復職、副業、専門職
第55章
イカルノは、王都に戻る前に、久しぶりに、エフピイと話す時間を取った。
「ーーー明日、船で戻る。軍隊は、今後もベーグン領に駐留して、隣国からの侵略を防ぎながら、テン・ヴィンの町や、イレブン・ヴィン領も守って行く。勿論、君たちが、守るべき人は、サルベーセンさんだろうが、ジンの部隊や難民なども、助けてやってくれ! 」
「はい、わかりました。・・・王都の孤児院の方は、どうなっていますか?」
「ああ、みんな、寂しがっているよ。しかし、新しいシスターたちも頑張っている。大丈夫だ。彼女たちの憧れは、今も、変わらずエフピイ部隊だ」
「私の部隊は、ここイレブン・ヴィン領です。彼女たちの憧れの、王宮ではありません」
「ーーエフピイ、その事は、大丈夫だ。きっと、最後は、いい方向で決着すると、私は、信じてる」
「それは、どういう事でしょうか?」
「ふふ、エフピイ、僕は、ずっと、待っている。あの日、約束した誓いは、永遠に有効だ」
「イカルノ・・・・」
「イカルノは、船に乗り、大きくエフピイに手を振り、ふたりは、昔に戻ったように、笑いながら別れていたよ」と、リリアールは、サルベーセンに、密告した。
「キャー!! あの二人、やっぱり恋人同士だったんだね。敵ではなかったんだ! 」
「まぁ、色々な誤解があったんだろうけど、ずっと、互いに好きだったんだね。感動したよ」
「まさか、直ぐ近くで、涙を流してリリアールが見ているとは、気づかずに・・・。ほんと! 申し訳ない」
「まぁ、それは、そうだね」
「それにしても、リリアールは、また、行動範囲が広がったよね?」
「でも、まだ、隣の領土まではいけない。今の軍隊を、見てみたいのに・・、残念」
「あなた、本当に、軍隊を見たいの?それとも・・・、勇敢な戦士の・・・・?」
「サルベーセン、そこは、否定しませんが、まだ、そこまで、本当に、たどり着けません!! 」
「ハ八ハハ、残念だね」
「さぁ、今日は、町に行きましょう。ここの工事の邪魔になるからね」
「ええ、流石に、早いよね。薬局の工事が止まってから、屋敷の増築に大人数で取り掛かって、家具まで出来上がっていて、ここの大工って、きっと、王都より優秀だよね」
「ええ、わたくしの注文で、件数を粉しています。慣れていると言えるでしょう」
エフピイは、朝から役場に出勤して、きっちり、金勘定をしながら、町の治安を守る為に働いているが、サルベーセン専用に2人の部下を残してくれていた。
サルベーセンは、増築中、毎日、薬局の工事に指示を出し、病院や公園のイメージを描いたり、市場をブラブラして、安くなった食料を購入して、役場で、炊き出しをしている。
「サルベーセンさん、今日も大量に食料を購入しましたね?」
「ええ、どうせ、捨てる食材なら、暖かく煮て、食べましょう。本当にカオ国の燃料って便利よね」
「サルベーセンさん! 先生!! 」役場に着くとケンティとマリヒューイが、待っていて、
「どうしたの?」
「はい、長老たちと様子を見に来ました」
サルベーセンは、長老たちや大勢のリカの国の人達と再会を喜び、
「今、隣の領土と、隣の国の事で、少し大変になっていて、薬局が出来るまでには、安全な町にするから、もう少し待っていてね」
「大丈夫です。兄上から聞いています。大変でしたね。・・・・その食材は?」
「今、役場に、ベーグン領から避難している人達がいて、気の毒だから、暖かい食事を差し入れしているのよ」
長老たちは、「私たちも、お手伝いします」と、言ってくれて、みんなで役場に向かった。
役場では制服姿のエフピイたちが、ジンの部隊に次々に指示を出し、階級の差を見せつけていた。
ケンティが、
「ジンさん達・・・・」と、言う口を、長老に塞がれ、その後は、無言を通した。
主に、女性や子供、病人やお年寄りを受け入れていて、材料と火があれば自分たちで、料理も出来る。お風呂は、いつもの様に、大工達が、作ってくれて、洗濯も自分たちで出来ている。
