突然のプロポーズ
第61章
サルベーセンが、静養している間に、大使たちとすっかり打ち解けていたルイ陛下は、サルベーセンが、会議に復帰する事を歓迎した。
「皆様、たくさんのお見舞い、本当にありがとうございました。やっと、歩ける許可が出ましたので、お仲間に入れて頂きたく参上しました」
「この数日間、イレブン・ヴィン領を見学させてもらった。そして、君が作る病院と言う建物についても彼らに話した。そこで、疑問だが、なぜ、あのようなシンプルな部屋にするのか?」
「それは、衛生面を考えて、洗濯ものを減らす為です。エフピイたちの宿舎は、わたくしの予想以上の出来上がりで、結果的に、大変、良かったと思っています」
「病院と宿屋は、多くの女性たちに雇用を生みますが、あまり仕事が大変ですと、彼女たちも辛いでしょう。それなら、簡単な、部屋と、シーツ、枕カバーなどにしておけば、コストもかかりません」
「そして、あらゆる備品などは、清潔な物を揃えたいので、金属製の物、ガラス製品や焼き物などを、取り入れたいと考えていまして、そのような商品が、モールにも並ぶ事を希望しています」
「モールに並んだ商品は、あの病院に使うのか?」
「そうです。そのように思っています。多くの国の商人が目にする宿屋に、シンプルでいい商品を使用したいと考えます」
「う~~~~ん」
「それから、次の課題は、やはり、トロッコの事だが・・・」
「トロッコの件は、私も改善案がありまして・・・」
その後、昼食は、簡単に済ませたが、夕食は、豪華な宮廷料理が、新築の屋敷の食堂に並び、目を見張ってサルベーセンは、食事をしている。
リリアールが、
「ここまで、凄いと、本当に王室って、力がある事がわかるよね」
「今まで、ご馳走していた食事は、申し訳ないかも・・」
「あれは、あれで、皆さん満足していました。大丈夫よ・・・・、多分・・」
食事中、一人の大使は、
「しかし、我々が去って、日も経たないうちに、このように変わるのですね・・・、驚きました」
「ええ、わたくしも、ケガをしてから、この屋敷一帯の変化に驚いています」
「おおおおぉぉ・・」誰もが、国王陛下を見て、この国の凄さを実感してのだろう。
本当に、国王が本気を出せば、こうも事が進むのかと思われる程に、工事は進み、サルベーセンが、普通に歩けるようになった時には、薬局のオープンが決まった。
「明日、本当に、薬局がオープンするのですね」
「ああ、病院の宿屋は、既に、数日前から始まっている」
「長老たち、マリヒューイ、ケンティも今日の夜は、宿屋に、泊まっていますね」
「そして、各国から、大勢の役人が押しかけているようで、あれから、エフピイたちに会った事がありませんが、彼女たちは、大丈夫でしょうか?忙しすぎませんか?」
「王宮からメイド達も手伝いに来ていて、エフピイたちを手伝っている。大丈夫だろう」
ルイ陛下は、サルベーセンと静かに食事をして、サルベーセンを誘う。
「夕食の後に、散歩に行かないか?」
『え?』
ルイ陛下に誘われた散歩は、庭園から泉まで、新しく出来た小道を歩いて行く。小道の両サイドは、きっと、何かの花が咲く植木で、新しい小道は、色々なレンガが引いてあり、足元の所々に、無数のキャンドルが置いてある。
心の中は、すごい、すごいの連続で、泉の周りもロマンチックな白い柵、すべて白い彫刻品で飾られ、ベンチも、バーコラも、すべて白、そして、もっと泉に近づくと、
(あ~~~何、これ・・、一面のホタル! 陛下・・、凄く、綺麗です。)と心で思った。
たくさんのホタルを見た時には、言葉が出ずに、涙が流れた。月も美しく、ゆらゆらと泉に映し出され、その周りをホタルが舞い、時には、葉っぱの上で休んでいて、今まで生きてきた中で、一番、幻想的な世界がそこには広がっていた。
「ルイ国王陛下・・・」
「ああ、美しい、気に入った?」
「・・・・・・」
