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この冬だけは、家族

第6章

 「評判とやらを取り戻します」


 その場の人間は、無口になり、ルイ王太子の従者のビンエムーは、サロンから木製のパーテーションを運び、一時的に、浴槽を隠した。


 「先生、ありがとうございます」


 「ケンティ、お母さんの入浴を手伝ったら、あなたも温まりなさい。石鹸とシャンプーも使っても構いません」


 「はい、ありがとうございます」


 それから、ベット下の収納からタオルと着替えを出し、二人に渡した。


 「この部屋は、暖かいだけではなく・・・。なんと言うか、変わった部屋だ」


 「ええ、市中暮らしの初心者でも暮らして行ける様に、工夫しました」


 ポカポカになったケンティが、サルベーセンの上下スエットを着て出て来た。


 「この家の事は、町でも話題でして、僕も良くこの不思議な厨房の事を聞かれます」


 「先生、お湯が・・・・、」


 「排水して、洗って下さる?」


 「お母さんが服を洗濯してもよろしいか?聞いてくれって言うので・・・」


 「いいわよ、いいわよ。洗濯して、パンドリーの向こうの干場に干して下さい。昨日のマリヒューイの服もかかっているけど、そのように、お母さんに話して来て下さい」


 「はい、ありがとうございます」


 「サルベーセン、浴槽は、ここにしかないのか?」


 「いえ、客間にも従来型のものでしたらございますが、誰が、お湯を運ぶのでしょうか?」


 「・・・・・・」


 「そう考えると、このアイデアは、素晴らしい物だ」


 「僕もそう思います。町の人達も、みんなが羨ましいって、話していました」


 「本当?」


 「本当です。・・あの、先生、水は入れますか?」


 「終わって、浴槽がきれいになったら、水を入れて下さい」


 「ケンティ、お母さんと一緒に食事にして、カボチャのシチュウが残っているから・・・・」


 「私も風呂に入りたい」


 「・・・・・・」


 「着替えはお持ちですか?」


 「そのボロでも大丈夫だ」


 「ボロ・・・!!! 」


 「これはボロではありません。作業着兼、部屋着です」


 見渡すと、この部屋には、スエット着用が4人、貴族の服装が5人、現代だとコスプレ5人と幽霊1人だが、そんなことは言えない。


 ケンティが、「僕が町まで行きましょうか?」


 「駄目よ。雪で滑る。きっと今日の夕方からまた降るような空模様をしているし、危険だわ」


 「馬を出しましょう。日用品と食料などを調達して参ります」


 「そうだな、あの台車を馬に引かせよう」


 「え!! あの台車を・・・高貴な馬が・・・・」とリリアールは、呟く。


 サルベーセンは、振り向き、「何か、文句あるの?」


 台車も大工さんに工夫してもらい木の車輪は、馬車と同じゴム製に換えた。ケイティでも引けるように、軽量化も図り、荷台にも椅子にもなる箱をつけ、荷崩れ防止等の仕切りもつけた。


 「馬に引かせて、台車は大丈夫でしょうか?わたし、あれが無いと生きて行けません!! 」


 今では、あの台車の事を、前世の軽自動車の様に大切にしているのに・・・・。


 「大丈夫だ。馬の事はコウシャが詳しい。安心しろ! 」


 (イエ、イエ、心配しているのは、馬ではなく、手押しの愛車のほうですが・・・。)


 それから、従者2人とケンティは、市場に出かけて行った。


 王太子は、「昼食の前に、風呂に入りたい」と、ぬかした。


 「お風呂が沸きましたら、お呼びいたします」と、2階に上がるように催促したが、気づかない振りをされ、その辺にあった本を読み、ケンティのお母さん(マルク)にお茶をいれさせて、サルベーセンには、茶菓子を催促する視線を送っていた。


 「この野郎!!覚えておけ~~~!! 」


 部屋に居てもムカつくので、作業着に着替えて、外の畑や家の状況を見てみる事にした。


 「ああぁぁ・・遂に、私の野菜たちも雪下野菜になるのだ。嬉しい。このまま雪が降る季節がつづけば、冬の間の野菜は確保できた。・・しかし、あいつら、どの位、いるのかしら?」


