サルベーセン・ヴィン邸
第60章
ルイ国王陛下は、屋上から見たトロッコの道をたどり、サルベーセンの屋敷に向かって行く。
「サルベーセンさん、国王陛下が到着されました。起き上がりますか?」
「ええ、仕方がないです。起き上がりましょう。はぁ~~~~」
ドアがノックされ、久しぶりに会うルイ陛下は、相変わらず背が高くて、スマートなイケメンで、誰よりも存在感がある人物だった。
「久しぶり、今回は、大変な思いをしましたね。体調はどうでしょうか?」
「ありがとうございます。王都からわざわざお出で下さり、光栄です」
「うん、心配しました」
国王陛下の予想外の言葉に、サルベーセンは、戸惑い、困惑していた。
「あの~~~?」
「ふっ、そこで、国王命令だ。今後、サルベーセン嬢は、トロッコに乗る事を禁じる」
「え!!! 折角、作ったのに・・・、どうしてですか?」
「君が、暗殺されそうになった場合のコストを、計算して欲しい。得意だろう?まず、一斉に、港も町も、村も閉鎖され、諸外国も調べあげて、リカの国にも迷惑がかかる。今回、犯人は、ベーグン領の人間だった為に、ベーグン領の労働者は、出稼ぎ禁止になり、コウシャは領主を代行する事になった」
「それに・・・、エフピイたちは、今回も、減給され、その為に、イカルノも一緒にやって来て、国内の情勢も不安定にさせた」
「・・・・・・」
「ーーそれは・・・、まぁ、禁止ですよね・・?」
「エフピイたちには、今回、おとがめはないが、絶対に、一人で町に向かう事はしないで欲しい」
「でも・・、トロッコは?どうなりますか?」
「もう少し大きくして、荷物を運んだり、子供達を乗せてやるのもいいだろう?」
「しかし、それでは、帰りの馬車には乗れません」
「そうか・・・一方通行なのか・・・、では、薬局が完成するまで、ここに滞在して、そのことについて考えよう」
「●▼※◎§・・・どうして?」
「王宮は、例年、夏休み休暇を設ける。それは、当然、皇族にも適用され、避暑に出る事も許される。そして、丁度、その時期が始まる」
「ここ、何年も、そのような事がありましたか?」
「貴族ならば、当然、そのように生活していたのだろう。実際、この屋敷は、休暇用の家だったのでは?」
リリアールを見ると、頷いた。
「しかし・・・」
「2、3日後には、港が開き、各国の大使たちもお見舞いに訪れ、色々な話し合いが持たれるだろう?今回、イカルノは、王都に戻る、コウシャは、隣の領土の仕事が増え、君は、負傷している」
「それなら、私が、薬局が回転するまで、ここに滞在しよう」
「・・・・・・」サルベーセンは、反対する言葉を失っていた。
その後、ルイ陛下は、湿布を変えに部屋にやって来ケンティと一緒に、新しくなったヴィン邸の周辺を、案内してもらい、リカの国に戻るマリヒューイ達を見送り、久しぶりのいつもの部屋での滞在が始まった。
「おかしなもので、この小さな部屋が落ち着く。ふふふ・・、本当に、どうかしいる・・」
王族の避暑地移動とは、大掛かりなもので、王都から続々と使用人やら荷物やらが、サルベーセンの新しい屋敷に運び込まれ、執事のような男性に、
「この屋敷は、もう少し、どうにかなりませんか?」などと、失礼な言われ方もした。
ケンティが、気を利かせて、
「大工達に頼むと、どうにでもなりますよ」と教えていた。
今回、国王陛下が連れて来た使用人の数が多く、エフピイの部隊は、青い屋根の村に、移動になり、彼女たちの宿舎とケンティの家は、訪問が予定されている大使たちの為に明け渡さされ、元の家には、下働きの使用人、新しい屋敷にも、数名の使用人とケンティの滞在が決まった。
「ケンティは、いつまで居られるの?」