長老が、
「予防のために、大きな鍋に煮込んで、適当に味付けをした鍋に、薬草を入れてくれた」
味見をしてみると、体が芯からあったまって、これで、寒い夜も越せそうだと思った。
「この薬草、本当にいいですね」
「はい、勿論、サルベーセンさんにもお分けします」
「あ~~、早く、薬局が出来て、色々な薬草が買いたいです」
「先生、僕も、毎日勉強してます。だから、先生が欲しい物、届けられると思う」
「そうなの?本当に期待しているからね」
ケンティが、
「ここに来る前に、先生の家に寄ったけど、大掛かりな工事が始まっていて、入れなかった」
「大工さんたちには会った?」
「うん、薬の勉強しているって、言ったら、その勉強が終わったら、大工の勉強を教えてくれるって、言っていたよ」
「あら?それは大変だ。また、跡継ぎ問題が・・・・」
「ーーーーーー」
「長老たちは、今日、お帰りになるのですか?」
「ええ、そのつもりで出て来ています」
「そうですか、よろしかったら、我が家にお泊まりになりませんか?エフピイ達は、現在、役場で寝泊まりしていて、家の方の警備は手薄ですが・・・」
マリヒューイが、ニコニコしながら、
「警備の心配はありません。長老たちは、どうでしょうか?」
「ええ、他国に来るのは初めてで、直ぐに戻るのも惜しいです。お願いできますか?」
「ええ、どうそ、屋敷は、少しバタバタしていますが、今では、たくさんのお客様をお招きできる程に、部屋数を増やしました」
「本当に、大きなお屋敷になっていて、ビックリしました」
「そうでしょう。実は、私も、あららしい屋敷に個室を別に作りました」
「もう、キッチンで寝ていないのですか?」
「はい、防犯上、どうしてもやめて欲しいと、エフピイたちに懇願されて、増築するよりも、新たに建てました」
「だから、前の家がそのままで、ケンティの家も大きくなっていて、エフピイ達の宿舎もあって、それに、新築の屋敷まで建設しました。今は、外回りの小屋の移動などが工事中です」
「だから、今では、一つの村ぐらいあります。もちろん、マリヒューイの部屋も残してありますよ」
「ありがとうございます」
「必要なものは、常駐の大工に言えば、何でも作ってくれますよ」
話を聞いて、長老達は、興味を持ったらしく、皆んなで、屋敷に移動する事になった、
「ケンティ、エフピイに伝えてきてくれる?」
「はい、」
エフピイは、ケンティから話を聞き、ジンに仕事を頼み、一緒に帰宅した。
「仕事は大丈夫?」
「私の本職は、サルベーセン様をお守りすることで、アチラは、副業です」
「副業だけど、一番、偉いんですね」と、ケンティは、ハッキリ聞いていた。
「そうです」と、エフピイも、にこやかに、答えている。
みんなは、「ふふふ」と笑って、それ以上は、追求しなかった。
マリヒューイの一行は、20人ほどで、それぞれの建物の個室に入っても、余裕があった。
「先生、すべての部屋の内装は、昔のイカルノさん達の部屋と同じですね」
「そうなの、わたくしが、頼んだのではないですが、そうなっていました」
「1階の部屋には、すべてお風呂が付いています。ケンティ、使い方を、皆さんに教えてあげてください。少し、のんびりして、夕食は、新築の屋敷の方でお願いします」
「必要なものは、彼女達におっしゃって下さい」
「・・・・・・」
長老や、リカの国の人達が、戸惑っている事が、ハッキリとわかる。エフピイ達も初めて、入室した時には、驚いて、言葉を失っていた。しかし、ここの大工達は、風呂つき1LDKが、サルベーセンの基本スタイルと、刷り込まれていて、家具もシンプルで、クローゼットがあり、壁には収納が設置され、ベットの下には、収納がついていた。そして、すべて、同じ内装。
リリアールが、初めてエフピイ達の宿舎を見た時に、
「彼らは、この部屋しかできない大工になってしまったの?」と言っていたのを思い出した。
「風呂つきの部屋専門の大工たち」