イレブン・ヴィン領
第58章
王宮のルイ陛下は、マリヒューイからの手紙を、既に、受け取っていて、サルベーセンが、リカの国で、療養しているのを知っていたが、イカルノと話し合い。すぐに、イレブン・ヴィン領に向かった。
「コウシャからは、何か言って来たか?」
「いいえ、まだ、きっと、今、イレブン・ヴィン領も大騒ぎでしょう。領主が行方不明です。しかし、サルベーセンさんの危機をマリヒューイ様は、どうやって気づいたのでしょうか?」
「ーーーーーー」
「とにかく、急ごう。そのトロッコと言う物も見てみたい。手紙だけでは、さっぱり、わからない」
王宮の仕事は、本来なら、イカルノが引き受けるべきだが、ルイ陛下は気を利かせて、ビンエムーに頼み、密かに、王宮を出発して行った。
二人の男は、、真剣な顔で、馬を走らせ、誰よりも早く、北に位置するイレブン・ヴィン領に到着したいと、願った。
「サルベーセン・・・」
サルベーセンは、眠り続け、リリアールとマリヒューイ、ケンティは、心配そうに、ずっと寄り添っている。
「マリヒューイ、先生は、大丈夫だよね?本当に、足の捻挫だけだよね?」
「長老たちは、サルベーセンさんの激務をご存じだから、少し、静養するようにと、眠らせているらしいわ・・・」
「うん・・・・」
ケンティは、父親を失い、母親も旅立ち、実の両親のように可愛がって、育ててくれているサルベーセンの事を、物凄く心配して、震える手をしっかり握っている様子で、気持ちがわかる。
リリアールは、ぐっすり眠るサルベーセンに、
「サルベーセン、もう、絶対にトロッコには乗らないで、あなたがケガすると、周りが大変です」
マリヒューイは、リリアールにそっと、呟く。
「兄上は、イレブン・ヴィン領に向かいました」
リリアールは、びっくりした顔で、
「〇▼※、、◇※●・・・・、どうして???」
「・・・・・・」
ケンティの祈りが効いたのか、サルベーセンは、意識を戻し、
「ケンティ・・、頭が痛い・・・」
「先生、大丈夫です。今、長老を呼んできます」と、言って、一目散に走り、部屋を出て行った。
「私、どうしたのかしら?転んだ?」
「トロッコの車輪が、いきなり外れて、投げ出されたのよ」
「リリアールさんが、わたくしの所に来てくださり、直ぐに、リカの国へ連れてきました」
「そんなことが・・、二人ともありがとう」
ケンティと一緒にやって来た長老たちに、診察してもらい、また、サルベーセンは、眠った。
次の日の朝、お腹が空いて、目覚め、サルベーセンのベットの近くには、ケンティが伏せたまま、付き添って居た。
「ケンティ、ケンティ、お腹が空いたわ、後、お水をもらって来てくれる?」
ケンティは、飛び起きて、
「先生、もう大丈夫ですか?頭の痛みとか?」
「大丈夫、足は痛いですけど、ケンティ、ずっと、側にいてくれたの?」
「はい、僕が、ずっと側に居れば、先生は、ケガしなかったのに、すいません」
「それは、まったく、違います。ケンティも知っているように、わたくしの好奇心がトロッコを造らせたのです。ケンティは、立派な薬師になってくれればいいの。大丈夫、しばらくは、屋敷にいるわ・・」
「心配かけました」
「先生、お食事です」とマリヒューイと、一緒にリリアールもやって来た。
「たくさん召し上がって下さい」
「ああ、嬉しい、昨日から何も食べていないから、本当にお腹が空きました」
サルベーセンは、お茶をガバガバ飲んで、食事も、もりもり食べ終わると、マリヒューイが、
「先生、今、イレブン・ヴィン領は、大変な事になっていますよ」
「そ!! そうよ。ここに来ている事を知らせないと・・、て、手紙をかくわ・・・」
「手紙ではなく、食後に診察を受けて、早めに戻った方がよろしいかと思います」
「ーーーそうだよね」
「王都から、ルイ陛下とイカルノ宰相が、出発したと報告がありました」
「どうして、どうして、そのように大袈裟に・・?」
その場の人達は、どう説明していいのか、言葉も見つからず、大急ぎで、支度をして、出発の準備を始めた、長老は、シップ薬の効能や、色々な薬の説明を、何度もケンティにして、ケンティも、真剣に聞き、フカフカの布団を引き締めた馬車で、リカの国の人々と一緒に、イレブン・ヴィン領に、出発した。