 「野菜が雪にうまってしまったな?掘り起こすのか?」と、突然、後ろから王太子が話しかける。


 「まさか、このまま雪の下で作物を保管します。上手く行けば来年の春までは、野菜には困らないでしょう。雪の多い事で不便も有りますが、上手に暮らせば、有難い事に、孤独も楽しめます」


 「ーーーううん(咳)、この町に来るまでは、知らなことばかりでしたが、貴族も平民も、共に生きる為に知恵を出し合えば、もっと、この国は良くなる事が多いと感じています」


 「ああ、私もそう思うよ。共に暮らす人間だ。互いに理解が必要で、助けも必要だ。所で、イカルノが屋根に登って、パネルを見てくれるそうだ。昨日、部屋の電気が点かなかった。雪が原因か?」


 「電気はあの部屋しか引いていません。私一人の生活ですから、それから、客室の暖炉を使用するには、煙突の掃除が必要だと、大工さん達が言っていました」


 その後、王太子は、屋根にいるイカルノとマルセンに煙突の掃除を命じた。


 お昼は、ケンティのお母さんのマルクが支度をしてくれていて、マリヒューイの着替えや髪を整える事もしてくれていた。


 「あら、可愛い、マリヒューイのドレスとその髪型が、とても似合うわよ」


 「ありがとうございます」


 「先生、頼まれていた野菜を煮ておきました」


 「ありがとう。では、味をつけて行きます。昼食が済んだら、部屋に案内しますので、少し休んで下さい。大丈夫です。その内、ケンティたちも帰って来ます」


 「ありがとうございます。その代わり、彼らの事は他言無用で、お願いします」


 「勿論です。同じ家に置いて頂けるだけで、名誉です」


 お昼は、カレー風煮物と、常備野菜にしているさっぱりした漬物を出した。皆は文句も言わないで、食べていたが、マリヒューイは、「美味しいです」と言ってくれた。


 「庶民は、このような物を食べているのか?」

 「わかりませんが、適当に作ってみたら美味しかったので、良く作って食べます」


 「お茶を・・・」


 マルクは立ち上がり、お茶の用意を始めたが、

 「ルイ様、彼女は虚弱で、おまけに使用人ではありません」


 「そうか、では、使用人として雇う事はどうだろうか?」


 マルクは、直ちに床に膝をついて、お願いした。


 「・・・・お願いします。確かに健康ではありません。しかし、食事を作ったり、お茶を入れる事は出来ます。少しでもお給金をいただけたのなら、子供を学校に通わす事が出来ます」


 「学校に通う事は、国はお金をとっていないはずだが?」


 「学校に無料で通えても、ケンティが働かないと生活が出来ないと言う事です。その辺の法整備を国が行ってくだされば、ケンティも私の所に荷物を届けながら、勉強に来なくてもいいのです」


 「君が彼に勉強を教えているのか?」


 「う~~~と、今は、互いに教え合っている感じです。私は色々な事を知らなかったし、ケンティは、今では、字も少し読める様になったので、計算とかこの国について勉強する事が多いです」


 「教会で行っている教室制度は、本当に素晴らしいと思います。必要な人間に、必要な知識を教える事が、大切だとわかります。私も、お金の価値も知らない人間でした。反省が多い毎日です」


 「うん、私も知らない事ばかりだ。国民の中には、まだまだ、困っている人は多い・・、残念だよ」


 食事の後、マルクには本当に休んでもらう為に、暖炉の火を起こし、2階の環境整備に取り掛かった。マルク親子には、当面、サルベーセンの部屋を使用してもらおう。


 いつかは、又、リリアールと二人の生活に戻る。それまでは、大家族が出来たと思って、楽しもう。困ったときは、助け合う。それでいいと思っていた時に、コウシャは、沢山の荷物と一緒に戻って来た。


 「どうしたの、この荷物・・・・?」


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