王太子誕生
第66章
サルベーセンが、リリアールの肖像画を見つけてから、1週間後の夜中、無事、王太子をご出産した。
「おめでとうございます。国王陛下、おめでとうございます。王妃様」
王子を出産した後に、何度も、「おめでとうございます」と言われているが、きっと、一番、喜んでいるのは、リリアールだと、感じられる。
「リリアール・・、あなたは、もうすでに、この世界に誕生しているのね・・」
普通、子供が産まれると、夫は当然だが、親兄弟が駆け付けてくれて、一緒に子供の誕生を祝ってくれる・・、しかし、サルベーセンには、既に両親も兄もいなかった。一抹の寂しさの中、産後を支えてくれたのは、リリアールの気配だ。
少しだけ、ナーバスになっていると、明け方に、マリヒューイが、訪ねてくれて、少しだけ、二人で話をした。
「王妃・・、泣いていらしたのですか?まったく、兄上は、どうしたのです?」
「流石に、産んですぐには同室とはいかなくて、別室で眠っているの・・、大丈夫よ。少し、サルベーセンの身上と、わたくしの身の上を重ねて、悲しくなっただけだから・・・」
「お子さまを産んで、ご両親やご姉妹を、思い出したのですか?」
「ええ、今の、この世界にサルベーセンの両親とお兄様がいたら、きっと、サルベーセンと赤ちゃんを抱いて、喜んでくれたと思うと、泣けてきました。でも、リリアールがどこかで絶対に、飛び上がって喜んでくれているのが、わかって、それは、それで、また、泣けて・・・」
「このような、素晴らしい体験をして、可愛いわが子を授かったのに、出産直後は、気持ちが不安定なのかも知れない」
「まだ、親になり切れていない・・・」
「王妃、実は、両親、兄弟たちが、日本からやって来ました」
「丁度、王太子、ご誕生の日に、来ました」
「・・・・・・」
「ーーー、偶然?」
「偶然ではないと考えています」
「今、父が、この世界に、滞在していますので、もしも、王妃が望まれるのであれば、日本から、ご家族を呼びましょうか?」
「え??イヤイヤ、それは、結構です。両親たちは、いい年ですし、帰ってから、周りに人達に、ボケたと、言われ老人施設に入れられてしまいます」
「ーーーしかし、マリヒューイの本当のお父様は、本当に、そのような力があるの?」
「母が言うのは、父は、核兵器並みの魔力がある魔王だそうです。私の母は、元々、この国の王室の血筋で、日本人ですが、私のこのような能力は、二人の両親から受け継がれています」
「そうなんだ・・・。そうだよね。マリヒューイ、まだ、本気出してないと思っていたし、納得できます」
「はい、国王陛下も、私の潜在能力を物凄く心配していました」
「所で、何か用があるのですか?」
「・・・はい、実は、ご出産後で、お疲れだと思っていたのですが、両親と兄たちが来たので、イレブン・ヴィン領のお屋敷を貸して頂きたいと、思いまして・・・」
「ええ、どうぞ、空き家になっています。どうぞ、使って下さい」
「自分たちの屋敷も携帯して来たのですが、橋の近くにいきなり大きな屋敷が出来上がると、リカの国の国民、イレブン・ヴィン領の人々も驚き、騒動になると思いまして、すいません」
「あの空き地に、いきなり、異世界の建物は、難しいかもね」
「はい、屋敷全部、隠す事は出来ますが、サルベーセンさんの屋敷で、ゆっくり過ごす方が、私も彼らも、安心です」
「それで、少し、改造もいいでしょうか?例えば、シャワーやウォシュレット付きトイレや電子レンジなど・・・?」
「おおぉ! なんて、贅沢な暮らしでしょう。魔王様、最高です。羨ましい、ウォシュレット、何度、夢見たことか・・・。あああぁ、それは、良いお父様です・・・・・」
サルベーセンは、出産後の興奮が、だんだん落ち着き始め、やっと、疲れが襲って来たのか、すっと、眠りについた。
