リリアール
第64章
この世界に来てからは、知らない事ばかりで、少しズレているリリアールとは、仲のいい友だちだと、ずっと思っていた。彼女の願いは、サルベーセンの事ばかりで、自分の願いは、常に叶わない。
サルベーセンは、小さなマリヒューイを抱きしめ、泣いた。
「彼女は、王妃が、ご結婚して、幸せになったから、黄泉の国に行かれたのではありません」
「??????」
「わたくしが、新しいお仕事をお願いしました」
「どのような?」
「色々な国で、転生を繰り返す仕事です。その国を、そのまま残すか、消滅させるかを、判断します」
「それでは、リリアールは、わたくしのように転生するの?」
「はい、そうです。私もこれからずっと、その長い旅に出るでしょう。それは、死んでも必ず転生を繰り返すと言う、過酷な仕事です」
「それって、わたくしもそうなの?」
「いいえ、王妃は、すでに、本当に愛する人とめぐり会って、この世界で終わりです」
「リリアールは、もう、既に、どこかの世界に行ってしまったの?」
「リリアール様が、この仕事を受ける条件として、私に提示したのは、サルベーセンさんの近くにいたいので、今のこの世界で、最初は、転生させて欲しいとの事でした」
サルベーセンは、顔がクシャっとなって、神に祈るような笑顔になって、マリヒューイに抱きついた。
「それでは、人間の姿になって、もう一度、会えるのね?どこ、どこに行けば会えるの?」
「しかし、彼女は、もう一度、宰相の娘になって生まれたいと申していました」
「???宰相の娘って、今の宰相は、イカルノで、まだ、独身だけど?」
「この国とは、限りません。他の国もありますし、どこに産まれるか、それとも王妃のように、中身だけが、リリアール様と言う可能性もあります」
「それは、大変だわ・・、どこかの国に迷惑がかかる・・・」
「ーーーーーー」
「その采配の権利を、まだ、わたくしは与えられていません。だから、本当に、どの国に産まれてくるか楽しみに待っています」
「ただ・・・・」
「ただ?」
「最近、カオ国のヒロヒロ宰相のお顔を、拝見する事がなくなりました」
「ええ、それは、やはり・・・、内戦や災害で忙しいのではないでしょうか?」
「しかし、先程、兄上とサリーツー国王が、話されていたのですが、ヒロヒロ宰相の奥様は、ご出産間近で、国内が不安定なのを危惧していらして、奥様に付き添って居らっしゃると、申していました」
「ーーーーーー」
「彼なら・・、いいかな?多少迷惑をかけても、お互い様と言うか・・、ねぇ?人格者だし、なんとなく、いいような気がしてきました」
「・・・・・・」
結婚式が、無事に終わり、各国の国王たちとの面会が始まり、どの国の国王からも「お似合いのお二人です」と言われて、公国全体も、良い感じに落ち着き始めた。
1ケ月以上、忙しい日程をこなした国王と王妃は、やっと、二人で休暇を取る事が出来、ルイ陛下が、サルベーセンに、
「どこか、希望があれば、新婚旅行に行けるが、どこか行きたい場所はある?」と、聞いたので、
「実は、ありません。王宮の外に出なくて済むなら、このまま、ずっと、王宮に居たいと思うようになりました。快適です」
「イレブン・ヴィン領も王都の街も、今では遠い昔のようです。これで、面倒な夜会やお茶会が、なければもっといいです」
「それは、君が、引きこもっていた生活に戻るみたいだ」
「ええ、このような生活は、本来のわたくしの生活で、本当に、落ち着きます」
「・・・・・・」
「ですが、そうのんびりもしていられません。実際、わたくしには王妃としての教養が足りないと感じます。ルイ陛下、どうか、王宮内の図書館などの閲覧の許可を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
ルイ国王は、相変わらず忙しく、新婚のサルベーセンを気にしながらも、公務もたくさんこなしていた。
