モール開店
第62章
ルイ国王陛下が、王都に戻った後も、サルベーセンは、じっと、イレブン・ヴィン領に留まり、カオ国からの発表を待った。
最近、リリアールとマリヒューイは、よく話す。
「リリアールさん、本当に、自由に、わたくしの所に良くいらっしゃいますね?」
「だって、サルベーセン以外、マリヒューイしか、話せる人がいないのよ」
「サルベーセンさん、どうですか?しかし、そのようなプロポーズを受けて、落ち込む人っていますか?」
「わたくしもそう思うのですが、サリーサリー王女とも仲良くしていて、それに、カオ国のメイドさん達とも、親密でしょう?」
「心配事がいっぱいみたいで、まったく元気がないの・・・・」
「カオ国は、これから、本当に正念場を迎えます。どちらにしても、兄上も、サリーサリー王女も、大変な時期を迎えるでしょう」
「そうなの?じゃあ、サルベーセンは、どうなるの?じっと、待つ以外はないの?この前の、薬局のオープンでさえ、ヒロヒロ宰相が、欠席したのは、やはり、国が燃え始めたの?」
「あのように国が、燃えて無くなるかも知れない時に、後継者争いで、内戦が起きています」
「カオ国の王室はバカなの?他国にも迷惑をかけるかも知れない災害時に、内戦って・・?」
「それ・・、サルベーセンには、絶対に言えない案件だね」
「もうすぐモールも開店する。だから、絶対に王都には戻らなくてはいけないのに・・」
「どうしよう。わたくし・・・、しばらく、マリヒューイの所に置いてくれる?」
「・・・・・・」
二人の心配事は、しばらくして、新聞に掲載された『カオ国、内戦』と言う見出しで・・・。
その内容は、カオ国を二分して、災害を食い止めようとする皇子と、今までのように、国民全員で、この未曽有の危機を乗り越えようとしている皇子との争いとなっていた。
その発端は、今まで、ベールに包まれていた第1皇子が、姿を現し、この国のすべての国民を救いたいと、宣言した為に起こった。
サルベーセンとリリアールは、その記事を見て、
「ルイ陛下のカオ国の発表って、この事なの?」
「いいえ、違うでしょう。婚約に関する内容でなくては、おかしいでしょう?ルイ陛下の言っていた事は、その・・あの・・・婚約解消とか?」
「でも、内戦で、サリーサリー王女は、今、本当に、心を痛めていると思う。そんな時に、婚約解消を、公王様から告げられたら、どうなってしまうの?」
「わかりません」
「わからないはずないでしょ! バカ、リリアール!! 」と言って、リリアールに向かってクッションを投げて、サルベーセンは、泣き出した。
(恋する女は、凶暴になっている。)
「とにかく、ここでは、情報が入って来るのが、遅いでしょ。それに、既に、モールの方も最後の仕上げが必要です。だから、早く、王都に向かいなさい!! 」
「ーー王都に行って、ルイ陛下から、サルベーセン、すまない、この前の話はなかった事にしてくれ。って、言われたらどうするの?ーーその後、絶対に、立ち直れないかも・・・・。エ~~~~ン!! 」
トントン、エフピイがノックする。
「サルベーセン様、イカルノ宰相より、お手紙が届きました」
サルベーセンとリリアールは、急いで手紙を開けてみる。
「内容は・・、ルイ国王が、カオ国に向けて出発したので、モールの件で、相談があるので、急いで、王都に来るように・・・。だって!! も~~~!! やさぐれてやる! 」
「ーーーーーー」
その夜、一晩、泣き、どうにかメンタルを取り戻したサルベーセンは、次の日、イレブン・ヴィン領を出発して、王都に向かう事にした。
「王都のお屋敷、どうなっているのでしょうかね」
「本当です。すっかり忘れていた。半分は、倉庫に貸し出してあるから、半分しか使えないけど、大丈夫かしら?」
「今、ある意味、あの屋敷に戻って、仕事に打ち込むのが、一番、わたくしらしいのかも・・・」