「先生の足が、良くなるまでですかね?それに、一人で戻る事は、出来ないので・・」
「そうだよね。マリヒューイが、迎えに来てくれないとね」
「それでは、薬局の開店までは、大丈夫だね。安心、安心」
「先生、何が安心なのですか?」
「色々よ、一人では買い物にもいけないでしょう?自分を助けてくれる人は、誰もいなくて、全部、陛下の使用人達に囲まれているのよ」
「なんだか・・、自分の家なのに・・、落ち着かない」
「皆さん、優しい方ばかりで大丈夫ですよ。僕も王宮でお世話になった事があります」
「そうか・・、ケンティって、子供なのに、色々な所で生活していてスゴイね」
「でも、勉強だと思うと恵まれています。今回も長老たちが残して下さったあの小屋に、たくさんの薬草があって。上手く調合できれば、早く、先生の足も治せます」
「あっ! ケンティ、そこは、急いでないの・・・、大丈夫、リカの国の湿布でいいです」
「・・・・・・」
「ケンティを信用していないのでは無くて、これから大変だから、しばらく、不自由な生活を楽しみます。ごめんね」
「先生・・・」
ルイ国王陛下の予想通りに、各国の大使たちは、港が開くと、続々とお見舞いに駆け付けた。
「きっと、疑われて、頭が燃えるのが、嫌なのね」と、リリアールは分析していた。
彼らも国を代表する大使だけあって、サルベーセンの屋敷に、国王陛下が滞在していても、特別、驚く事もせずに、外交的な話をして、今後の薬局とモールの話し合いにもスムーズに移行できた。
夏休みと言う解放感もあるのだろうが、一緒に、イレブン・ヴィン領を見て回り、この領土の素晴らしい所も、共感したりしていた。
サルベーセンの足は、良くなり、久しぶりに部屋からでて、びっくりした。
「リリアールが話していたけど、いやいや、このフカフカのジュータン、どうしたの?それに、この豪華な置物、それに、至る所に花、花、花、市場の花だよね?だから、家の中が、いい香り~~」
「当たり前でしょ、サルベーセンが、その辺から抜いて来る雑草ではないのよ。まぁ、室内は、王都の屋敷の事もあって、予想で来たでしょうけど。庭は、もっとすごいわよ」
「我が家に庭なんてあったかしら?」
「クッキー工場が麦畑の方に移設されて、あそこがあのままだったから、壊して、庭園に変化している。併設された、薬小屋まで美しくなって、庭と一体化しているよ。早く、見に行きましょう」
サルベーセンが、足を引き摺りながら、その庭に出てみるとまるで別世界。
(すごい、誰がこんなすごく変身させたの?)
「スゴイ・・・・スゴイの言葉しか出て来ない」
ルイ陛下の執事がやって来て、「ご覧になって、どうですか?」
「スゴイです。庭の知識は、皆無で、どうにもなりませんでした」
「陛下は、こちらのお宅には、たくさんの要人の方がいらっしゃるのに、くつろげるお庭がない事を大変、気にしていましたので、誠に勝手ながら、今回、大勢の庭師を連れて来て、造園させて頂きました」
「ーーー、これは、皇族の力を見せて頂きました。本当に、庭園は、思いつきませんでした。ここから、泉の方まで、道が続いているのですか?」
「はい、あちらは、国王陛下が、後で、連れて行って下さると思います」
「そうなのですか?」
ケンティは、汗をかきながら、サルベーセンを探し出し、
「先生、陛下が起き上がったなら、会議に参加して欲しいと、呼んでいます」
「ケンティ、ケンティのあの薬小屋、いつあんなに素敵になったの?
「僕もびっくりです。小屋の隣に温室も作って下さっていて、また、長老たちが、ここで研究して、帰らなそうです」
「あら、それは、いいわね。さぁ、行きましょう」