったのでしょう。食事は用意してあります。ゆっくり食べて下さい」
マルクが食事を終えると、サルベーセンは、マルクに生姜シロップを飲むように勧めた。
「お湯でも、お茶でもいいのですが、このようにこのシロップを入れて、毎日、召し上がって下さい。体が温まり、血行も良くなって、寒い所でも暖かく眠れます」
「私は、お茶に、生姜のシロップの中に入っている柑橘類なども入れて、ブランティーも少し入れて飲むのがオススメです。寝る前に飲むと本当に良く眠れます」
「冬の間に、健康を取り戻して、春になったらケンティを学校に行かせてあげて下さい」
マルクは感動して、泣きながら、美味しくて、暖かい生姜シロップを飲んでいた。
「そう言えば、あの荷物の中に、酒はあったか?」
「ありません」5人は、黙りその後、質問する事はなくなったのか、
「サルベーセン嬢、僕たちも入浴する事は出来ますか?」とイカルノが聞いて来た。
「そうですね。今日は、後一人くらいは可能でしょう。ーーー明日からは、順番で、入浴するようにしましょう」全員が頷いたので、明日から手探りの生活を始める覚悟が出来た。
次の日から1週間は、毎日、雪が降り、外の作業も出来ずに、家の中の改善を、みんなで行い、この生活にも慣れ始めた。
日中は、貴族5人は、2階で会議に明け暮れ、順番になると、お風呂に入り、他の女、子供は、厨房部屋でひたすら食料品と格闘して、保存の道を模索していた。
「落ち着いてきたから、勉強を再開しますか?マリヒューイは、学校に通っているの?」
「いいえ、サルベーセン様のように、教えて下さる先生がいました」
「でも、サルベーセンさんは、貴族の教育を受けられたのに、計算が出来るのですね。感心しました」
サルベーセンは、リリアールをチャラっと見て、マリヒューイが、正しいのを知る。
ケンティが、
「先生は、まったくお金の価値を知らなかった為に、この町の人達から、みんなお金を巻き上げられてしまったんだ。でも、王都からヴィン家についての問い合わせがあって、町中が大慌てになって、みんなが先生にお金を返すようになったんだよ。だから生きる為に先生は、物凄く勉強して、計算を覚えて、僕にも教えて下さるようになったんだ」
「今は、教会から借りている本で、二人で色々な勉強をしている」
「そうなの、私も、ケンティに、何を、教えたらいいか、わからないから、マリヒューイを参考にしようと思って・・・」
「私は女の子だから・・・、ダンスやマナー、音楽や詩などを習うと思いますけど、男性は、それこそ剣や武術なども習うのではないでしょうか?」
「もう少し大きくなると、文学、法律、経済学、会計、医術の知識など、色々学ぶ事もある。君の年で、読み書きや計算が出来、広い視野を持っている子は、将来、有望だよ」
お風呂上がりのマルセンは、会話に入って来た。
それから、本を手に取り、
「それに、牧師先生の本のセンスもいい。すべて役立つ文献が乗っている。君に期待しているのがわかるよ」
「私も数回ですが、教会のお教室に参加したことがありますが、難しい講義でも、知識を得たい人々は、真剣に学んでいまして、本当に感動しました」
「それに、講義に来られる先生方も、立派な方々で、最後、教会に書物を寄付される方が多いと聞きます」
「そうか、教室の運営は、市中よりも上手く回っていると考えていいみたいだ」
「では、今日は、時間がある。この本について、僕が説明しよう」