長い間、待ちました。
第67章
ケンティは、魔王一家の冷遇にも気づかず、マリヒューイが、大切にしている家族の世話を一生懸命している。
今回、魔王一家が訪れた目的は、カオ国の安定の為でもある。
「父上、このままでは、カオ国が消滅して、こちらの国にも大きな被害が出ます。最も恐ろしいのは、森林すべてが焼け、人々が、中毒死する恐れがあるのです」
「あのずる賢い、爺さんのことだ。最初からこのような状況になる事がわかっていたのだろう」
「大おばあ様の為なら、地球もなくすような人間です」
「おまけに若返っていて、青春を謳歌して、その間、マリヒューイは、どんな思いでいたか・・」
「しかし、マリヒューイは、違う世界でしか生きられない。その為に、爺さんは、引退を決めて、マリヒューイに自分の永遠の命を与えたんだ。何が正解かなんて、わからないって、母上はいつも言っています」
魔王は、二人の息子に、
「お前たち、カオ国に行って、状況を見て来い。私はしばらくここで、お母さんと、マリヒューイとあのケンティを見張らなくてはならない」
「・・・・・・」
魔王の二人の息子は、カオ国の地下の状況を確認する為に、カオ国に魔法で向かった。
「二人は、行ったの?」
「ああ、ブツブツ言ってはいたが、今回のこの仕事を任せようと思う」
「マリヒューイと、一緒に、いたかったでしょうに・・・?」
「それは、自分も同じだ。しかし、彼女も一国の王、側近は、年寄りばかりで、唯一、使えるのは、彼だけだ。ーーー何かと大変だろう・・・」
「昨日は、久しぶりに彼女と寝たけど、朝早くに、リカの国に戻ったのね」
「ああ、ここの国に王太子が誕生して、お祝いや、色々な事を決めなくてはいけないらしい」
「国王なんて、あの子が生まれた時には、考えもしなかった。唯々、可愛くて、変な男にだけ気をつければ大丈夫と、思っていたけど、ーーーーーー」
「ーーーもう、泣かないって、何度も約束しただろう?」
魔王は自分の奥さんを抱きしめ、いつもの様に慰めていると、ケンティが思いっきりドアを開けて、やって来た。
「おはようございます。今日は、町をご案内するように、マリヒューイから頼まれました」
ケンティを見た魔王が、「変な虫は、既についていた! 」
「・・・・・・」
ケンティは、マリヒューイの大切なお客さんを連れて、二人の小さい頃の話をしたりして、領土内で、マリヒューイが関わった所などを、訪ね歩いた。
「ここの学校に通っていたの?」
「はい、僕もマリヒューイもここの学校と、王都の学校に通いました。今は、長老たちが、僕たちに色々教えてくれています。学校は、本当に、楽しかったです」
「そう・・」
王都では、街中が王太子誕生を祝い、お祭りのような賑わいで、国王陛下は、珍しく、バルコニーに出て、多くの国民の祝福を受けたりして、忙しくしていた。
育児室では、エフピイが、王妃に報告していた。
「各国からは、たくさんのお祝いの品が届いています」
「そう、ありがとう。カオ国も平常ですか?」
「はい、今のところは平常ですが、昨日、カオ国のメイドから、気温が上昇していて、少し不安だと手紙が来ました」
「今の王妃様に、このような事を申し上げるべきではないのですが、私は、信頼を裏切る事は出来ません」
「ありがとう。いいのよ。きっと、大丈夫だと、確信は、出来ているから、大丈夫・・」
エフピイは、明け方、マリヒューイ国王が訪ねて来たと、部下より報告が入っていたので、王妃が、安全だと確信しているなら、自分も安心して、業務に当たれると思っていた」
「所で、エフピイ、あなた、いつ産休に入るの?イカルノは心配していないの?」
「えええ・・、まだ、お腹も目立っていませんし、大丈夫かと・・・」
「エフピイ、わたくし、ある日、突然、結婚してから、今まで仕事らしい、仕事をしていません」
「しかし、あなただけ、結婚後も、妊娠した後も、ずっと、変わらず働いています」
