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道クリ始める。②

第57章

 今度のサルベーセンの計画は、壮大で、多くの人間を動かした。


 「本当に、そのような物に乗って、町まで出かけたいのですか?わたくし達が、馬車で、必ずお送りします」


 エフピイたちは、何度もサルベーセンを説得するが、サルベーセンは、どうしても歩道を造りたい。


 先に、職人たちにセメントの説明をして、型どりや、平らにする技術も教えて、固まると柵は、固定出来ないので、泉の周りで練習させ、ついでに泉の周りも整えた。


 「これで、心配なく、夏は泳げるね」


 リリアールが、

 「あなた・・、まだ、この泉に入るつもりなの?」


 「ええ、夏の暑い日は、ここが最高なのよ。日陰もあって、柵も出来上がって、板も引いて、椅子やテーブルも完備しましょう。ただ・・、虫がね。天敵を駆除しなければ・・・。長老たちに相談したら、どうにかなるかしら?」


 「サルベーセン様、コウシャ様が、いらっしゃいました」


 「ここにお通しして下さい」


 「サルベーセンさん、今回、歩道を担当するサチスタ・ロコンです」


 「あなた、役場で会った、復帰したの?」


 「はい、今回、復帰できたのは、僕と女性2人でした。後は、処分が下され、こちらの領土には戻れませんでした」


 「そう、役場に戻ってどう思いましたか?」


 「はい、皆さん、僕たちが働いていた仕事の、何倍も抱えて、その仕事をしていました」


 「そうね。彼女たちは、本当に優秀で、わたくしの期待にいつも答えてくれています」


 「今回、新しく配属されて職員たちは、きっと、役人の中でもエリートと認められた人でしょう。その中で、わたくしについて、やっていく自信はありますか?」


 「はい、ご期待に沿えるようにやり切ります」


 「では、この固まっているのが、セメントです。アパレル国から輸入しています。詳しい内容は、屋敷に戻ってからにしましょう」


 コウシャ、エフピイも加わり、サルベーセンは、詳しい内容の説明をした。


 「この屋敷からは、3,4kmあります。歩けば1時間はかかり、暑い夏が来ると馬車がなければ町には出れません。しかし、わたくしは、馬に乗る事は、出来そうにないので、歩道を使って、下ろうと考えます」


 「わたくしが、一度、下ってしまえば、この歩道を使う事はありません。その後は、誰が通っても構いません。言い換えれば、馬車の往来を気にせずに領民たちは、安全に歩ける道が出来るのです」


 「これから、わたくしの屋敷への道は、たくさんの馬車が通ります。その度に、子供や女性、老人たちは、怯えながら道を下らなければなりません」


 「わかりますか?」


 そこにいる3人とリリアールは、黙ったまま、サルベーセンの話を聞いて納得したように思えた。


 「確かに、町からこの屋敷までは、距離があり、これからも大勢の来客があると予想される」


 「サルベーセン様、私は、気が付きませんでした。自分が情けないです」


 「責めているのではないの・・、気が向いた時に、町に出向きたいと思って、それだけです。あなた達もずっとここにいるとは、思えないし、ケンティも、いつ、帰って来るかわからないから・・、町まで行ったら、誰かがきっと送ってくれるでしょ?」


 「ーーーーーー」


 すっかり、落ち込んだ空域を一新するには、お茶を一杯飲んで、台車型トロッコの説明に入った。


 「トロッコの道は、タイヤが外れないように、コンクリートに溝を入れて行きます。そして、何よりも大事なのは、ブレーキです。速度は押さえて下りますが、とっさの場合、ブレーキが必要です」


 「それは、一人乗りですか?」


 「はい、帰りは、馬車に乗せて欲しいので、小型です。一方通行なので・・・」


 「図にしてあります。全体的には、このようになると良いと思います」


 4人は、それから、色々な話し合いをして、新しく加わった若い青年のサチスタは、本当に使える青年で、計算は早くて、理解力も想像力もあり、そして、仕事も丁寧だ。


 夏前に、工事が終了したのは、サチスタの功績が大きいだろう。初めて、トロッコを試運転するときには、領土中の住民が、見学に来て、ケンティとマリヒューイも、リカの国から駆け付けた。


