リリアール②
第65章
「そういえば、ヒロヒロ宰相の所にご息女が誕生したらしい」
サルベーセンの頭の中には、「らしい、らしい、らしい~~~」がずっとこだましていて、
「陛下、ヒロヒロ宰相のご息女は、いつ、お生まれになったのですか?」
「2、3週間前だと聞いているが・・・?」
サルベーセンは、うわの空になり、陛下の問いかけも届かない。
「ーーーそうですか、わたくし、少し、眠くなりました」
「ああ、今は、大切にすることが一番だ。ゆっくり休んで、もう少し、食事をとった方がいいと、医師も言っていた」
「ーー、最近、あまり食欲がなくて・・、つわりだったのですね。気が付きませんでした」
次の日からは、エフピイたちではなくて、専門のメイドが揃えられ、エフピイたちは、本格的な護衛部隊へと変貌して行った。
「エフピイ、すごい人数ですが、こんなにメイド達は、要らないのでは?」
「しかし、先日の事があり、今後、皇子がご誕生なさるまでは、食事や休息、運動や美容等も、すべてそちらの専門のメイドが行います。私たちが、出産の経験がないので、今後はお助けできる事が少ないです」
「そうか・・・、やっぱり、経験が大事だよね・・・」
その夜、サルベーセンは、ルイ陛下に、初めてのおねだりをしてみる。
「陛下、お願いがあります。エフピイの部隊の女性たちを結婚させてください。特にエフピイ! 」
「ーーーーどうして?」
「一人で出産するのは、不安で・・、彼女たちも、経験がないと不安だと申していました。それに、聞く所によると、イカルノ達は、子供の頃から、ずっと、結婚を待っています。だから、大至急、子供を作ってもらいましょう」
「アッ、どうせなら、残りの3人の側近たちにも、至急、子孫を残すようにお願いします」
「しかし、婚姻は、個人の自由で・・・・」
「・・・陛下、気持ちが悪いです。ーー吐きそう! ううううぅぅ・・・助けて! 」
「サルベーセン!! 誰か!! 誰かいるか?大変だ。王妃が・・・!! 」
陛下が、慌てて叫ぶと、大勢のメイド達がいち早く駆け付け、サルベーセンを救ってくれるが、その痛ましい姿を見て、ルイ陛下は、
「イカルノ達の事は、進言してみよう。大丈夫だ。任せなさい。今は、自分と子供の事を考えて、体をいたわって、いいね?」
「はい、お役に立てなくて申し訳ありません」
サルベーセンは、カオ国では、あまりにも遠くて、気軽に会う事が出来ない。だから、まだ、イカルノ達の子供に期待を寄せている。
「ここは、イカルノ達に期待して、どうにかわがまま娘を、授かってもらわなくては・・、お金がかかる娘で、申しわけないが、あの二人は、親としては、優秀で、躾もきびしそう・・・。彼らしかいない・・」
サルベーセンのつわり作戦が功をなし、イカルノとエフピイは、直ぐに結婚式が行われ、その後、ジンも、なんとエフピイの部隊の一人と結婚し、テン・イレブンの役場のサチスタも、エフピイの部隊の女性を娶った。
しかし、残りの3人の閣僚たちは、まだ説得されている様で、朗報が聞けていない。
サルベーセンのお腹が、目立ち始めて落ち着いた頃、エフピイの結婚式が行われ、それに感化されたのか、その後、残りのエフピイの部隊の女性たちも続々と結婚した。
久しぶりに会う、マリヒューイは、サルベーセンに、
「王妃、知っていますか?今年と来年に、生まれる赤ん坊たちは、王妃のお腹の皇子と、一緒に学び、その後の将来も、安泰だと、噂ですよ。だから、今後、王宮の中の独身者たちは、焦って、結婚と出産するでしょうね」
サルベーセンは、口を開けたまま、驚きを隠せない。
「そんな事、言っていません」
「王妃は、言わなくても、国王が、そう話したようです」
「だから、エフピイの部隊の女性は、完売したのですか?」
「彼女たち、どうしても、娘が欲しいらしいです。そして、次の世代も王妃に仕えたいそうです」
「イヤイヤ、リリアールが、わたくしの護衛に就いたら、わたくし、すぐに暗殺されるのでは?そんな、困る~~~」