今回、2頭馬車を引くのは、リカの国のエリート軍人で、ケンティは、サルベーセンと一緒に、フカフカの馬車に乗り、二人でぐっすり眠りながら、薬師の役目を果たす事を考えていた。
「ケンティ・・、眠っていなかったから・・・、ぐっすりだわ・・・」とリリアールは笑って見ていた。
リカの国の王族が乗る馬車は、ゆっくりと、橋を渡り、イレブン・ヴィン領に入った。すでに、ジンの部下とエフピイの部下が、到着して待っていて、マリヒューイの馬車に挨拶をして、
「サルベーセンさんは、後ろの馬車で、お休み中です。痛み止めには、眠くなる薬を使用しているようで、静かにお願いします・・」
それでも、エフピイは、安心する為に、そっと、後ろの豪華な馬車を覗くと、ケンティと二人で、眠っているサルベーセンを確認して、安心する。
その日の、夜遅くに到着して、エフピイは、サルベーセンに抱きつき、涙を流しながら心配した事を何度も伝えた。
「ごめんなさい。連絡する方法がなくて、マリヒューイもすごく慌てたらしく、本当にごめんなさい」
翌朝、ケンティが食事と薬を運んできて、サルベーセンは、食事を取る前に、足のシップをケンティが取り替えてくれた。
「ケンティ、このシップ、冷たくて、香りも良く、本当に効きそうよね?」
「はい、この薬草は、実は、先生の泉の近くに生えています。長老が、この前、滞在した時に発見して、僕に作り方を教えてくださいました」
「そうなの?スゴイ、そんな草、生えていたんだ!」
「先生、僕は、医者になりたいです。長老のように、病気やケガも直せる医者になりたいと思いました」
「どうして?」
「もう、誰も失いたくありません」
「ケンティ、大丈夫よ。わたくしは不死身です」
「マリヒューイは?」
「港に、国王陛下をお迎えに向かわれました」
「!!! ケンティ、胃が・・胃が痛い、わたくしを面会謝絶なケガ人に変えて! お願いします」
「先生・・・・」
ルイ国王陛下が、即位して初めての外出は、イレブン・ヴィン領となった。と、朝の新聞には一面に掲載され、イレブン・ヴィン領には、激震が走る。
エフピイの部隊は、国境に、2人程派遣しているので、8名、ジンは、港へ向かいにいきたかったが、軍関係者に押さえられ、震えながら到着を待つ、役場の人間は、既に、呼吸が止まっているような顔をしながら、最後尾に並んでひたすら、国王の船が到着するのを待っていた。
船が港に着岸して、国王陛下が、降りて、直ぐに、エフピイの部隊は、膝をつき頭を下げる。
その姿に国民たちも、息を飲みながら、様子を伺っている。
ルイ陛下は、何も言わずに、馬車に乗り、役場に向かった。
「どういう事だ?」
エフピイは、答える。
「はい、サルベーセン様が乗ったトロッコの車輪が、壊れる様に細工がありました。それが原因で、サルベーセンは、投げ出され、ケガを負ったようです」
マリヒューイは、こんなに怒っているルイ陛下を見たことがないと、思っている。
「サルベーセンさんは、今は、ご自分のお屋敷でお休みなっていますが、ケガもケンティが治せる捻挫で、しかし、頭を打っているので、痛み止めの薬の為、寝ている事が多いです」
「ーーーそれで、犯人は?」
軍部の代表が、苦しい顔で、報告する。
「ご報告します。全領民の聞き取り調査の結果、犯人は、ベーグン領の出稼ぎ労働者と言う事がわかり、既に発見、拘束した有ります」
「他国の可能性は、本当にないのか?」
「はい、サルベーセン領主が、行方不明になってから、すべての道、港、商店、市場、役場等を閉鎖して、軍部総出で、身元確認を行いました」
「しかし、現在でも、その封鎖を解いていません」
イカルノが、
「しかし、どうして、ベーグン領の労働者が、サルベーセンの命を狙う?誰かの差し金の追及はしたのか?」
「はい、前領主の遠縁にあたる人間より、そそのかされたようです」
「すでに、関係者一同を拘束し、取り調べは終わっています」