「・・・・・・」
「今後、王太子が誕生して、たくさんの外交パティー、お茶会、夜会等が行われ、本来、宰相の妻として、あなたも、参加しなくてはいけないのですよ。しかし、あなたは、ずっと、エフピイ部隊の隊長として、警護の仕事に携わっていますが・・・。今後は、どうします?」
「・・・・・・」
「そこで、早めに、産休に入る事を条件に、これらの集まりを、極力、減らすように、イカルノに進言して下さい」
「・・・・・・」
エフピイは、王妃は、本当に、カオ国の状況が大丈夫だと理解して、今後は、王妃、宰相夫人を取り巻く環境の整備に入るように、申したのだと、飲み込んだ。
「はい! イカルノ宰相と相談して、王妃様のご方針に沿うように、検討してまいります」
「ええ、体に気をつけて下さい。では、また、会いましょう」
エフピイが、部屋を去ってから、部屋中に運び込まれてプレゼントと、手紙の山を見て、サルベーセン王妃は、
「呑気にお茶なんか飲んでる暇は、ありません。リリアールが、既に誕生していて、誰の子供か、探し当てる仕事があるのです。エフピイ、必ず! 頼みますよ」
一方、カオ国から戻って来た兄たち二人は、
「地熱が急上昇しています。地下の一番熱い所を少し冷やして来ましたので、当分は、大丈夫だと思われます」と、魔王やマリヒューイに報告していた。
マリヒューイは、
「そうか・・・、燃え上がってから、雨でどうにかしようと思ってたけど、お兄様のように、地下に、魔法を注げばいいのですね」
「今回、もう少しで大噴火になりそうだった。爺さんが、焦って、この国の扉が開く瞬間を教えてくれた訳だ」
「それは、王妃の出産と同時だったのですね?」
「そうだ。たった一瞬だけだったが、ずっと、その日を待ち望んだ。一度、道が出来れば、もう大丈夫。これから、いつでも来れる」
「しかし、父上、マリヒューイの魔法だけでは、不安が残ります」
「そんな・・・。酷いです」
「マリヒューイ、我々は、しばらくは、こちらに滞在します。その間に、お父様より、たくさん魔法を教わるのがいいでしょう」
「そうだよ。マリヒューイ、僕もお父様より、たくさんの魔法を教わって、少し使える様になったんだよ」と優しい上の兄は、マリヒューイに話してくれる。
「本当?では、ケンティも?」
「マリヒューイ、ケンティには、魔法の欠片が一つもない。在るのは、優しい心だけだ。だから、魔法を習得する事は出来ないだろう」
「聞けば、彼は、既に、ご両親を亡くしていて、今の王妃に育てられたみたいですね。マリヒューイが、ずっと、一緒にいたい人になってくれればいいですね?」
「母上、わたくし、そんな事、思っていません」
「ふふふふ・・・・」
その後、マリヒューイは、公務の合間をぬって、両親や兄たちに会い、魔法や政治、娘として必要な事を習いながら2ケ月程を過ごして別れを告げた。
「マリヒューイ、お客様は、もう、帰られたの?」
「ええ、今日の朝、出発しました」
「そうか、残念だ。お兄さんたちに、まだ、まだ、色々、教えて欲しかったのに・・・」
「ケンティ、まだ、彼らは、あなたの兄ではありません! 」
『え?』
×××××
マリヒューイが、不用意にケンティに告白してから2年が過ぎ、カオ国の再炎上が本格的に始まった。
王都の王宮では、緊急会議が始まり、緊張が走り、
「すでに、マリヒューイが、現地に到着しているが、彼女だけでは、心配だ。すべての国から応援部隊が、もうすぐカオ国に到着するが、全国民の国外への避難が始まっている。そして、我が国にも、大勢のカオ国の国民に、避難場所を用意しようと考えている」
「はい!勿論です 」
暫くして、ホハバ王太子を抱いて座っているサルベーセン王妃の元に、一人の令嬢が連れて来られた。
「王妃・・・」
王妃はホハバ王太子をメイドに預け、立ち上がり、
「長い間、お待ちしてました。リキュル令嬢・・・・」と王妃は、その令嬢の前に立った。