「フフフフ・・、でも、楽しみですね。また、リリアールさんに、会える日を待ちましょう」
サルベーセンと、マリヒューイは、美しいウエディングドレスを身に着け、イカルノの元に歩いて行く、エフピイを感激しながら見ていた。
ルイ陛下が、
「王妃、ご満足して頂けましたか?お腹の子供が産まれて、大勢の友達に恵まれるといいです」
「ええ、そこは大丈夫でしょう。国王陛下に似ていれば、いい側近といい友に恵まれます」
「もしも、王妃に似たら、不登校になりますが、その時は、同じ年の子供を集め、王宮で授業をすることにしましょう」
「まぁ、それなら、同級生は、多い方がいいですね」
「大丈夫、その点は抜かりありません」
二人は、顔を見合わせて、幸せそうに微笑み合った。
その話は、尾びれ、背びれをくっつけて国中に広がり、当然の事ながら、イレブン・ヴィン領の領民の間でも大きな話題となり、その時に、結婚した領民は多く、大きな経済効果となった。
そして、秋になり、誰もが、出産準備でハラハラドキドキしている王宮内では、サルベーセンの近くで、女性の歴史学者が、この国について、サルベーセンに講義をしていた。
王妃は、妊娠が判明してから、目を使って書類を読む事を禁じられていて、今では、イレブン・ヴィン領の報告書を読む事も出来ない。従って、本などを読んでくれる女性を、陛下は手配してくれた。
「歴史学者がいいのか?この国の歴史をもっと知りたいのか?」
「そうです。この国の事や周りの国と、どのように関わって来たのかを知りたいです」
その女性学者は、マリオと言って、なかなかオタクの学者で、歴史の中に色恋を取り入れ、面白く話してくれる。周りのメイド達も、サルベーセンに付き添って、目を輝かせて彼女の講義を聞いている。
そして、面白いのは、当時の肖像画を、王妃の部屋に移動させて、講義するところだ。
「この時代の王室には、3人の皇子と、もう一人王女が存在していました。この国の女性皇族は、不幸になると考えられ始めたのもこの時代からです」
「どうして・・・?」
「この時代の王の庶子は、地方で育てられ、地方の男爵家に嫁ぎましたが、ご子息を早くに亡くし、その後、内戦が起こり、庶民出身の国王が誕生しました。しかし、その庶民の王の娘さんも、女性のお孫さんも、また、早くに亡くしました」
「女性たちは、人生が短いの?」
「そうとも言えますが、人生が濃いとも言えます。とても賢い方が多く、この国を導いてくださっていると、わたくしは考えます。そして、わたくしは、この国の発展には、女性皇族が必ず必要だと言う論文も出しています」
一人の年取ったメイドは、咳をして、
「しかしながら、どの医者も、王妃のお腹のお子さまは、男児だと太鼓判を押しておられます。ご安心して、ご出産下さい」
「ええ・・・」
そのメイドが睨みを利かせたので、マリオ教授は、話題を変えて、その当時の、内戦について話始めた。
その内戦の話の中で、遂に、サルベーセンは、リリアールを見つけた。
「この方・・、随分、綺麗に肖像画が残っているのですね?」
「この方の肖像画は、多くの画家が描いていまして、どれも気に入らなかったらしく、市中に売られた物が多く存在していました。どれが本当の姿か、わかりませんが、どの絵も、このようなドレスを着用していました」
「この絵、売って下さる方は、いらっしゃいますか?」
「この絵は、わたくしが所有している物で、勿論、王妃様にお売りする事が出来ます」
その絵に描かれたリリアールは、本当に美しいリリアールで、サルベーセンは、涙が止まらなくなり、慌てたメイド長は、この講義を中止すると宣言して、マリオ教授に退出を促した。
部屋を追い出されるマリオ教授に、サルベーセンは、
「マリオ教授、ありがとうございました。わたくしが探していた物が見つかりました。本当に、ありがとう」
サルベーセンは、その絵を抱きながら、マリオ教授に頭を下げていた。