「そのような事・・、しかし、何か知りたい事があれば、マルセンやビンエムーに聞くといい」
「ありがとうございます。お手間は取らせません」
マリヒューイと話した後、概ね、ヒロヒロ宰相の所に、リリアールは転生してくると思っているが、他国や、イカルノの家系なども詳しく調べる必要があると、考えていた。
ルイ陛下に、やんわりと許可を頂いたので、次の日からは、エフピイの部隊も使い、それぞれの国の宰相を調べ始めた。
まずは、ヒロヒロ宰相について、調べ始め、その後は、リリアールの本来のルートを探る為に、この国の歴代宰相の文献を探し始めた。
王宮内では、王妃の事を理解している人間が多いが、どうしてこのように毎日、調べものをして、あるいは、王都の歴史学者を訪ねたりしている理由を知っている人間は、いない。
ある日、イカルノが、ルイ陛下に、
「陛下、王妃は、わたくしの家系を調べていると、噂になっていますが・・・、どのような理由でしょうか?」
「ああ、それは、私も聞いたが、どのような理由かは、教えてもらえなかった」
「エフピイの為ではないか?」
「王妃は、エフピイの婚約者の私に、不満でもあるのでしょうか?」
「イヤ、そうではないのだろうが・・、実は、彼女は、すべての国の宰相を調べていると、報告があった」
「すべての国ですか?」
「失礼ながら、何を考えているのですか?今、王宮内でもその話で持ち切りです」
「今晩、夕食の時にでも聞いてみるよ。すでに4ケ月、どこにも行かず、毎日、仕事のように図書館に籠っている。自由にさせてはいるが、さすがに噂になり始めて、各国からも問い合わせが、寄せられている」
「王妃の行動は、どの国も敏感ですから・・・」
その時、廊下を走る役人たちの靴音が聞こえ、ドアがノックされた。
「陛下、大変です。王妃が、図書室で、気を失って、倒れました」
ルイ陛下と、その場にいたイカルノ、ビンエムー、マルセンは、持っていた書類を投げ出し、王宮内にある病室に飛び込み、医師の診断を待った。
年を取った医師は、陛下に、
「おめでとうございます。王妃はご懐妊されました」と、告げた。
「おおおおおぉぉ・・、おめでとうございます」
病室内では、大きな声で、喜びを表せないが、4人は、抱き合い、周りのすべての人間たちも喜んでいた。
「それで、王妃の体調は?体調はどうだ?」
「はい、健康ですが、今後も、ずっと、本を読んだり、調べものをすることが長くなると、少し心配です」
「ああ、やめさせよう。エフピイ、今後は、気をつけてくれ。図書室は、当分の間、閉鎖する」
「はい」
サルベーセンは、いつの間にか、陛下と二人の寝室に寝かされ、目が覚めると、ルイ陛下の顔が見えた。
「わたくし、急に、目まいを起こして・・・、すいません、陛下にご心配をおかけしました」
「ずっと、真剣に下を向いていて、急に立ち上がって、貧血を起こしたようだ。心配しなくてもいいが、今後は、図書室の入室を禁止する」
「え??そんな、どうしてですか?」
「お腹に赤ちゃんがいて、君の体のすべてを欲しがっている。彼の為に、万全な体調にして欲しい」
「え!! わたくし、妊娠していつのですか?本当に?イヤ、嘘、本当?」
ルイ陛下は、壊れ物のを抱くように、サルベーセンを抱きしめ、
『本当だよ。どうやら、もうすぐ王太子が誕生する。嬉しいかい?』
『嬉しいです。こんなに早く・・・、わたくしが母親になれるなんて・・・嬉しくて、泣けてきます。わたくしに子供が、陛下の間に、ああ・・・、』
二人は、それから、喜びを嚙みしめ、多くの事を話し、生まれてくるだろう皇子について語り、今後の生活は、どんなに大切かを二人で確認したりして、ゆっくりイチャイチャしていた。
そして、再び、サルベーセンが、眠りに落ちる頃、ルイ陛下が、
「そう言えば、ヒロヒロ宰相の所には、ご息女さんが誕生したらしい」とサルベーセンに語った。
『え~~~~~!! 』