「彼女、初めての出産で、本当に心細い思いをしていましたね」と、姿をあらわしたマリヒューイの母親は、そっと、マリヒューイに話す。
「ええ、お母様が来てくれて、本当に良かったです。私もわからない事ばかりで、お力になれませんでした」
「大丈夫、初めての夜に、このように眠れれば、安心です。後は、お父様に霧を出して頂きましょう」
マリヒューイの父親も、すっと、現われて、王都の街を霧で包んだ。
今回、マリヒューイの両親たちが現れたのは、サルベーセンの気持ちの切なさと、皇子誕生の為だろうと、マリヒューイは考え、サルベーセンの寝顔を見ていた。
「サルベーセンさん、ありがとうございます。やっと、家族に会えました」
次の日、サルベーセンの育児室と寝室などのトイレはウォシュレットに、浴室は、シャワー付きに改造されていて、王宮内では、大きな話題となった。
「明け方、マリヒューイが、訪ねてくれて、出産お祝いを頂きました」とルイ陛下に説明する。
この公国のマリヒューイの評判は、既に、なんでもありの状態で、雨や雷が自由自在なら、トイレや浴槽の改造なんて、お手のもの、自然に頷いてくれた事に、サルベーセンは、驚きを隠せない。
(イヤイヤ、そこは、もっと、驚こうよ!スゴイ事なんだよ。このトイレ・・・。)
王宮では、サルベーセンのお風呂好きは、有名で、結婚前に、浴室は、7つも作られ、どのお風呂に入ってもいいようになっていて、そこに、シャワーが登場したことに、まったく、違和感がないらしい。
「スゴイよ、本当! 慣れって、驚きです」
サルベーセンは、昨夜の疲労困憊から復活して、皇子におっぱいをあげたり、おしめを変えたする様子を見たり、ベットで少しだけ抱きキスをして、温かいわが子の感触を楽しむことが出来た。
「陛下がいらっしゃいました」
国王陛下も、初めての事で、心配していたが、サルベーセンの嬉しそうな笑顔を見て、皇子を抱いているサルベーセンに抱きつき、
「体はどう?大変でした。昨夜は、王宮がひっくり返る程の緊張感だったよ」
「ええ、でも、なんだか、霧が深くなって、やっと、寝つく事が出来ました」
「ああ、私もそうだ。霧が出てから、安心して、少し、眠れた。心配で、早く皇子に会いたくて、それでも、静かにした方がいいのか、正解がわからずに、夜明けをまちました」
「皇子は、どうですか?」
「ええ、すごく可愛いです。私達に似ています」(親バカだ! )
サルベーセンは、この時、優しいルイ陛下に抱きしめられて、本当に安心したと、心から思った。
「オギャー、オギャー! オギャー!! 」と皇子が主張し始めて、
「あら、泣いている」と、二人は、泣き出した皇子も愛おしいと思える、しっかりとした親の顔になっていた。
一方、イレブン・ヴィン領のサルベーセンの屋敷に、滞在している魔王一家は、勝手に屋敷の改造を行い、快適に過ごしていた。
「ここも太陽発電ですが、電力が少ないですね。温泉もないし・・・」
「父上、本当に、このような所にマリヒューイを置いて帰るのですか?」
「ああ、連れて帰っても、病気になるだけだ、それに、この世界を救う事が、彼ら一族の使命なのだから、仕方がない・・・」
「しかし・・・」
「やっと、取っ掛かりを見つけて、会える事が出来る様になった。それだけでも、サルベーセン王妃に感謝する」
「・・・・・・」
もう一人の兄は、可愛い妹を失った後の家族を思い出し、
「それでも、生きて会えた。あんなに小さかった女の子が、びっくりする程、成長している」
「・・・・・・」
その後、マリヒューイが、まったく魔力も、野心もないケンティを連れて来た事に、魔王一家は、言葉を失い。
「やはり、この世界は、見捨てるか?」と、真剣に相談していた。