「でも、わたくし・・・、このような・・、受け取れません」
「フフフ、しかし、今更、回収できないから・・・。このまま、受け取って欲しい」
ルイ国王陛下は、ゆっくりサルベーセンを抱きしめ、髪にキスをする。そして、抱きしめたまま、
「もうすぐ、カオ国の国王について、発表がある。一番、確かな事は、サリーサリー王女は、我が国に、嫁ぐことはない」
サルベーセンは、すごし離れて、ルイ陛下の顔を見る。
「でも、お二人は、愛し合っていたのでは?」
「そのことについても、その発表で、わかると思う。私が、今、心に留めている女性は、サルベーセン・ヴィン、君だよ。この気持ちは、何度も、心の中で否定してきたが、今回の君のケガで、はっきりした」
「だから、僕の元に、嫁いでくれないか?」
「え??」
「わたくしなんか・・、ふさわしくないです。このような豪華な生活を知りませんし、教養もありません。今回、本当に、王室の凄さを実感して、ふさわしく・・・・」
ルイ陛下は、サルベーセンの口を塞いて、優しく話す。
「初めて君に出会った頃は、ご両親に代わり、君の縁談を用意するつもりだった。しかし、君は自分以上にお金を持っている男性は、この国には少ない言い、それに、もう騙されたくないと・・、その時は、笑って流せたが、一人になり、良く考えたら、そうだ、その条件では僕以外はいない・・とね」
「僕は、君を愛し、誠実で、君を理解して、お金もたくさん持っている」
「そして、僕も君以外には考えられない。利発で、誰からも好かれ、国民の為に働き、顔が見えないと寂しいと思ってしまい、ケガをしたと聞いた時は、心が潰れそうだった。サルベーセン嬢、僕は、本当に、君がすきだ。愛している」
「陛下・・、」
「返事は、今年の僕の誕生日パーティーまで待とう。それまで考えてくれ」
その後、二人は手を繋いて、椅子に座り、寄り添い、しばらくホタルが舞っているのを見ていた。
二人の後ろで、リリアールは涙を泣かして、「おめでとう! サルベーセン! 」と何度も言っていた。
次の日の朝、花火が上がり、久しぶりにテン・ヴィンの町に現われたサルベーセンを見た、民衆は、感激して、手を振り、拍手しながらサルベーセンを迎えた。
「随分、心配かけたみたいで、恥ずかしい・・」
エフピイは、今日、サルベーセンの護衛に復帰し、
「そうです。領民全員が、とても心配していました。何度も、役所に様子を訪ねに来る人も、大勢いました」
「本当?」
「本当です。サルベーセン様に何かあったら、本当に生きて行けないと、泣いていたご老人もいました。だから、お願いです。今後は、必ず、私に、護衛を担当させてください」
「はい、お願いします。心配かけて、ごめんね」
数年前は、誰が思っただろう。北に位置した田舎の港町、今まで、このようなお祭りを経験したことがない。しかし、本日、王都のお店にも負けない大型の薬局が、ここにオープンする。
そして、テープカットをするのは、この国の国王と、女性の領主、そして、各国の代表が並び、一斉にハサミをいれた。
その瞬間、花火が再び上がり、大きな歓声と共に紙吹雪も舞い上がった。
その後は、長老たちが、一つ一つ説明をしてくれたり、ケンティも接客に参加していた。
サルベーセンは、出来上がった病院兼宿屋を、初めて視察して、ここでも王宮のメイド達の質の高さを実感する。
いつも、領土で見かける女性たちが、髪を束ね、制服をきちんと着て、忙しそうに働いていた。
病院は、領土内の医師が診察をしてくれていて、サルベーセンを見かけると、深く頭を下げた。
「彼、どうしたの?」とエフピイに聞くと、
「どうやら、長老たちに、随分、しごかれたらしく、一から勉強しなおして、やっと、この職を得たみたいです」
「それって、前は、ヤブ医者だったって、こと?」
「さぁ、わかりません」
この日、ルイ陛下は、王都に戻った。「サルベーセン、君を、王都で待っている」