船に揺られ、気持ちの立て直しが出来たサルベーセンは、王都の港に着いた時に、イカルノ達の出迎えを受ける。
「イカルノ宰相、わざわざ、ありがとうございます」
「国王陛下より、サルベーセンさんをサポートするように言われています。何か、困った時は、どうぞ、おっしゃって下さい」
サルベーセンは、イカルノの顔を見て、ピカピカのエフピイを、見て、また、落ち込んで行ったが、
「ええ、とにかく、屋敷に戻ってみましょう」
港から、王宮の前を通って、馬車に揺れ、小窓から見え始めたモールは、予想以上の建物になっていた。
「本当に、想像の上を彼らはいきますね。これは、すごいです。中庭もあって、木も植わっていて、ベンチもあります。外の外装は、ヴィン家と同じ外装と一緒に塗り直して、ここから見ても、一体感があります」
「もしかして、屋敷とモールは、繋がっているのですか?」
「はい、1階の一部は、品物の保管場所になっていますが、2階は、会議室と研究室、それに教室も作ってあります」
「後、裏の公園の一部を、馬車を止める場所として、共有しました。全面は、入り口だけを作り、ヴィン邸にも光が入るようにしてあります」
「このように素晴らしい設計は、誰がしたのですか?」
「コウシャです」
「え?あのコウシャですか?」
「コウシャが、ベーグン領に飛ばされる前に、設計図が出来上がっていて助かりました」
「本当だね。だから、イレブン・ヴィン領の薬局や病院も、あんなに素晴らしい建物が出来上がったんだ。コウシャが大工達に、色々、助言してくれたんだね」
「コウシャに恩返しする為にも、頑張って、搬入して行かなくてはネ!」
サルベーセンの到着後、各国から担当者がやって来て、品物の搬入が始まり、話題は、当然だが、フロアーの確保になる。
「初めての事で、最初は、お客様にわかりやすいように、公国の位置通りで、どうでしょうか?」
「それでは、この国が中心になりますが、入り口の方が売れる場合もあり、奥、通り道が売れる場合もあります。わたくしは、キルトと携帯のストーブを今回、売って行く予定ですが、後は、病院内の部屋を再現して、色々な物をディスプレイして行きます」
「それは、どういう事でしょうか?」
「ここに置かれる商品は、この国の人達にとっては、見慣れない商品ばかりです。どのように生活に取り組んでいくのかが、わかる事が、大切だと思います」
「だから、病院内のような部屋を作り、色々な品物を生活の中に取り入れて見せます。例えば、シーツなどは、どの国も作っていますよね。そのように多種類の物は、真ん中にあるこの国のスペースでもいいと、考えます。このモールは、文化交流も兼ねていいと考えています」
その後、1ケ月以上、揉めに揉めて、話し合いを重ね、どうにか、オープンの日を迎える時には、ルイ国王陛下の事は、すっかり忘れて、泥のように眠る日常を送っていた。
しかし、華々しくモールが開店して、王都の誰もが憧れるデパートの記念式典に、一緒に喜んでくれるルイ陛下がいない寂しさに、気づき、嬉しいのに、頬に涙が流れた。
王都の街中が活気にあふれ、多くの人々が、モールの外にも並び、店内の商品は飛ぶように売れて、各国の大使、関係者たちは、笑いが止まらない様子で、サルベーセンに誰もが話しかけるが、サルベーセンの心は、ここにはない・・・。
リリアールが、見かねて、
「サルベーセン、大丈夫?疲れている?」
「うん、私、自分が思っている以上に、彼の事が好きだったんだ。でも、今、カオ国にいるんだよね。一緒に、モールの開店を祝いたかった。ただ、それだけ・・・」
リリアールは、ぐずれ落ちそうなサルベーセンを、抱きしめたが、サルベーセンの体は、リリアールの伸ばした腕の中からスルリと落ちて行く。
「サルベーセン、泣かないで・・・。お願い・・・」
「だって・・、明日は、陛下の誕生日・・・・。その日・・・、」