 「先生、本当に大丈夫ですか?」


 「大丈夫よ、昨日の夜、サチスタとエフピイは、何度も体験しているのだから、間違いはないはず・・よ。多分・・・」


 サルベーセンの乗ったトロッコは、ゆっくりと、坂を下り始め、街頭に並んだ領民からは、大きな歓声があがり、途中、何度もブレーキテストを繰り返しながら、目的地の町の入り口まで到着した。


 迎えてくれたのは、市場の人、役場の人や工事関係者、そして、ベーグン領の人達も驚いたように拍手をしてくれた。


 「やった!! 成功です。これなら、明日から、自由にここまで降りて来れます」


 「たった2ケ月で、工事を、完成させてくださった皆さんに、感謝します」


 「ありがとう!!! 」


 馬車以外の乗り物が完成するのは、こんなに嬉しい物なのか、子供たちは、一斉に、トロッコを目指して、駆け寄って来て、注意されながらも、乗ったり、触ったりしていた。


 後から馬で降りて来た、サチスタ達、工事関係者も、なぜか、感無量で泣いていた。


 サルベーセンが、大勢の人達と感動を共にした日から、数日後、また、トロッコで町に出かけて行く。

 「リリアール、意外に順調で、いいでしょう?」


 「しかし、スピードが出ると、少し、危ないと感じます」


 「ええ、だから、毎日、安全運転を心掛けています」


 しかし、リリアールの不安は的中して、サルベーセンの乗ったトロッコの車輪が外れ、トロッコは横転して、サルベーセンは、道に投げ出され、気を失ってしまった。


 「サルベーセン!! サルベーセン!! 嫌~~~誰か、助けて!!! 」


 リリアールは、周りを見るが、誰も、この道を通っていないし、例え、誰かが見えても、自分の声は、届かない!


 「どうしよう。どうしよう。わたくし・・・、どうしたら・・・」


 その時、自分の中で、どのような変化が起きたかはわからないが、『マリヒューイ!! 』と、念じて、『マリヒューイ! サルベーセンを助けて!! 』


 次の瞬間、暗雲漂う中に、リリアールが、マリヒューイの元に現われて、マリヒューイは、驚いて、「ーー何かあったのですか?」


 「マリヒューイ! サルベーセンを助けて、トロッコの車輪が外れて、サルベーセンが・・、投げ出され、動かないの・・。どうしよう。サルベーセンが・・・・。お願い、助けて! 」


 マリヒューイは、急いで、現場に現われて、サルベーセンを抱きかかえたまま、リカの国に戻った。


 「誰か~~! 誰か急いで来て! 長老を呼んで!! 」


 長老たちは、大勢駆け付け、治療に入った。幸い、サルベーセンは、軽い脳震盪と捻挫だったが、大事を取って、そのままリカの国で、休むことになった。


 その頃、サルベーセンが、町に来ない事を心配して、エフピイは、屋敷までの道を急いて登って行った。


 「嘘!! トロッコが・・・・!! 大変だ! 」


 屋敷内の仕事は当番制で、今日、家事を担当している部下に聞いても、


 「サルベーセン様は、随分前に、町に向かいました」とだけ答えた。


 「どうしよう、サルベーセン様が、行方不明です」


 「え!!! そんな・・・。どこへ・・・」


 激震が走るとは、きっとこのようで、直ちに、領土中に知らされ、捜索が始まり、コウシャは、王宮に早馬も出し、ルイ国王陛下に、告げた。


 サチスタは、壊れたトロッコの車輪を見て、

 「誰かが、車輪に細工しています。ここの支柱は曲がっても折れる事はありません」


 「その事も、調べるが、まずは、サルベーセンを探し出す事が大切だ」


 二人は、暗い表情を浮かべながら、サルベーセンの屋敷内の探索にあたった。


 大騒ぎの中、当番シスターは、このようなパニック状況に耐えきれなく、過呼吸を起こしながら、エフピイの机の上にあるメモを手に取る。


 『サルベーセンさんは、無事ですが、大事を取ってこちらで療養しています。どうか、ご心配なさらないで下さい。  マリヒューイ。』


 「あああぁ、神様! ありがとうございます。隊長!! エフピイ隊長! メモ、メモがありました」


 メモを片手に、泣きながら駆け寄って来る部下を見て、コウシャとエフピイは、自分たちも急いで駆け寄り、メモを見る。


 「これだけ?容態は?ご容態はどうなの?」


 「・・・このメモだけが、ありました」



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